米国での成否を握るアウトソースセールス 日系企業が頼るべき相手は「ブローカー」「セールスレップ」のどちらか?
2025年2月17日(月)4時0分 JBpress
日本食ブームが世界で広がる中、米国進出を目指す日本企業は商習慣や規制など多くの課題に直面する。本連載では『日本企業が成功するための米国食農ビジネスのすべて 商流の構築からブランディングまで』(石塚弘記、關優作、田中健太郎著/翔泳社)から、内容の一部を抜粋・再編集。進出に成功した日本企業や参入を支援する企業へのインタビューを中心に、巨大市場攻略のポイントを明らかにする。
今回は、日本企業による米国市場進出の成否を左右する「アウトソースセールス」(営業力の外注)について、その種類と違いを解説する。
日系企業躍進の鍵を握る「アウトソースセールス」の存在
■営業力を外注する
さて、少し遠回りになってしまいましたが、「ネットワークを活用する」とはどういうことか。それはつまり、「営業力を外注する」ということです。
具体的には、「ブローカー」、「 セールスレップ」と呼ばれる存在です(図7-1、本章ではこの2つの存在を「アウトソースセールス」と呼びます)。
アウトソースセールスは、知見とネットワークを活用して、メーカーの代理として新たな販路を開拓したり、既存導入店舗の売上を増加させたりする役目を担います。
私たちが知っているアウトソースセールスの方々を見ると、小売店のバイヤー、ディストリビューターのカテゴリマネージャー(各商品カテゴリごとにラインナップを決定する責任者)、メーカーの営業担当などの経験を持つ場合が多い印象です。基本的に彼らが商流に関わることはなく、人的リソースおよびサービスのみを提供する存在です。
すべての食品メーカーがアウトソースセールスを使っているのかと言うと、もちろんそんなことはありません。非常に革新的でこれまでにないニーズを拾える商品があれば、バイヤーの方からアプローチがあるでしょう。また、非常に経験豊かでネットワークのある営業員を雇うことができれば、自力で営業活動していける可能性があります。
しかし、私たちが接触している日系企業の多くは、この部分に課題を抱えています。米国では当然、言語の壁もありますし、食文化も日本とは全く違うものです。
加えて、前章までで概観した通り、米系マーケットは商慣習や費用感が日系マーケットと全く異なります。よって、業界をよく理解するセールスパートナーの存在は、勝率に大きく影響すると考えられます。
私たちとしては、適切なアウトソースセールスとパートナー関係になることは、日系企業が米系市場を攻める戦略に大きな影響を与えると考えています。
■ブローカーとセールスレップの違い
私たちも取り組みを始めた当初から、アウトソースセールスの存在をしばしば耳にしていたのですが、なかなか実物と接触する機会がありませんでした。しかし、約1年後、初めてアウトソースセールスと接触し、その後たくさんのプレイヤーとネットワークを築きました。その結果、ひと口にアウトソースセールスと言っても、様々なレイヤーがあることが分かりました。
セールスレップとブローカーは、重複した業務領域を担当しつつも、実際には異なる動きをします。
では、この2つの違いは何でしょうか? 最も大きな違いは「メーカーとの距離の近さ」だと言えるでしょう。
セールスレップは、あたかもメーカーの一営業員であるかのように振る舞います。例えば、メーカーのドメインを使ったメールアドレスで連絡をとったり、メーカーの名刺を持って小売店へ営業に行ったりします。
当然、セールスレップは1社だけでなく複数社の商品をrepresent(アウトソースセールスがメーカーの営業を代理すること)していますが、ある1社の営業員として営業活動をしている間は、他のメーカーの話はしません。
一方でブローカーは、メーカーの営業員としてではなくブローカーとして小売店のバイヤーと接するので、自身が担当する複数のメーカーが持つすべての商品について話をします。どちらの方が交渉の密度が高くなるかはお分かりでしょう。
2つ目の違いとして、「業務領域」が挙げられます。
ブローカーは、担当するメーカーの「売上を最大化すること」が目標です。言うなれば、ブローカーの機能は「セールス」そのものに終始します。
