「自分はリーダーに向いている」と思っている人ほどチームに悪影響…自己評価とリーダー資質の意外な共通点

2025年3月14日(金)7時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bavorndej

優れたリーダーとはどのようなリーダーなのか。ビジネスコーチの大野栄一さんは「自己認識力、つまり『自分自身の性格や能力、思考、感情などを理解する力』が高い人が優れたリーダーであり、自己認識力が高い人には5つの共通点がある」という——。

※本稿は、大野栄一『できるリーダーが「1人のとき」にやっていること マネジメントの結果は「部下と接する前」に決まっている』(日経BP)の一部を再編集したものです。


■「昼間からビール」で部下を景気づけていた過去


「いいリーダー」の条件をあなたはご存じでしょうか。私自身、かつては「いいリーダー」について勘違いをして、「自分はリーダーにふさわしい」と過信していました。


離職率が8割にものぼる、金融商品、とくに商品先物取引の営業をしていた頃は、まさに「気合とど根性」が頼りでした。


パワハラとまではいかないものの、「コラ、やらんかい」と、体育会的な営業手法で部下を従わせたこともあります。景気づけと称して、昼間から部下とビールを飲むなど、今では考えられない方法で士気を高めていたのです。


まさに当時は、リーダーとして祝福的なあり方とはほど遠く、私のマネジメント成分はほとんどが「気合とど根性」「すすきのでのアルコール」でできていました。


支払いを済ませた私に、部下が一列に並んで、「あざーす!」と頭を下げる光景は、まるで軍隊のようでした。


部下は私の椅子(支店長という役職)に従っていただけなのに、私は「あいつらはオレについて来ている」と思い違いをしていたのです。


お酒を飲めば一時的な気分転換になりますが、根本的な信頼関係の構築にはつながっていませんでした。


優秀なリーダーであれば、部下が「仕事そのもの」にやりがいを感じ、イキイキと働ける環境をつくったでしょう。ですが私は、すすきので部下をイキイキさせて、それを翌日の仕事の励みにするという無理なサイクルをつくっていたのです。


写真=iStock.com/Bavorndej
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bavorndej

■優れたリーダーが共通して担っている役割


その後は、コンサルティング業界へ。IPO(新規公開株式)&資金調達コンサルティング会社でエグゼクティブコーチングを研究し、さらに「すごい会議」の大橋禅太郎氏との出会いによって、自分のマネジメントに対する考え方が根本から覆されました。


営業職時代の私は、「オレがリーダーだ」「オレが正しい」「オレの言う通りにすれば成果が出る」「オレについて来い」と自己中心的な考えに陥り、部下に対してまるで「オレオレ詐欺」を働いているかのようでした。強制的な手法や一方的な指示で部下を縛りつけ、彼らの自主性を奪っていたのです。


しかし、「すごい会議」の手法を学ぶ中で理解したのが、前述の、


「部下が自らのひらめきを大切に育める場をつくること」
「部下の人生をエキサイトメントにするような影響を与えること」


という、優れたリーダーが共通して担っている役割であり、


「何より幸運だったのは、あのリーダー(上司)に出会えたこと」
「ターニングポイントは、間違いなくあのリーダーのもとで働けたことです」


と部下が心からの感謝を抱く、「祝福的存在」としてのリーダーです。


■「自分にリーダーは向いていない」と思っていてもいい


私自身にこうした背景があることもあって、


・「もっといいリーダーになりたい」「いいチームをつくりたい」と思っている
・自分のチームの業績をもっと上げたい。その方法を知りたい


という方だけでなく、


・「リーダーをやってほしい」と言われたけれども、「自分には向いていない」と感じている
・リーダーをやっているが、できればいちメンバーに戻りたい
・マネジメントよりも技術職のほうが楽しい


と思ったことのある方こそ、本記事を読み進めていただきたいと考えています。


リーダーシップに関する自己評価は、必ずしも、実際の適性と一致しないことがあります。


「あなたはリーダーに向いていると思いますか?」という質問に対して、興味深いことに、「向いている」と答えた人よりも、「向いていない」と答えた人のほうが、実は優れたリーダーになる可能性があるのです。


写真=iStock.com/busracavus
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/busracavus

■自分はリーダーに「向いていない」と言う人の能力


なぜ、「向いていない」と感じる人ほど、リーダーに「向いている」のでしょうか?


その理由は、自分の欠点や不得意さを理解している人(=リーダーに向いていない理由を認識している人)は、自己認識力が高いからです。自己認識力とは、自分自身の性格や能力、思考、感情などを理解する力のことです。


「自分はリーダーに向いていない」と感じるのは、自己認識力が高い証拠です。


たとえば、「自分は歌がヘタだ」と認識している人は、正しい音程を理解しています。正しい音程がわかっているからこそ、自分の音程のズレに気づくことができます。


同様に、「リーダーに向いていない」と判断するためには、理想的な基準や他者との比較が必要であり、それを理解している時点でリーダーとしての資質があるといえます。


古代ギリシャの哲学者ソクラテスは、「自分が無知であることを知っている者は賢者である」と考え、「無知の知」という概念を提唱しました。「無知の知」は、「自分が知らないことを知っている」ことの重要性を説いたものです。


「自分はリーダーに向いていない」と自己認識できる資質は、組織を率いる上で重要です。


■自己認識力の高い人と低い人


自己認識力が高い人の特徴
● 内省的である:自分の思考や言動、態度を振り返ることができる(内省とは、自分自身の心を見つめること)。
● 共感力がある:部下の意向や要望をくみ取り、寄り添うことができる。
● 柔軟性が高い:周囲の意見や反応に耳を傾け、改善に努めることができる。

