なぜ鉄道会社には航空会社のようなステータス会員がないのか?

2024年2月17日(土)6時0分 ダイヤモンドオンライン

なぜ鉄道会社には航空会社のようなステータス会員がないのか?

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みなさんは、世の中のちょっとした変化に敏感でしょうか。数字に強い人は、ちょっとした変化に「違和感」を感じ、自分で仮説をたてて、その理由を数字で考えていきます。経営コンサルタントとしてこれまで2000社の財務分析、1000人以上のビジネスパーソンに会計セミナーを実施してきた平野薫氏は、①世の中の事象に違和感を持つ→②違和感にフォーカスする→③自分なりに仮説を立てる→④数字で根拠を分析し検証する→⑤人に話したりブログに書いてアウトプットする、という一連のルーティンを日々継続して行うことが数字に強くなるコツだと言います。まずは、「違和感」を放置せずフォーカスすることが大切なのです。本連載では、「世の中のふとした疑問を数字で考えるエピソード」が満載の話題の書籍『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』から一部抜粋し、数字に強くなるエッセンスをお届けします。

Photo: Adobe Stock

航空会社はステータス会員があるのに鉄道会社にはない

 飛行機での移動を年間60〜70回しています。それだけ利用しているので、航空会社のステータス会員になり優先搭乗や特別なラウンジを使用できます。このように航空会社は利用実績に応じてステータス特典が増えていきます。

 しかし一方で鉄道会社はどうかというと、最近ではJR各社でのポイントがありますが、使用用途は航空会社のマイルと比べると限定的で、ステータス会員というようなものがほとんどありません。JR西日本でJ-WESTプレミア・プログラムというものがありますが、航空会社のステータス会員と比べてメリットはだいぶ少ないのが実情です。

高速鉄道はJRの独占で競争がない

 なぜ鉄道会社には航空会社のようなステータス会員がないのでしょうか?

 一言でいうと競争が無いからです。

 航空会社は同じ路線でも国内では多くの場合JALとANAが飛んでいます。お客さんは2つのうちどちらか好きな方を選べば良いわけです。航空会社としても自社を選んでもらいたいので、必死に自社を利用してもらえるようにお客さんの囲い込みを行います。利用する側としてみると、どちらか一方に集中させた方がステータスも上がります。

 またステータス会員になった後にも、特別なラウンジの利用などはその航空会社の便を利用する際にしか使えませんので、特典を享受するためにも特定の航空会社を継続的に利用します。時折、JALとANAのどちらもステータス会員というとても羨ましい方もいますが、一定以上のステータスは毎年利用のハードルをクリアする必要があるので、結局はどちらかの利用に集中することになります。

 一方で、鉄道会社はどうかというと、大都市圏はJRだけでなく私鉄もありますが、長距離を移動する高速鉄道はJRの新幹線一択です。飛行機は東京(羽田・成田)と大阪(伊丹・関西)を結ぶフライトで見ると、JAL・ANAだけでなくスターフライヤーやピーチ、ジェットスターなど5社が就航しており、競争環境がだいぶ異なります。

 高速鉄道で競争が起きない理由は投資額の大きさにあります。2030年末に開業を目指している北海道新幹線(新函館北斗−札幌間)の建設費は約2兆3150億円中央リニア新幹線(品川−名古屋間)においては建設費約7兆400億円が見込まれています。更に新幹線16両1編成約40億円の車両本体の投資も発生します。

 一社独占であっても投資額の回収までかなり長い期間を要します。新規参入して競争すれば収益が悪化することは明確であり、そのような状況で投資リスクを負える企業はほとんどありません。また国が認可することもないと思います。

 一方で飛行機の投資額はボーイング737シリーズで約150億円、ボンバルディアなどのリージョナルジェットで50〜100億円となっています。予備機も含めるとその数倍の投資額となりますが、高速鉄道の投資額と比較すれば少ない金額です。

 フジドリームエアラインズは静岡の物流会社である鈴与、アイベックスエアラインズは会計システム会社の日本デジタル研究所(JDL)の子会社ですが、企業の多角化の一つとして始めることができるレベルの投資額に収まります。このように高速鉄道と比較して投資額が小さいため新規参入が増え、航空会社は競争が激しく、ステータス会員やマイルでお客さんの囲い込みに必死になるわけです。

東海道新幹線はドル箱

 高速鉄道は投資負担は重いものの、競争が無いこともあり、鉄道会社は航空会社と比べて利益水準は高いです。上の図はドル箱の東海道新幹線を抱えるJR東海とJAL・ANAの経常利益を比較したものです。コロナの影響が無い2019年3月期の数字を見てもJR東海一社でJALとANAの経常利益の合計の2倍の水準となっています。

 日本国内の一部地域でしか運営していない企業ですが、国際線も含めた日本のツートップの航空会社を遥かに凌ぐ利益を叩き出しています。いかに独占し競争環境が無いことが収益面でメリットがあるか理解できますね。

博多駅・小倉駅にラウンジがある理由

 JRは航空会社のようなステータス会員向けのラウンジは基本ありません。しかし、例外的にあるのが、博多駅と小倉駅にあるプレミアルームです。前述のJR西日本でJ-WESTプレミア・プログラムの利用頻度によるステータス特典として利用が可能です(東京駅のビューゴールドラウンジの利用条件はゴールドカード+グリーン車・グランクラスチケットなどでステータス会員とは異なります)。

 なぜ博多駅・小倉駅のみラウンジがあるかというと、航空会社との競争が激しいエリアだからです。福岡空港は博多駅まで地下鉄5分という距離に所在し「世界で最も都心に近い空港」と言われています。都心へのアクセス抜群の高速鉄道も、意識せざるを得ない強力なライバルと見ているのでしょう。

(本原稿は、平野薫著『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』を抜粋、編集したものです)

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