「小中高"オール公立"→名門"無料"公立大へ家から通う子」vs.「私立大・仕送りの子」…「学歴総額」の天国と地獄
2025年3月14日(金)10時15分 プレジデント社
出典=『プレジデントFamily2025春号』
※本稿は、『プレジデントFamily2025春号』の一部を再編集したものです。
■オール公立で約1000万円、オール私立で約3000万円
首都圏に住むNさんは、息子が通う私立中学から、「年10万円の学費の値上げ」についての知らせを受け取りがく然としたという。
「突然でしたが、支払うしかありません。物価高や人件費の高騰で仕方ないのかもしれませんが、家計は厳しいです」(Nさん)
東京都内の名門進学校、麻布や桜蔭でも10万円ほど値上げされたように、学費を値上げする首都圏の私立校は増えている。
東京都が都内の私立中学を対象に、2025年度の初年度(入学年度)納付金の状況を調べたところ、181の対象校のうち、77校(42.5%)が値上げをしている。
学費の値上げは、私立中高だけではない。東京大学が、25年度の学部入学生から授業料を20%値上げして年額64万2960円になることが大きな話題になった。国立大学の授業料は標準額が53万5800円と決められており、最大20%を各大学で上乗せできる。東大は20年間据え置きだったが、ここにきて上限いっぱいの値上げとなった。
「国立大学の授業料値上げは、少し前から始まっていました。東京工業大学(現・東京科学大学)と東京藝術大学は19年度から、千葉大学と一橋大学、東京医科歯科大学(現・東京科学大学)は20年度から、東京農工大学は24年度から授業料を引き上げています。今後、ほかの国立大学でも授業料値上げの追随が起こるでしょうね」
そう話すのは、自身も高校生と中学生の子供を持つファイナンシャルプランナーの西山美紀さんだ。
出典=『プレジデントFamily2025春号』
「小中高大の16年間にかかる教育費総額ですが、ここ数年でじわじわと上がっています。オール公立で約1000万円、オール私立で約3000万円と考えておくとよいでしょう」(西山さん、以下同)
各種統計を基に計算すると、「(小中高大)オール公立」1024.2万円、「大学だけ私立」文系1232.8万円、理系1364.6万円、「中学から私立」文系1666.4万円、理系1798.2万円、「オール私立」文系2562.1万円、理系2693.9万円だという(※)。
※公立小201.7万円、私立小1097.4万円、公立中162.6万円、私立中467.2万円、公立高178.7万円、私立高307.7万円、国公立大481.2万円、私立大文系689.8万円、私立大理系821.6万円
※公立、私立とも小学校、中学校、高校の数字は文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」より(詳細内訳は次ページの表を参照)
※国公立、私立とも大学の数字は日本政策金融公庫「令和3年度教育費負担の実態調査結果」より
※入学費用(受験費用、学校納付金、入学しなかった学校への納付金)、学校教育費(授業料、通学費、教科書・教材費、学用品の購入費、施設設備費など)、家庭教育費(学習塾・家庭教師の月謝、通信教育費、参考書・問題集の購入費、習い事の費用など)の総計
■この10年で公立・私立ともに小学校の学習費が上昇
図表2は小中高、それぞれ公立、私立で1年間にかかる学習費の総額。こちらもこの10年間で上がってきている(小学校公立33.6万円、同私立182.8万円、中学校公立54.2万円、同私立156.0万円、大学校個公立59.8万円、同私立103.0万円)。GIGAスクール構想を背景に国の交付金を活用して支給されていたタブレット端末の購入費を、高校では保護者負担に切り替える自治体も増加しているため、今後、学校教育費も増えていく可能性がある。
「ここ数年の総額の推移を見ると、公立家庭と私立家庭との差が開いてきていることがわかります。特に塾や習い事などの学校外活動費は、14年度の数字では、私立は公立の2.8倍ほどでしたが、今回の調査では約3.3倍になっています」
図表3が小学校の学校外活動費の詳細だ。公立と私立で比べると、芸術文化活動費や国際交流体験活動費といった体験活動などにかける金額に差があるようだ。西山さんの肌感覚は、塾にお金をかける家がさらに費用を増やすようになっているそうだ。
出典=『プレジデントFamily2025春号』
出典=『プレジデントFamily2025春号』
「少子化の影響で、塾が生徒を早めに抱え込む戦略をとっています。また生徒に多くのコマ数をとるように促したり、季節講習や特別講習を勧めたりする傾向も以前より多く見られます。1人当たりの学習費を上げる、という傾向でしょうか」
義務教育から外れる高校は、公立でも学校教育費は35.1万円、私立なら76.6万円かかっている。だが、西山さんは、高校の学校教育費は減っていくと予想する。
「東京都では、24年度から、高校の授業料の実質無償化(年額48万4000円上限)が始まりました。年額10万円が助成される私立中の授業料軽減助成制度もスタートしています。どちらも所得制限なしなので、親同士は学費の話がしやすくなりました。ただ東京都以外から通う子は受けられないので、そこは配慮が必要ですね。大阪府でも24年度から段階的に所得制限なしの無償化が始まっています」
※2月下旬に与党と日本維新の会が「高校授業料無償化」で政策合意
余裕のある自治体とそうでない自治体との差が開く現状のなか、国としても高校の授業料無償化に向けて動き出している。大いに期待したい。
大学の費用については、東京都立大学、大阪公立大学、兵庫県立大学および芸術文化観光専門職大学など、授業料を無償化する公立大学も出てきた。地元の公立大に入り、自宅から通えば、全体の教育費はかなり抑えられそうだ。
■突出している東京都の子育て支援
