早期治療をすれば早期復帰できるとは限らない…産業医が見た「コロナ後遺症社員」の"意外な回復プロセス"

2024年2月14日(水)7時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kk-istock

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新型コロナウイルスの後遺症は仕事にどう影響するのか。2023年は1250件の面談をした産業医の武神健之さんは「昨年の面談の中で印象的だったのは、コロナ罹患後に症状が続いてしまう人たちとの面談だった。その症状も治療期間も実に多様だった」という——。
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■コロナ罹患から2カ月後にやってきた30代男性


私は産業医として2023年は1250件の産業医面談をしました。昨年は、コロナ禍に始まったリモート面談よりも対面での面談が多くなり、産業医的にもポストコロナの到来を実感した一年でした。


それでも、昨年の面談の中でも印象に残っているのは、新型コロナ感染症に関するものでした。コロナに関する理解が進み、病気の不安や疑問などの面談、コロナに感染した人との面談などは減った一方、コロナ罹患(りかん)後も症状が続いてしまう人たちとの面談があったのです。


今回は印象に残ったコロナ後遺症2例をご紹介させていただきます。


1例目は30代の男性、勤続年数6年のAさんです。コロナにかかってから、会社に来たり来なかったりの社員がいると部門から人事に連絡がありました。産業医面談に彼が来たのは、コロナ罹患後2カ月ほど経ったところです。


■熱が下がっても疲れやすい状態が続く


彼に話を聞いてみると、コロナで3日ほど高熱が出ていた間は会社を休んだが、その後は仕事がたくさんあったので頑張って出社していた。だが、1週間ほど経つとまた熱がぶり返し、その後、平熱になってもとても疲れやすく頭がもやもやする状態が続いているとのことでした。そして今は体調に問題なく出社しても、忙しい日は午後になると頭が重くて回らなくなり早退したり、1日働けたとしても翌日は朝から全身に力が入らず休んだりすることを繰り返しているといいます。


本人もこの状態をおかしいと感じているものの、熱はなくコロナはもう治っているはずで、自分としては怠けているのではないが、チームに迷惑がかかっていることや、同僚たちからどう思われているのか気になってしまうとのことでした。なお、仕事は忙しいがストレスではなくやりがいを感じている、職場に特にストレスを感じる人はいないとのことです。


産業医面談ではコロナ後遺症の可能性があるので、後遺症外来を受診することをお願いしました。その後Aさんは通院治療をしながら、3カ月間ほど時短勤務や在宅勤務を併用して回復。現在は症状もなくなり、元通りに働いています。


■「メンタル不調」と誤解する人もいた


厚生労働省のホームページでは、コロナ後遺症は「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に罹患した人にみられ、少なくとも2カ月以上持続し、また、他の疾患による症状として説明がつかないものである。通常はCOVID-19の発症から3カ月経った時点にもみられる」ものと説明しています(厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)に関するQ&A」2024年1月31日閲覧)。


その症状は多彩で、代表的な症状は、疲労感・倦怠(けんたい)感、関節痛、筋肉痛、咳、喀痰、息切れ、胸痛、脱毛、記憶障害、集中力低下、頭痛、抑うつ、嗅覚障害、味覚障害、動悸(どうき)、下痢、腹痛、睡眠障害、筋力低下などがあります。


また、症状は、罹患してすぐの時期から持続する症状、回復した後に新たに出現する症状、症状が消失した後に再び生じる症状もあるとしています。


私が昨年面談をしたコロナ後遺症の人の半分ほどは、実際は一度コロナが治り普通に出社して働き出してから、1カ月以内に再び体調が悪くなっていました。一度治っているため、本人もこれがコロナ後遺症とは思わず、単にやる気がないのだと思っていたり、出社できないのに明確な病名がつかない状態を見て、同僚や上司たちの中には“メンタル不調”と誤解する人もいました。


写真=iStock.com/maruco
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco

■原因不明の不調で力尽きた社員が相談に来た


実際に、コロナ後遺症の症状は、嗅覚味覚障害以外は、いわゆるメンタル不調者が呈しても違和感のないものです。症状を呈した本人も、メンタル不調とは思いたくないものですが、最初からコロナ後遺症とは気がつきません。もちろん周囲も、コロナ後遺症だとは思いつきません。


このような中、誰にも言えず頑張るものの、とうとう力尽きて出社できなくなったり、周囲の目にも不調が明らかになり医者や産業医にくるパターンが印象的でした。


どのような病気も、早期治療が大切なのは言うまでもありません。無事に治った人に関しても、もっと早く気がついて治療を開始していたら……と思わずにはいられない経験を多くしました。


