「片付け」より「早起き」よりはるかに重要…子供時代に身に付けなければ"人生が手遅れになる"しつけの種類
2025年2月28日(金)17時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu
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■「生活習慣の改善」は後からでも叶う
小学生の子どもを持つ親御さんから、よく以下のような相談をいただきます。
「子どもが早起きしない」
「時間ギリギリまで準備をしない」
「散らかった部屋を片づけない」
「家の手伝いをしてくれない」
たしかに毎日のように「早く起きなさい!」「部屋を片づけなさい!」と、子に繰り返すことは親にとって大きなストレスになっています。
ただ、アメリカ心理学会の調査レポートによれば、例えば仕事で早く起きる必要があるといった明確な動機づけがある場合、大人になってからでも習慣の改善は可能であることが分かっています。
今、目の前の子どもが早起きや片付けができないことが、将来の大きな問題につながる可能性は高くないということです。
■科学的根拠に基づく「本当に必要なしつけ」
「子どもが早起きしない」「片づけをしてくれない」と親がイライラする理由の一つに、「自分のスケジュールを乱されたくない」という思いがある場合は少なくありません。朝、子どもを起こすのに手間取ると自分の出勤時間に影響が出ますし、部屋が散らかっていれば親が片づける手間が増えてしまいます。
こうした状況を回避したいがために、ついガミガミ言ってしまうわけです。
しかし、オックスフォード大学とハーバード大学の研究者らによる過去30年間の研究を基に分析した結果、思春期前後の子どもは体内時計が1〜3時間程度後ろにずれることが分かっており、成長とともにホルモンが安定することで、体内時計が徐々に「朝型」に戻っていくと報告されています。
部屋の片づけに関しても、大学生や社会人になってから「だらしなく見えるのは損だ」「恥ずかしい」と気づき、急に整頓好きになるケースは意外と珍しくありません。
もちろん、早寝早起きや整理整頓、家の手伝いを習慣化することが非常に有益であることは間違いありません。しかし、後述する近年の研究からは、もっと優先すべきしつけがあることがわかっています。科学的根拠を交えながら解説していきます。
■「信用こそが人生を左右する」研究データが示す真実
ビジネスや社会活動の場面で繰り返し語られてきた「信用の重要性」を、実験的に裏づける研究はいくつも存在します。
たとえば、イギリスのダラム大学ビジネススクールの研究者らによる691人を対象とした3つの研究を分析した論文があります。このなかで「信頼できるリーダーや組織に属していると、従業員は仕事へのモチベーションを高め、組織の目標達成に向けて積極的に貢献するようになる」と報告されています。
逆に、リーダーや組織が不誠実な行動をとると、従業員の行動規範が曖昧になり、組織への不信感や不満を募らせることでパフォーマンスが低下する傾向が強いというのです。
写真=iStock.com/mapo
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また、社会心理学の“初頭効果”では、最初の印象がその後の評価に大きく影響することを示唆しています。
初対面のあいさつで、「この人は礼儀正しくて信用できそうだ」という印象があれば、その後の言動についても肯定的な解釈をしてもらえる可能性が高まります。反対に、最初に失礼な態度をとったり不誠実な言動をしたりすると、後からどれほど優れた成果を出しても、なかなか信用を取り戻せないのが現実なのです。
つまり、子どものうちに「礼儀」「正直さ」「思いやり」といった人格要素を身につけているかどうかが、将来の人間関係やビジネスでの成果を左右する鍵になるわけです。
部屋の片づけや手伝いは後から取り戻せても、失った信用や大人になるまでに身につけなかった社会性を後から補うことは、想像以上に難しいのです。
■「あなたはダメな子ね」が生み出す子供の嘘
こうした“社会性”を育むうえで注意したいのが、子どもを強く否定しすぎるアプローチです。
「あなたはダメな子ね」「嘘をつくなんて最低だね」など、人格そのものを否定する表現を繰り返すと、子どもは「自分は価値のない人間だ」というセルフイメージを形成しやすくなります。
特に思春期以前の子どもは、親や教師などの身近な大人の言葉を自分のセルフイメージとして取り込みやすいので注意が必要です。否定的な言葉を浴びすぎると、失敗を恐れるあまり嘘で隠そうとするといった悪循環に陥ることもあります。
子どもに改善させたい何かがある場合、「あなたはここが良くない」とダメ出し的な指摘をするのではなく、「こうすればもっと良くなるんじゃない?」「こういう状態をつくるにはどうすればいいと思う?」という質問を交えた伝え方が効果的です。
