兄から性的虐待の過去を持った女性も…10代の若者たちの自殺が多発する「トー横の闇」
2025年5月20日(火)7時0分 文春オンライン
なぜ自殺が多発するのか? 新宿・歌舞伎町の「シネシティ広場」周辺、通称「トー横」にたむろする若者たちが抱える心の闇とは? フリーライターの渋井哲也氏の新刊『 子どもの自殺はなぜ増え続けているのか 』(集英社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

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10代自殺の象徴「トー横」のリアル
2023年夏。新宿・歌舞伎町の「シネシティ広場」周辺、通称「トー横」には、10代の若者たちも多く集まっていた。ここは、以前はコマ劇場前広場と呼ばれ、今と同様に多くの若者たちが集う場所だった。筆者も昔はその広場で朝まで過ごし、そこで見知らぬ人たちとお酒を飲んだり、夜通し話をしたりした。
「シネシティ広場」は「新宿東宝ビル」の横(西側)に位置し、子どもたち、若者たちが多く集まる。「新宿東宝ビル」の横だから、いつしかその場所は「トー横」と呼ばれるようになった。
もともと、コロナ禍が始まった20年当初、ここにはSNSのTwitter(現在のX、以下同)やInstagram、TikTokで写真や動画を撮り、投稿していた人たち、通称、「自撮り界隈」と呼ばれる若者たちが集まっていた。「新宿東宝ビル」東側の、「Ⅰ♡歌舞伎町」という電光掲示板があるビルを背景に撮影していたことも、その場所が知られる理由になった。
当初、トー横は、「新宿東宝ビル」の東側の路地を指していた。周辺に集まる子どもたちは、歌舞伎町の大人たちから、「お店で飲むお金を持っていない」などの理由から、いつしか、「トー横キッズ」と呼ばれるようになっていた。
その「トー横キッズ」を相手に淫行をして逮捕される人が出たり、未成年飲酒や市販薬・処方薬のOD(オーバードーズ・過剰摂取)が流行したりした。その後、都や警察当局は、若者が路地に集まらないように呼びかけた。また、座れないように「鳥よけシート」を設置した。
ただ、その場所にいる10代、20代の層の特徴が変わってきた。コロナ禍で行き場のない若者たちが集まってくるようになったのだ。そして路上で遊んだり、飲酒をしたりする姿をSNSに投稿するようになっていく。そこで話題になった人たちと仲良くなりたいと、次々に若者たちが集まってきた。家で虐待されていたり、学校でいじめや体罰、不適切指導、性被害を受けていたりする人たちも自然発生的に増えた。
「トー横四天王」を名乗るリーダー風情の人たちも現れた。
亡くなる前に「プレイヤーログアウトのお知らせです」と投稿
そんな背景の中で、トー横キッズが自殺をしたというニュースが流れた(警察統計上は必ずしも「自殺」となっていないケースもある)。2021年5月、トー横で知り合った10代の男女2人が、近くのホテルから飛び降りて死亡した。筆者がトー横の取材を始めるきっかけになった出来事だ。現場に来て手を合わせたり、花を手向けたりする姿がどこにもない、という報道もあったが、現場に花が置かれているのを見かけた。
小倉將信内閣府特命担当大臣(子ども政策担当)は2023年7月3日、「トー横」を視察した。トー横は、10代の子どもたちの居場所であると同時に、未成年者との淫行事件、傷害事件、詐欺事件などに巻き込まれる場所としても知られるようになっていた。傷害致死事件にまで発展することもあった。小倉大臣は、トー横に集う当事者の10代の男女や支援団体に話を聞いたり、トー横を歩いたり、説明を受けたりした。
2023年4月、「東急歌舞伎町タワー」が新たに建設され、開業した。ここは「シネシティ広場」の西側に隣接している。そのため、観光客をはじめとする人の流れが変わった。タワーの上層階まで上がると、これまで見ることができなかったような景色を見下ろすことができる。タワー内にある映画館は、通常の鑑賞代よりも高額になっている。レストランやバーもあるが、歌舞伎町内のほかの居酒屋と比べると、高級感があり、客もラグジュアリーな層が多い。
タワーの利用客の中には、地雷系(精神的に不安定で愛情表現が重く“病みカワイイ系”といわれる。ピンクや黒、紫などダークな色を基調にロリータ、ゴスロリ系をアレンジしたファッション。“地雷”には相手にしないほうがいいというニュアンスが含まれる)や量産型(地雷系と同じく、ロリータ、ゴスロリ系をベースとしたファッションだが、地雷系に比べると、やや明るい印象。白やベージュなど柔らかい色を基調とし、流行を取り入れている)のファッションに身を包んだ中高生と思われる少女も紛れ込んでいる。
一緒にいるのは同年代の少年だったり、年上の男性だったりする。一見すると客層に合わないので、浮いている感じを受ける。
2023年8月にも、10代の女性が歌舞伎町内の、トー横から少し離れた場所にあるホテルから飛び降りて死亡した。遺書もなく、明確な意図を持った自殺かどうかはわからない。筆者も、トー横に来ていた彼女と何度か話をしたことがあったが、挨拶程度だったため、彼女の悩みなどを直接聞いたことはない。
しかし、彼女を慕う10代の男性によると、兄からの性的虐待の経験があったようだ。そうした話は、自身のTwitterにも書かれていた。また、匿名掲示板「雑談たぬき」でも彼女が受けた性的虐待のことが話題になっていた。「たぬき」はもともとビジュアル系バンドに関する情報交換やファン同士の交流の場だった。それ以外の雑談も書き込まれており、トー横界隈のこともたびたび話題になっている。
亡くなった女性は、自殺行動を取る勢いをつけるためにODをしたのか、あるいは、ODをしたために自殺衝動に駆られたのか、ODの結果として意識的にホテルの上階に上がり、自傷的な死、もしくは事故的死につながったのかはわからない。
2024年8月から9月にかけては、前出のホテルから5人が転落し、亡くなった。いずれも自殺と見られている。9月に亡くなった2組4人は男女による心中の可能性もある。このうち、1人の男性は、「男女問わず、誰にでも優しい」との評判だったが、違法薬物の常習者であり、体がガリガリに瘦せている写真とともに「プレイヤーログアウトのお知らせです」と投稿していた。
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【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】
▼いのちの電話 0570-783-556 (午前10時〜午後10時)、 0120-783-556 (午後4時〜同9時、毎月10日は午前8時〜翌日午前8時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556 (対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
▼よりそいホットライン 0120-279-338 (24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは 0120-279-226 (24時間対応)
〈 約40年で自殺する子供の数は1.5倍に…なぜ日本で「子どもの自殺」が増加しているのか 〉へ続く
(渋井 哲也)
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