志望校選びでも、塾選びでもない…子どもに中学受験をさせると決めた親が「最初に絶対やっておくべきこと」

2025年2月16日(日)8時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Inside Creative House

中学受験は早く志望校を決めたほうが有利なのか。プロ家庭教師集団名門指導会代表の西村則康さんは「志望校対策として過去問を解くのは適切な時期に行ったほうがいい。早すぎると逆効果になることがある」という——。
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■「過去問解禁」が6年生の2学期なのには理由がある


一般的に小学4年生から受験準備が始まる中学受験。小学校生活の半分を費やすビッグプロジェクトにおいて、志望校選びは重要だ。早いうちから決めておけば、勉強に対するモチベーション維持やアップも期待できそうだし、志望校に合わせた対策をすることで入試にも強くなると思われている節がある。


確かに志望校対策、すなわち過去問演習は受験勉強には欠かせない。だが、それは「適切な時期」に行うべきものだ。人よりも早くやったところで効果は望めない。むしろ、早い時期から「志望校に合わせた学習」に走ってしまうと、失敗に終わるケースが多い。


基本的に過去問対策は6年生の2学期以降から取り組むものだ。理由はちゃんとある。進度の早い遅いの違いは多少あるものの、多くの進学塾では6年生の1学期まで入試に必要とされる単元の授業を行う。ここで全部教え切ったところで、夏休みにもう一度総復習を行い、基礎力を高めてから志望校対策へとシフトチェンジしていく。


ところが、なかには少しでも早く過去問対策に取りかかっていたほうが有利と考え、塾からの過去問解禁指示を待たずに抜け駆けをしようとする家庭がある。しかし、基礎が危ういまま、過去問に取り組むと、「表面上だけ傾向に合わせる」といった学習に陥ってしまい非常に危険だ。


■麻布を受けるとしても基礎知識は不可欠


こう言うと必ず返ってくるのが、「でも、麻布中の場合は違うでしょ?」という意見だ。男子御三家の麻布中は、塾のテキストや模試に出てくる内容とはかけ離れた独自路線の難問を出す学校として知られている。こういう学校は過去問対策が非常に重要になり、私もこれまでいろいろなところで「麻布を受けるなら過去問対策を徹底的にやるべき」と伝えてきた。こうした発信も影響してか、「麻布を受けるなら塾の勉強をしていても意味がない」と極端な考えを持つ家庭は少なくない。


しかし、どんなに塾のテキストや一般的な模試の内容とかけ離れているように見えても、中学受験に必要とされる基礎を疎かにして麻布の入試問題を解くことはできない。早い時期から過去問に取り組んだところで、麻布風のテクニックが身に付いたように錯覚するだけだ。


やはり、どんな入試傾向であっても基礎知識は不可欠で、麻布に関して言えば、それにプラスして子ども本人の生活体験が重要になってくる。例えば理科の振り子の問題なら幼少期にどれだけブランコで遊んできたか。社会の時事問題なら、日頃からどれだけ家庭で世の中について会話をしてきたか、といった生活履歴が理解の助けになる。


■「塾のテキストに乗っかるのが一番」の学校


麻布のように独自路線の入試問題を出す学校であれば、前述のような間違った勉強に走りやすいのはなんとなく想像できる。ところが最近は、大学付属校を第一志望にする家庭でも、同じような動きが見られる。


例えば明治大学明治中は、近年偏差値を大きく伸ばし、早慶に次ぐ難関大学付属中の地位にランクアップした人気校だ。そのため、受験倍率が跳ね上がり、厳しい戦いになっている。こうしたことから、早い時期から過去問に取り組ませたがる家庭が増えているのだ。しかし、明大明治中こそ、塾のテキストに沿った勉強が一番適している。なぜなら、塾で学習した内容の基礎と応用にとどまり、奇問難問は出題されないからだ。塾の勉強を丁寧にコツコツ取り組んでいくことが、実は一番合格に近づける方法なのだ。


写真=iStock.com/Hakase_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

一方、近年は中堅校を受験する家庭が増加している。はじめから、うちは中学受験で子どもを疲弊させたくないから、今ある学力で無理なく行けるいい学校があればと「ゆる受験」を選択する家庭もあれば、もともとは上を目指していたけれど、成績が伸び悩み受験校のレベルを落とすケースもある。いずれにしろ、最終的にこうした中堅校を第一志望とする場合、逆に塾のテキストの内容はオーバースペックになっていることが多いので、問題の取捨選択が重要になる。また、塾通いを始める段階での塾選びも大切になる。


■同じ塾でも校舎の規模で事情は変わる


中学受験をするからには、できれば偏差値の高い学校を目指したい。その考えはごく自然なことだと思う。そこでスタート時点は、まず難関校合格実績の高い塾へ目が向きがちだ。しかし塾の授業は、スピーディーに進み、内容も難しいため、その授業についていける子といけない子が出てくる。後者の場合、いずれ志望校の変更を考える必要が出てくるだろう。