一方、早くにコロナ後遺症の可能性に気がつき専門家を受診した人でも、大事をとって休職をすれば、必ずしも早く治るわけではないというのが、コロナ後遺症の難しいところでした。


■2次的にメンタル不調になる可能性も十分にある


2例目のBさんは、50代で勤続10年以上のベテラン女性社員でした。コロナに罹患した時から倦怠感と息切れがひどく、かかっていた近所の内科医の勧めもあり、コロナ専門外来に早期から通院していました。しかし、2週間経っても症状は軽快せず、コロナ後遺症の診断書を会社に提出し休職することとなりました。


休職開始後、月1回産業医面談を行っていましたが、2カ月を過ぎる頃から、Bさんは睡眠障害、抑うつ気分、集中力・記憶量の低下を自覚するようになりました。いずれもいわゆるメンタル不調者に頻繁に見られる症状でもあります。


コロナ後遺症により働けず休職していることが、Bさんには大きなストレスでしたので、それが原因で2次的にメンタル不調となった可能性も十分ありました。一方、コロナ後遺症の症状として、これらの症状を呈しているだけの可能性もありました。また、両方の可能性が混在していてもおかしくはありません。


Bさんは主治医の内科医と産業医のアドバイスに従い、可能性があるならばと心療内科を受診し、投薬治療を始めました。すると1〜2カ月ほどで症状は改善しはじめ、倦怠感や息切れもなくなり、心療内科の薬も終わり復職となりました。


写真=iStock.com/Chinnapong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chinnapong

■心療内科の受診が早期回復に結びついた


今でもBさんの症状が、2次的な精神疾患だったのか、コロナ後遺症の症状だったのかはわかりません。しかし、Bさんがメンタル不調症状を呈してから、治療のためにすぐに心療内科も受診してくれたことは、良かったです。原因の由来を考えるよりも、良くなって復職するためにはできることはなんでもする、というBさんの姿勢が、早期回復に結びついたと感じました。


新型コロナ感染症という病気に対する理解は、この3〜4年間でだいぶ進んだと同時に、人々の持つ病気への恐怖も減ってきたと思います。昨年の産業医面談では、コロナ対策や不安対処法を相談しにくる人はあまりいませんでした。


昨年5月のコロナ第5類移行後は、新型コロナ感染症は、感染者も(社会的)隔離されることがなくなったので、より“普通の”風邪に近く扱われるようになりました。クライアント企業でも、コロナにかかったことのある人の話を普通に聞くようになり、ニュースにならないものの患者数の増加を感じました。多くの人は軽症で、熱もあまり出なかった印象です。


一方、罹患後しばらく咳や痰が続く人、疲れやすさや体調不良がなくならない人などもいて、この病気にかかった時の症状や治療にかかる期間は多彩でした。患者数の増加とともに、後遺症の相談もコロナ1〜2年目よりも増えた印象です。コロナ罹患後も症状が続く(いわゆる後遺症)人が、数カ月間面談に来ることもありました。


■制度上は「他の病気と同様の対応」で問題なかった


私の個人的経験からは、コロナワクチン接種の有無や回数、ワクチンメーカーの違いなどは、コロナ後遺症になるか否か、治るまでにかかる時間は、あまり関係がないと感じました。


また、私のクライアントでは、新型コロナ感染症やその後遺症を特別な病気として扱うことなく、他の病気と同様に会社の(失病による)休職制度の中で扱いましたが、それで特に問題は生じませんでした。


最近は新型コロナ感染症にまつわるニュースも減り、2024年はようやくポストコロナの時代となりそうです。そしてこのまま、新型コロナ感染症は、普通の病気(風邪)として扱われていくのだろうと感じます。


また、ポストコロナの新しい働き方として、私のクライアントにおいては週5日出社の会社から2〜3日の出社を義務付けている会社、月の50%出社というルールにした会社など、様々な働き方が生まれました。社員たちは、それぞれに順応していると感じます。


2024年は、コロナのような病気が蔓延しないことを願いつつ、今年も働く人たちの心と体の健康をサポートさせていただこうと思います。


(※注意)新型コロナ感染症に関しては、まだわかっていないことや、明らかなエビデンスがない状態です。この病気の認識や対処方法に、個人や社会でも違いがあります。今日の話はあくまでも、産業医の経験での話です。ご理解ください。詳しい情報を希望する方は、「厚生労働省 コロナ 罹患後症状」で検索してください。


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武神 健之(たけがみ・けんじ)
医師
医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、BNPパリバ、ムーディーズ、ソシエテジェネラル、アウディジャパン、BMWジャパン、テンプル大学日本校、アプラス、アドビージャパン、Wework Japanといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』などがある。公式サイト
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(医師 武神 健之)

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