親として伝えたい思いが同じでも「行動に問題がある」というメッセージと「あなたはダメな人間だ」のような「アイデンティティを否定する」メッセージでは、子どもの自己肯定感に与える影響が全く違います。
オランダのライデン大学による1116組の親子を対象にした10年以上にわたる大規模な研究でも、しつけの場面で“行動”への具体的フィードバックと“子どもの存在価値”をきちんと区別することが、子どもの自己肯定感を守りながら社会性を伸ばすカギになることがわかっています。
■AI社会で求められる5つの力
そのうえで、昨今の教育学や経済学の研究で、重要性が強調されているのが「非認知能力」(Non-cognitive skills)です。これはテストの点数やIQのように数字で測れない“人間力”を指し、子どもの将来の収入や幸福度、人間関係の質に大きな影響を与えると多くの学者が報告しており、ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン博士も「非認知能力こそが学業や就労だけでなく、人生の成功を左右する重要な要素である」と断言しています。
以下で、代表的な5つの非認知能力を紹介します。どれもAI社会においても選ばれる人材に共通するであろう能力です。
1.愛される人格
周囲に愛され、好感を持たれる人間性は、あらゆる場面でプラスに働きます。
Harvard Business Reviewに掲載された、トロント大学のロトマン経営大学院とデューク大学のフークアビジネススクールによる、4つの異なる組織を対象とした研究では、好感度の高い人材は、そうでない人と比較して、昇進の機会が増え、より多くのキャリア開発機会が与えられる傾向が示されています。
また同研究において、好感度の高い人材は、アイデアや提案が前向きに受け止められ、失敗に対しても比較的寛容な態度で接してもらえることが報告されています。これからのAIが発達していく社会においても「この人と一緒に仕事がしたい」「この人と仲良くなりたい」と思わせる魅力が重要でありつづけることは言うまでもありません。
2.ビリーフ——「正しい」と信じてしまっていること
ビリーフとは、本人が「正しい」と信じてしまっている根本的な思い込みを指します。「どうせ自分は失敗する」というネガティブなビリーフを持っている人は、新しい挑戦を避けてしまいがちです。
逆に「失敗しても学びがある」「失敗は勇気を出して挑戦した証拠」というようなポジティブなビリーフが形成されていれば、挑戦を恐れずにどんどん成長していくことができます。
スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授による「成長思考(グロース・マインドセット)」の研究でも、学習者が「努力すれば能力が伸びる」と信じているほど成績や自己肯定感が高まりやすいと示されています。
これはAI時代の革新的な学習環境でも同様で、ポジティブなビリーフを持っているほど変化に適応しやすいと言えるでしょう。
3.コミュニケーション能力
AIが高度な言語処理を担ってくれる時代だからこそ、「人間らしい対話」が相手に与える安心感や共感の力はむしろ際立ちます。
マサチューセッツ工科大学によって、21の組織の約2500人を対象に最長6週間にわたって、チームのコミュニケーションパターンについて調査が行われました。その結果、チームパフォーマンスの変動の35%は単に対面コミュニケーションの量だけで説明できることが分かりました。
また、声のトーン、ボディーランゲージ、対面での会話環境、ジェスチャー、会話量、傾聴度、会話の割り込みなどのコミュニケーションパターン全体が、他すべての要因(個人の知性や性格、スキル、議論の内容など)を合わせたものと同じくらいチームの成功に大きな影響を与えることが明らかになっています。
子どものころから親子の対話を重視し、「どうしてそう思う?」「相手はなんでそう考えたのかな?」と問いかけながら考えを引き出すことで、聞く力・伝える力・共感力といった総合的なコミュニケーション能力が育ちます。
AIがどれだけ進化しても、人間と人間の“情緒的なやりとり”は不可欠であると多くの研究者が指摘しており、今後もこの能力の需要は高まると予想されます。
4.目標達成スキル
目標達成スキルは、自己効力感を高めるうえで非常に重要です。AIの進化によって、単純作業やデータ分析が自動化される半面、「そもそも何を目指すべきか」「どんな価値を創出したいのか」などの目標自体を決めるのは人間の役割になります。
また、心理学者のアンジェラ・ダックワースが提唱する「グリット(やり抜く力)」の研究でも、目標に向けて努力を継続する力が学業やキャリア形成の成否に強く関連していることが示されています。
