業務スーパーは、なぜ牛乳パックでようかんを売るのか?

2024年2月22日(木)4時0分 JBpress

 業務スーパー1号店の開業から20年余りで、時価総額1兆円企業へと成長した神戸物産。牛乳パックに水ようかん、豆腐パックに冷凍チーズケーキ・・・一風変わった商品、独特な店舗は一体どんな発想から生まれたのか? 本連載は、創業者・沼田昭二氏が業務スーパーの型破りな経営の仕組みを語り尽くした『業務スーパーが牛乳パックでようかんを売る合理的な理由』(沼田昭二、神田啓晴著/日経BP)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第1回は、一度動き出せば、さほど労力をかけなくても、長い期間もうかる「ドル箱」といわれる仕組みを生み出した沼田氏の、独自の思考法に迫る。

<連載ラインアップ>
■第1回 業務スーパーは、なぜ牛乳パックでようかんを売るのか?(本稿)
■第2回 経営危機の乳業メーカーは、なぜ神戸物産のもとでようかんを作り始めたのか?
■第3回 1リットルの牛乳パック入り水ようかんは、なぜ他社にまねできないのか?(3月7日公開)
■第4回 破綻寸前の製パン企業が傘下で1カ月で再生、神戸物産の型破りな経営とは?(3月14日公開)

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「変」な商品は実は合理性のかたまり

 経営者がビジネスモデルを構築するとき、大切にすることは人それぞれでしょう。私の場合、それは「精緻に、周到に、合理的に作ること」です。

 仕組みといってもいろいろなイメージがありますが、私が作りたい仕組みは、「一度動き出せば、それほど労力をかけずに、長い期間もうかる」というものです。この本ではそういう仕組みを「ドル箱」と呼ぶことにしましょう。

 私は神戸物産で業務スーパーという「ドル箱」を作り、磨き上げることに全身全霊を傾けました。ドル箱作りは、動き出せば楽ですが前準備に労力がかかります。そもそも私の場合、考える時間がとにかく長い。なぜかと言いますと・・・。

■「細胞レベルまで分解して考える」

 これが私の思考法だからです。

 とにかく物事を微細なレベルまで分解し尽くします。分解した上で、その成り立ち、仕組みを理解します。仕組みに必要な要素を原理原則まで理解してから計画を立てるのです。

 こんなことをやっていたので、業務スーパーの構想を固めるまでに2年の歳月を要しました。 「忙しい現代人に2年も考える時間はない」。そんなふうに考える方もいらっしゃるでしょう。けれども、この考え方で起こした事業は、軌道に乗れば成長の最短ルートを描くことができます。作ってしまえば、後は仕組みを改良していくだけで、自然と成長します。「ほったらかし」でもええかもしれません。実際、業務スーパーは加盟店に対して、事細かなルールや管理を押しつけてはいませんし、ビジネスモデルも20年前から大きな変化はありません。20年も持続的な仕組みは今時珍しいと思いませんか。

 そして、合理的に考え抜いたシステムで周りを納得させれば、こちらから動かずとも、人も金も自然と集まります。これは、物事を徹底的に調べているからこそ味わえる醍醐味です。

■「タマゴとは何?」 細胞レベルまで突き詰める意味

 これから商品開発を通して業務スーパーの考え方をご説明していきますが、「細胞レベルまで分解」する思考法は本書全体に通底するので、もうすこし踏み込んでおきましょう。

「細胞レベルで考える」というのは、「この商品とはそもそも何でできているのか」「どうやって作られているのか」といった根本的な部分まで理解して、そこをスタートラインに考えることです。例えば、食品添加物などは商品の原料として市販されている、調合済みの便利なものもありますが、あれも素材レベルまで分解して理解せねばなりません。