一方でセールスレップは、売上を最大化するための付随業務も、メーカーの一員として行ってくれる場合が多いです。
例えば、商品が米国に輸入される必要があるならば、輸出や認証の取得ができるプレイヤーを一緒に探してくれます。米国内でレンタル倉庫や宅配業者を探す必要があれば、懇意にしている3PL(サードパーティー・ロジスティクス、物流業務を受託するサービス)のセットアップを一緒にやってくれます。
ただし、あまり杓子定規に語ることはできず、ブローカーと名乗っていても付帯業務を一緒にやってくれるケースもありますし、境界線は曖昧です。コミュニケーションをとって、各プレイヤーの業務領域を確認していくほかありません。
3つ目の違いとして、「ステージ」があります。
2つ目の違いと同様に、プレイヤーごとにカバー範囲が異なるため一概には言えませんが、セールスレップは、比較的アーリーステージから食品メーカーをサポートする存在であることが多いです。
上記の通り、原則としてブローカーの機能は「セールス」そのものに終始するため、小売店から注文が入ったらすぐに商品が流れる状態になっていることが、ブローカーがメーカーを担当することの前提となります。
つまり、小売店からの注文が入ったらすぐに出荷できる在庫が米国内にあること、ディストリビューターとの取引があることです。これは、これから米国進出をしようと思っている方々には少しハードルが高い前提条件であるかと思います。
一方で、セールスレップは、ディストリビューターのセットアップ含め一緒に対応してくれるケースが多いため、米国未進出の日系企業には心強いパートナーになり得るでしょう。
アウトソースセールスとのつき合い方については、第5章のインタビューに登場した久世直樹社長が、次のように語っています。
—— ご存じの通り、アウトソースセールス各社は、それぞれカバーエリアやネットワークのある小売店、取扱商品カテゴリ、顧客セグメントなど特徴があります。
安易に、ここのブローカーが良いという評判や、その会社の規模などで決める前に、自分たちの商品をどのセグメントの消費者に届けたいのか、そういうセグメントが集まる小売店やスーパーマーケットはどこかなどを事前に検討したうえで、相性の良いアウトソースセールス企業を選択することをおすすめします。
私たちは流通を担ってくれる問屋が決まる前にブローカーを採用してしまい、失敗した経験があります。それぞれの小売店やスーパーマーケットの多くは懇意にしている問屋が数社あり、流通してくれる企業があって初めてブローカーが活きてきます。
私たちが大事にしていることの1つは、ブローカーに完全に任せず、販売戦略を自分たちで作り、顧客開拓状況などをブローカーに逐一確認することです。できるだけこまめにブローカーと連絡を取り合い、戦略や新商品情報、問屋情報などを伝えますし、現在どのような小売店、スーパーマーケットやレストランなどにアピールしているのかなど報告を受けるようにしています。——
<連載ラインアップ>
■第1回 オレゴン州政府も応援した「久世福商店」のサンクゼールは、いかに米国市場を開拓したか
■第2回 「米国人も大学芋が好きなんだ」サンクゼール副社長が飛び込み営業で体得した、無名の企業が泥臭くやるべきこととは
■第3回 米国での成否を握るアウトソースセールス 日系企業が頼るべき相手は「ブローカー」「セールスレップ」のどちらか?(本稿)
■第4回 伊藤園の北米法人CSOが明かす なぜ「お〜いお茶」ではなく新ブランドで米国市場に進出したのか?(3月3日公開)
■第5回 はくばくの乾麺はなぜ全米でヒットしたか? キーマンが明かす「ホワイトスペース」「パッケージデザイン」の重要性(3月10日公開)
■第6回 くら寿司、創味食品が米国で成功している秘訣とは? 海外進出支援のプロが語る日本企業に必要な3つのこと(3月17日公開)
※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者をフォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
●会員登録(無料)はこちらから
筆者:石塚 弘記,關 優作,田中 健太郎