一方、自分のことを「リーダーに適している」と過信する人は、自己評価が実際の能力よりも高くなる傾向があります。そして、以下のリスクを抱える可能性があります。


「リーダーに向いている」と過信気味の人の特徴
● 成功を自分の能力の結果とし、失敗を外的要因のせいにする。
● 自分の考えを優先して、偏った判断をする。
● 部下の意見を軽視するため、チームの視点が生かされない。
● 自分の能力を過大評価し、無謀な決定を下す。

「自分はリーダーに向いている」と強く思っている人ほど、チームに悪影響を与えかねないのです。


写真=iStock.com/Andrii Yalanskyi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Andrii Yalanskyi

■「優れたリーダー」の共通点


経営コンサルタントから「人の心を扱うビジネスコーチ」へと転身して以降、私は組織の行動改善のサポートに尽力しています。


そして、多くの企業でさまざまなリーダーを見てきた経験から、優れたリーダー(=祝福的なリーダー)には、大きく「5つの共通点」があることがわかりました。


①自分の状態を客観視できる

リーダーは、部下の状態を正確に理解することが求められます。コミュニケーションでは「どう伝えるか」「どう聞くか」が注目されがちですが、それ以上に、部下の状況や気持ちを理解する視点が重要です。


部下の状態を正しく理解するためには、リーダー自身が「自分の状態」を把握していることが不可欠です。自分の状態がわからないまま、部下への教育方法ばかりに注目しても、効果的な指導はできません。


優れたリーダーは、「自分の状態がわからない人に、相手の状態はわからない」ことを理解しています。そして、自分の感情や考え方、行動パターンを冷静に見つめる力を持っているのです。


■部下の信頼が得られているか


②偏見のない「健全な視点」を持っている

健全な視点とは、先入観や偏見、思い込みを持たず、公平で中立的にものごとを見ることです。優れたリーダーは思考の偏りをなくし、フラットにものごとと向き合うことができます。


たとえば、部下を評価する際、リーダー自身の偏見や先入観があると、公平な判断ができません。リーダーが部下を偏りなく評価することで、部下は「自分が大切にされている」と感じ、リーダーに対する信頼が深まります。


③「付き従う者(フォロワー)」がいる

経営学者のピーター・ドラッカーは、「リーダーに関する唯一の定義は、付き従う者がいること」と述べています。「付き従う」とは強制や権威によるものではなく、リーダーの信頼性や人間性に基づき、部下が自らの意思で従うことです。


リーダーシップは、役職や肩書きに依存しません。たとえ新入社員であっても、多くの人がその人に「付き従う」ならば、その人はリーダーシップを発揮しているといえます。営業職時代の私は、椅子とお酒の力を誇示して「付き従わせていた」だけで、私に「付き従う者」はいなかったのです。


写真=iStock.com/DragonImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DragonImages

■制約の中で結果を出せているか


④与えられた条件の中で違いを生み出している

リーダーは、制約がある中でも解決策を見いだし、チームを成功へ導く責任があります。「時間がないからできませんでした」「人手が足りないので無理でした」など、「○○がない」とリソースの不足を嘆くのは、不適切な言い訳です。


リーダーに求められているのは、「与えられた条件の中で、どう違いを生み出すか」です。結果が出せないのは、条件が整っていないからではなく、リーダー自身の知性や戦略が不足しているからです。


リーダー1人の力では解決が難しい場合、チーム全体の力を結集し、協力して課題に立ち向かうことが大切です。


「○○がないからできない」


と考えるのではなく、


「○○を実現するためにどのようにすればよいか?」


と前向きに思考を転換する。「でも」「だって」「どうせ」と否定的な言葉で片づけるのではなく、


「だからこそ、○○する」


と前向きに捉えることで、結果は大きく変わります。


自己認識力を持つリーダーは、自分の感情や思考の傾向を理解しているため、偏見や先入観にとらわれず、客観的な意思決定が可能です。これにより、厳しい条件下でも最適な解決策を見いだすことができます。


■自分自身とのコミュニケーションはどうか


⑤コミュニケーションの質が高い

ビジネスの根底には、常に「コミュニケーション」が存在しています。ビジネスの質や人生の質は、まぎれもなくコミュニケーションの質で決まります。


コミュニケーションには大きく2つあります。


ひとつは、「他の人と行うコミュニケーション」。もうひとつは「自分が、自分の頭の中で、自分自身と行うコミュニケーション」です。



大野栄一『できるリーダーが「1人のとき」にやっていること マネジメントの結果は「部下と接する前」に決まっている』(日経BP)

自分自身に語りかける内なる言葉(自分に向けた言葉)やものの見方が、自分自身の行動や習慣を決めています。たとえば、失敗したときに「自分はダメだ」と自分に教えるのか、「成長のきっかけを得た」と自分に教えるかで、その後の行動や成果が大きく変わります。


この世で唯一逃げられないものがあるとすれば、それは自分自身です。優れたリーダーは、「人生も、仕事も、自分自身のものの見方で決まる」ことを理解しているため、自分とのコミュニケーションの質を高めています。


あなたがどんなリーダーになるかは、「1人のとき」で決まると言っても過言ではありません。この時間を大切にして、固定観念を手放していきましょう。


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大野 栄一(おおの・えいいち)
「すごい会議」公式コーチ
株式会社一番大切なこと代表取締役。1967年東京生まれ。1990年専修大学商学部卒業。2009年3月、主たる経営資源の人材・モノ・お金・戦略の経験を経て、成長戦略参謀室株式会社設立。すごい会議コーチとして専心して16年目。2012年には創始者ハワード・ゴールドマンアワードを受賞。これまでおよそ130社1400人以上に指導している。
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(「すごい会議」公式コーチ 大野 栄一)

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