AIに情報整理を任せたとしても、最後に行動を決断し、継続するのは本人の意志です。小さな成功体験の積み重ねが子どもの「自分ならやれる」というビリーフを強化し、さらに大きな挑戦へと進む原動力になります。
5.考える力
AIに任せられる領域が増えるほど、人間には「問題を発見する」「本質を見抜く」「倫理的な判断を下す」といった高度な思考力が求められます。
AI倫理の権威者たちは「いずれAIが導き出す最適解を、人間の倫理観や価値観で判断・修正するプロセスがますます重要になる」と主張しています。
論理的思考やクリティカルシンキングだけでなく、想像力や発想力も“考える力”の一部です。
子どものころから「すぐ答えを教える」のではなく、「なぜ?」「どうすれば?」と問いを投げかけて自分で答えを導けるようサポートすることで、考える力は格段に伸びます。
AI時代に必要とされるのは、機械にはない“人間ならでは”の思考の柔軟性と創造性です。
■今しかできない「最大の投資」を
「AIが人間の仕事を奪う」と懸念される一方で、多くの専門家や有識者は「AIに代替されにくい能力」に光を当てています。
たとえば、IBM会長兼CEOのアルヴィンド・クリシュナ氏は「AIの時代において批判的思考力が極めて重要になる」と主張し、アクセンチュア会長兼CEOであるジュリー・スウィート氏は「学び続ける能力が鍵であり、学びたい人材が必要だ」と語っています。
さらに、現スタンフォード大学のAI研究所の共同設立者であり、元Google CloudのAI主任科学者でもある、フェイフェイ・リー氏は「人間の共感と愛情は、現時点では技術的にAIには再現できない能力である」と指摘しています。
またEXIN(オランダの経産省主導で設立されたITプロフェッショナル認定機関)のデジタルスキルディレクターであるスザンヌ・ガレトリー氏も「AIが発展しても、リーダーシップ、創造性、判断力、共感性などの人間のスキルは依然として重要です」と述べています。
こうした見解は、まさに先述の「愛される人格」「ビリーフ」「コミュニケーション能力」「目標達成スキル」「考える力」といった非認知能力の価値が、これまで以上に高まることを示唆しています。
人格も能力も高い人は信用されます。
そして信用される人には、人も情報もチャンスも集まってきます。
だからこそ幼少期から「正直さ」「礼儀正しさ」「思いやり」「共感力」をはじめとした、前述した5つの非認知能力を中心に据えた教育が、長い目で見て最大の投資になるのです。社会的な信用の土台をしっかり育ててあげたいものです。
■子供の「正直さ」を損なわないために
まとめ
○ 子どもがなかなか起きてくれなかったり、部屋を散らかしっぱなしにしたりすると親のイライラは募る。しかし、そうした習慣を強制的に直すことよりも、優先度の高いしつけ「“社会で信用される人間”になるための資質を育てること」がある。
○ 否定的な言葉ばかりを投げかけると、子どもの自己肯定感が傷つき、正直さが損なわれ、将来にわたって「信用されにくい人間」になるリスクが高まる。「嘘をつかず正直であることはなぜ大切なのか」「相手に失礼な振る舞いをすると何が起こるのか」といった社会性に関わる価値観を、日頃から丁寧に伝えることが最優先。
○ AIが進化するほど、人間らしさを活かせる分野や能力が注目されるのは確実。
ぜひ、子どもの未来にまで思いを馳せた「しつけの在り方」を考えてみてください。
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井上 顕滋(いのうえ・けんじ)
非営利型一般財団法人日本リーダー育成推進協会(JLDA)特別顧問
1970年生まれ。2004年 Result Design株式会社を設立。最先端の心理学および脳科学を学び、それらを融合させることで人それぞれの持つ能力を最大限に引き出す、独自の能力開発メソッドを確立。3000社以上の企業で経営者・経営幹部への指導や研修を行い、「1年間で離職率8分の1」「2年間で経常利益26.8倍」「営業成約率平均31.9%アップ」などの実績をもつ。エグゼクティブコーチ、メンタルトレーナーとしてオリンピック出場の日本代表選手や世界一に輝いたプロスポーツ選手のサポートも行っている。自らも経営者として30年以上の部下育成の経験を持つ。2011年に未来の成功者を育てるため、小学生を対象とする日本初の非認知能力専門塾Five Keysを設立。2015年には非営利型一般財団法人日本リーダー育成推進協会(JLDA)を創設し代表理事に就任。現在は特別顧問。講座などを通じてこれまで指導した小学生の保護者は4万人を超える。著書に『7つの“デキない”を変える “デキる”部下の育て方』『子育てママに知ってほしい ホンモノの自己肯定感』(ともに幻冬舎)などがある。
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(非営利型一般財団法人日本リーダー育成推進協会(JLDA)特別顧問 井上 顕滋)