例えば4年生から難関中に強いSAPIXに通っていたが、「何が何でも御三家」を目指したいというわけでなく成績が伸び悩んでいるなら、5年生に上がる段階で他塾へ転塾したほうがいいだろう。または、塾のカリキュラムに乗りつつも、宿題は大胆に間引きし、特別講習を受講するか否かは取捨選択していったほうがいい。でなければ、ムダに難しい勉強ばかりさせられ、ちんぷんかんぷんな状態で授業を聞き続けることになってしまう。


それでも子どもがどうしてもSAPIXに通うことにこだわるのなら、大規模校舎でクラスの数が多いところを選ぶようにしよう。こうした校舎は学力レベルが細分化されているので、そのクラスの子の学力に合った授業や宿題の量を意識してくれる講師も多い。逆に小規模でクラスの数が少ないと、そのクラスのトップの子に合わせて授業を進めていくので、難しい問題を勉強することになる。同じ塾でも校舎の規模によってだいぶ事情が変わってくることは知っておいたほうがいいだろう。


■5年生後半からは「冷静な目」で志望校選びを


では、どのタイミングで志望校を決めておくのがいいか——。


よく志望校を早く見つけておくと、勉強に対するモチベーションが上がりやすいと言われるが、正直これは人による。例えば、文化祭で訪れた学校に一目惚れし、「私は絶対に○○中の制服を着たい!」と受験勉強を頑張る子もいれば、特に志望校がなくても淡々と受験勉強に取り組み、成績を伸ばしていく子もいる。


一方、低学年など早いうちから「うちは絶対に開成中に行かせたい」と志望校を決めている家庭は少なくないが、これも子どもによって善し悪しがある。もともと勉強ができて、進学塾で常にトップクラスにいるような子であれば、ほどよい目標になるけれど、5年生後半になっても偏差値40レベルの子にその目標を掲げるのは酷だ。現実と目標に乖離があると、「どうせ僕は頑張っても受からない」と投げやりになるか、親からのプレッシャーを受け続け、自己肯定感を下げてしまいかねない。


志望校は「憧れの学校を見つけておく時期」と「現実を受け入れて受験校を決める時期」を分けて考えたほうがいい。中学受験の勉強がスタートする4年生のうちは「憧れの学校」があれば勉強に対するモチベーションにつながるかもしれない。でも、5年生後半になったら現実を直視し、「わが子の今の学力で行けそうな学校はどこか」という冷静な目を持ってほしい。


写真=iStock.com/tadamichi
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■子育てはビジネスとは違う


コロナ禍以降、リモートワークが増えたことで、子どもの受験に熱心なお父さんが増えている。こうしたお父さんは「何をすれば成績が上がりますか?」「何をすれば○○中に合格できますか?」と質問してくることが多い。しかし、子育てはビジネスのように「○○をやれば、○○が達成できる」といった単純な展開にはならない。もちろん、大前提として基礎学力を盤石にしておくことは絶対条件だが、子どもの勉強に対する興味関心、モチベーションといった気持ちの部分は、正直タイミングによって大きく変わってくるため、「運」とも言える。


例えば、子どもがたまたまご機嫌なときに、日曜大工を手伝わせてみたら、ものづくりに興味を持ち、物理分野が得意になった。戦争をテーマにしたアニメを観たあとに、戦時中の話をしてあげたら、日本史の漫画を読み漁るようになり、社会の教科が好きになった、というようなことがある。たまたま良いタイミングで話しかけたことが、子どもの勉強に対するモチベーションを上げ、成績を伸ばし、志望校への合格につながることもあるわけで、単純にひと言では語れないのだ。


それを知らずに、「エビデンス」や「コミットメント」といったビジネス用語を並べて、部下を育てる感覚で子どもの学習に関わる父親が増えていることを心配している。


■最初に重要なのは「どの塾に通わせるか」


では、親は受験に関わらないほうがいいのかというと、そんなことはない。ただ、志望校ありきの受験に走ってしまうと、主役である子どもが置き去りになってしまう危険性があることを知っておいてほしい。


「ガチ受験」であれ、「ゆる受験」であれ、今の中学受験は塾のカリキュラムに沿って勉強をしていくのが一般的だ。そこで、どの塾に通わせるかが、まずは大きな選択となる。ここでミスマッチが起きないように、慎重に選んでほしい。そして、6年生の1学期までは塾のカリキュラムに沿って学習を進め、2学期から志望校対策、すなわち過去問対策を行っていく。このステップが無理なく確実に合格に近づく。


■親は中学受験を検討する段階で過去問を見たほうがいい


ただ、そのときになって初めて過去問を見るのではなく、中学受験を検討する段階で見ておくといい。「うちは『ゆる受験』だから」と甘く見ている家庭は少なくないが、「ゆる受験」と思っている中堅以下の学校の入試ですら、「あれ? 意外と難しいな」と思うはずだ。難関校であれば、「ただ丸暗記するだけの勉強では通用しない」ことに気づくだろう。


それを親が事前に知っておけば、「中堅校なのだからこのくらいの点数は取って当たり前」などと思わないだろうし、中学受験は勉強だけでなく、親子の会話や体験といった日々の生活の積み重ねが大切になってくることに気づけるだろう。「志望校に合わせた勉強」を急ぐよりも、まずは親が「今の中学受験」を知ることが大事だ。


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西村 則康(にしむら・のりやす)
中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。新著『受験で勝てる子の育て方』(日経BP)。
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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)

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