約40年で自殺する子供の数は1.5倍に…なぜ日本で「子どもの自殺」が増加しているのか

2025年5月20日(火)7時0分 文春オンライン

〈 兄から性的虐待の過去を持った女性も…10代の若者たちの自殺が多発する「トー横の闇」 〉から続く


 子どもの自殺者数は約40年で1.5倍に…自殺対策基本法の改正やSNSを活用した相談体制の充実がなされているのに、なぜ子どもの自殺がなくならないのか? フリーライターの渋井哲也氏の新刊『 子どもの自殺はなぜ増え続けているのか 』(集英社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/ 最初 から読む)



写真はイメージ ©getty


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子どもの自殺はどんどん増加している


 近年は子どもの自殺の増加が目立つ。それは今に始まったことではない。厚生労働省の「自殺対策白書」で見てみると、2007年と比べて、2023年の時点で10代の自殺死亡率(10万人あたりの自殺死亡者数)は、4.5から7.5となり、1.7倍増加した。このうち男性は5.4から7.8と1.4倍増となった。一方で女性は3.5から7.2となり、約2倍増えたことになる。


 ここ数年もコロナ禍で子どもの自殺が目立った。特に2020年は高校生女子の自殺者は前年の2倍になった。しかし、コロナ禍のみが要因なのではなく、コロナ禍は子どもの自殺の増加傾向を可視化したにすぎないのではないか、と筆者は考える。


 最新のデータを見てみよう。


 文部科学省は毎年10月、「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(以下、問題行動調査)を発表している。現在の調査対象は国公私立の小学生から高校生だ。「自殺」は1974年から学校を通じて調査している(当時は文部省が調査)。当初は公立の中学と高校のみが対象だったが、1977年からは公立の小学校も含めている。2006年度からは、国立も私立も調査対象となり、2013年度からは、高校の通信教育課程も含むようになった。その意味では、データの範囲が一律ではないために単純な経年比較はできない。


 それを前提にすると、2020年度に学校が把握した自殺者数は小中高生合わせて415人で過去最多だった。高校生のみで300人を超えているのは、2023年度までにこのときだけだ。


 最新2023年度のデータでは、小中高生合わせて397人。過去3番目の多さだ。中学生(126人)は過去最多となった。高校生(260人)も過去4番目の多さである。この時代に、なぜ小中学生の自殺が増えているのか。なお、文科省調査の数字は、察庁の統計よりも少なく算出されている。


 過去に子どもの自殺が目立ったのは、1986年。この年、中学生男子がいじめを理由に「“生きジゴク”になっちゃうよ」と遺書に書き残し、駅ビルのトイレ内で自殺した。また、松田聖子2世と呼ばれたアイドル・岡田有希子が所属事務所ビルから飛び降り自殺をした年でもある。


 この年は連鎖自殺が相次いだといわれる。このときは小中高合わせて268人だったが、2023年度はその1.5倍の自殺者数だ。


 しかも、2023年度のデータを見ていると、小中高ともに、女子の自殺者数が男子を超えていることがわかった。一般には、男性の自殺者数が女性の自殺者数よりも多い。なぜなら、男性は悩みを周囲に相談しない傾向があり、かつ致死性の高い自殺関連行動を取るためとも言われているからだ。


 しかし、中学生で女子の自殺者数が男子を上回る傾向はいつからなのか?と思い、過去のデータを見てみると、2019年度は男子が46人で、女子の45人よりも1人多いが、2020年度は男子48人に対して、女子は55人と逆転。以降は、女子が多い傾向が見られる。これまでのデータを覆した。なぜなのだろうか。理由は後述する。


コロナ禍だけで説明できない自殺の増加


 2022年は新型コロナウイルスの感染拡大が続いていた時期だ。コロナ禍で人間関係のあり方が変わり、リモートで授業が行われたことの影響で自殺者数が増えたといわれている。


 芸能人などの自殺報道があると、「鬱」「うつ病」「不安」「悲しい」などの不安を示す言葉や、「自殺サイト」や「自殺方法」、あるいは「死にたい」などの念慮を示す言葉のインターネットでの検索数が増加することがわかっている。コロナ禍は芸能人の自殺やその可能性のある出来事が続き、瞬間的な関心の高まりと、自殺報道による思い出し効果があったのではないかとの分析もある。報道に接したことで過去の経験を想起させ、「自分ごと」として捉える「自己関連づけ効果」(自分に関連させて処理すると、他者と関連して処理した場合よりも記憶が促進されるということ)があったということだろう。そのためか、過去の不安な感情まで思い出し、関連語を検索する行動が見られたのだろう。


 ただし、コロナ禍を通じて、10代に大きな影響を与えたものが明確にあったかといえば不明だ。コロナ禍という理由以外のものは誰もが想像しにくい。しかし、コロナ禍だけで説明できないことはデータ上、明白だ。なぜなら2016年から、自殺者数は増加傾向を示しているからだ。


なぜ小中高生の自殺者が増えているのか


 警察庁の統計によると、日本では、1998年から2011年までは、全年代の年間自殺者の総数が3万人を超えていた。自殺対策基本法ができた2006年以降は、中高年の男性を中心に自殺者数が減っていく。しかし、児童生徒の自殺者数は減少せず、むしろ、増加傾向に転じた。児童生徒の自殺者数は2011年が多く、353人だった。2012年からは全年代を合わせて3万人を割ったが、児童生徒の場合は増加傾向に変化はない。


 2016年には自殺対策基本法が改正され、学校現場に対して、「SOSの出し方に関する教育」が推進されていく。また、希死念慮を持つ男女が殺害された座間男女9人殺害事件が起きた2017年以降、厚生労働省は、SNSによる自殺相談を充実させた。しかし、小中高生の自殺者数を見ると、2016年以降、それまでの増加傾向を抑えることができず、警察庁統計で、2020年に初めて400人を超え、2022年以降は3年連続で500人を超えた。


 理由は何だったのか。前述の文科省が発表する問題行動調査には、「自殺した児童生徒が置かれていた状況」という調査項目がある。選択肢には「家庭不和」「学業等不振」「いじめの問題」などがあるが、半数ほどが「不明」で、2023年度は、その割合が46.9%になった。中でも、小学生は63.6%だ。学校側は、児童生徒がなぜ自殺したのかを把握できないでいる。把握しない・したくないという心情も見え隠れする。


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【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】


▼いのちの電話  0570-783-556 (午前10時〜午後10時)、 0120-783-556 (午後4時〜同9時、毎月10日は午前8時〜翌日午前8時)


▼こころの健康相談統一ダイヤル  0570-064-556 (対応の曜日・時間は都道府県により異なる)


▼よりそいホットライン  0120-279-338 (24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは 0120-279-226 (24時間対応)


(渋井 哲也)

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