 どうしてそこまで突き詰めるのか。それは、人間はついつい楽をしたい、手を抜きたい生き物だからです。そこまで徹底しないと、どうしたって「今知っている商品」をベースに考えたくなるじゃないですか。でもそれでは、その自分が知っている商品を作った人、その人の常識に基づいたアイデアしか生まれません。これを超えるには、商品じゃなくて、その素材まで分解してから「さあ、ここから何ができるか」と考えるのが一番いいんです。

 例えば、業務スーパーの卵焼きをもとに考えてみましょう。

 神戸物産グループの食品メーカー、オースターフーズ(兵庫県姫路市)には「厚焼玉子」という商品があります。卵焼きと聞くと、「そりゃタマゴで作るものだろう」と思いますよね。実は、この商品には豆乳が原材料に使われています。

 卵焼きとはなんでしょうか。タマゴをほぐして焼いたものですね。じゃ、「タマゴ」とはなんでしょう? その主成分は?

 突き詰めて考えると、タマゴとはすなわち「タンパク質」です。タマゴのタンパク質が熱されて、凝固したものが卵焼きとなるわけです。

 ということは、卵焼きとは「タンパク質焼き」といってもいいでしょう。そう考えると、タンパク質が豊富な大豆でも代用できるのではないか。要素分解することで、そんな考えが出てくるわけです。

 最終的には、タマゴと豆乳を配合して、タマゴの割合を下げるという製造法を考えました。もともとの卵焼きは70%がタマゴで、残りは出汁で作られていました。豆乳のコストはタマゴの10分の1程度です。実際に作ってみるとタマゴ70%の時よりも柔らかく、まろやかな味わいの卵焼きができました。

■「放っておいてももうかる商売」を探した

 と、説明させていただきましたが、考え方だけ正しくてもドル箱は作れません。次は「考える方向」を定めるのです。さあ、何を作ってどう売ればいいでしょうか。

 初期条件を見てみましょう。

 業務スーパーのフランチャイズ(FC)1号店がオープンしたのは2000年3月。既に少子高齢化が進み、人口が減り続ける未来が来ることは分かっていました。そして、食品流通の世界では「売り上げや利益の源泉はバイイングパワー」(規模によるコストダウン、購買力)という考えが当たり前。縮む市場で大きい者が勝つ、という世界です。

 当時の神戸物産は「フレッシュ石守(いしもり)」という2店舗しかない中小スーパーを運営していました。90年代の年商は25〜30億円。ここから、過酷な競争を勝ち抜いて、10年後、20年後も利益がきちんと出続けるようにする。しかも、できることなら「ほったらかし」でも運営できるような・・・そこまで言うとさすがに虫がよすぎますが、そんなビジネスモデルを模索していました。

 ただ、地方の中小企業が、業界に先駆けた最新システムとか、手の掛かった高度なサービスとかを開発・提供することは現実的ではありません。もちろん、「規模によるコストダウン」もできません。

 八方塞がりのようですが、ここでも物事を分解することから始めました。

 食品スーパーがやっていることを軽く頭の中でバラしてみましょう。食品スーパーは、他人が作った商品を他人に運んでもらって、それをまとめて並べて値付けして、お客さんに渡す商売です。他人が作った商品をただ売るだけでは、どの店でも似たり寄ったりの品ぞろえになります。だから価格でしか差別化できず、安売り合戦の泥仕合になり、資金力に勝る企業が有利になるのですね。

 だとすれば、規模の小さい企業が生き残るには、その逆を突くことが有効です。「自分が作った、自分だけの商品を、自分の店だけで売る」のです。

<連載ラインアップ>
■第1回 業務スーパーは、なぜ牛乳パックでようかんを売るのか?(本稿)
■第2回 経営危機の乳業メーカーは、なぜ神戸物産のもとでようかんを作り始めたのか?
■第3回 1リットルの牛乳パック入り水ようかんは、なぜ他社にまねできないのか?(3月7日公開)
■第4回 破綻寸前の製パン企業が傘下で1カ月で再生、神戸物産の型破りな経営とは?(3月14日公開)

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筆者:沼田 昭二,神田 啓晴

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