また、23年から始まった国の「異次元の少子化対策」によって、支援もかなり充実してきている。その筆頭が児童手当の拡大だ。
「中学生までだったのが、所得制限なしで高校生までもらえるようになりました。これは、かなり大きい。注意点としては、これまで4カ月に1回まとめて支給されていたのが2カ月に1回に変わったこと。1回に支給される金額が小さくなったので、口座に振り込まれていることに気づかず日々の家計に紛れることも懸念されます。教育費として別に取り分けておいたほうがよいでしょう」
『プレジデントFamily2025春号』(プレジデント社)
第3子以降のサポートも手厚くなってきた。
「子供が3人とも扶養中の場合、大学の授業料が、私立なら年間70万円(+入学金26万円)、国公立なら同54万円(+入学金28万円)が助成されます。これも所得制限なし。少子化対策の一環として、今後もこうしたサポートは増えていくでしょうね」
高校の授業料にも国の支援があり、国公立で11万8800円、私立で39万6000円が支給される(いずれも所得制限あり)。
「先に見たように、東京都や大阪府では、高校の授業料無償化が進み、中学生の保護者からは『私立高校も検討でき、受験の選択肢が増えて助かる』という声も聞きます。東京都では『018サポート』や留学の支援制度も充実してきているので、子供が小さい家庭では『今後、家を買うなら東京がお得かも』という話も聞きますね」
■想定外を考えて教育費は多めに準備を
では、教育費はどうやって準備しておくべきか。
出典=『プレジデントFamily2025春号』
「原則的に高校までの教育費は給料やボーナスといった家計から出していき、大学の費用は子供が小さいうちから預貯金や学資保険、NISAでの積み立てなどを利用してコツコツと準備するとよいでしょう。教育費には、塾代や学費といったある程度『想定できる数字』と、制度や手当の変更があれば家庭での負担額が変わるもの、子供の急な進路変更によるものなど『想定外の数字』があります。もし大学生になって1人暮らしをしたら、その準備に平均38.7万円、年間の仕送りが平均95.8万円かかるというデータも(日本政策金融公庫「令和3年度教育費負担の実態調査結果」より)。私立文系で1人暮らしの場合、4年間で1000万円超になると、頭に入れておいたほうがよいですね」
ほかにも、学費が高い医学部や芸術系学部に進みたいと言われた場合、大学院に進みたい、留学したいと言われた場合など、想定外に備えておくことが大切だという(医学部なら6年間約3232万円、芸術系学部なら4年間約690万円。留学したらハーバード大の場合1年にかかる費用は約1300万円)。
■今の大学生は授業が忙しくバイトであまり稼げない
「ある家庭では、子供が高3になって薬学部に関心を持ったようで、6年分の私立大学の費用が足りないと焦っていました。また、自宅通学を想定していたのに、たまたま受験した地方の大学が気に入って急きょ1人暮らしになったという話も聞きます。
子供がアルバイトをして費用の一部をカバーしてほしいと考える人もいますが、それは意外と難しいと考えてください。実は私自身、今、2回目の大学生なのですが、リポート提出課題が小まめにあり、多くがオンライン提出で1秒でも遅れるわけにはいきません。大学や学部にもよりますが、思った以上にハード。自由な時間がたっぷりあってアルバイトでたくさん稼ぐ、という親世代の学生生活とは変わっています。1人暮らしの場合、ある程度の仕送り額が必要でしょう。教育資金は多めに用意して、余れば老後資金に回すプランを立てたほうがいいと思います」
西山さんは、学校外活動費のかけすぎにも注意を喚起する。
「小中学生時代に、塾や習い事代にお金をかけすぎると、その後の教育費が不足しがちです。大学までの長い目で見て、家庭の教育方針と本人の希望で取捨選択することが大事です」
出典=『プレジデントFamily2025春号』
西山家では、下の子が中学受験をした際は、塾代をかなり抑えることを心がけたそうだ。
「習い事と両立したかったという理由もありますが、受験直前期以外は、季節講習をほぼ受けませんでした。季節講習や特別講習は長時間に及ぶものもあり、子供によっては行くだけで疲れてしまって、帰宅後、宿題や復習ができず、費用をかけたはずなのに消化不良になることも。受けるべきかどうか、そのつど子供と考えることが大切だと思います」
また、西山家では、留学ではなく、ホームステイを受け入れて、子供たちの国際交流活動とした。お金のプロならではの工夫が見える。
「昨年、アメリカから高校生を1カ月半、受け入れました。円安のときは、海外に行くには費用がかかりますが、受け入れは食費とお出かけするときの費用くらい。子供たちは、学校や部活など普段の生活をしながら、自宅で英語のコミュニケーションの機会を得られますし、家族みんなでいい経験になりました」
■習い事を2種類するのではなく1種類を週2回
また、習い事についても、お薦めの方法があるという。
「習い事を週に二つするのではなく、好きな習い事一つを週に2回にすること。費用は2倍になるのではなく1.5倍ほどに抑えられますし、上達がぐんと高まると感じます」
教育費は、上限を決めずにどんどん使うと、親自身の老後資金がなくなってしまうと注意を促す。
「晩婚化、晩産化で子供が大学在学中に親が定年を迎えるケースもあります。教育費を最後まで支払えるか、自分たちの老後資金が足りるか、しっかりチェックしておきましょう。持ち家の人は住宅ローンが返済できるのか、賃貸の人は定年後もずっと家賃を払っていけるのか、教育費以外についても早めにシミュレーションして備えておくことが大切です」
出典=『プレジデントFamily2025春号』
教える人
西山美紀さん
ファイナンシャルプランナー。All About貯蓄ガイド。お金や受験、生き方などをテーマに取材、執筆、発信を行う。中高生2児の母。現在は心理学を学ぶ大学生でもある。著書に『お金の増やし方』など。
(プレジデントFamily編集部 文=池田純子)