2025年開業予定のジャングリア沖縄、刀CEO森岡毅氏があえて都市部を避けた「壮大な理由」

2025年3月13日(木)5時55分 JBpress

 希代のマーケターとしてその名を知られる刀CEOの森岡毅氏。ユー・エス・ジェイから独立して「刀の森岡」となってからも、その有言実行の力にはますます磨きがかかっている。2024年12月に『森岡毅 必勝の法則 逆境を突破する異能集団「刀」の実像』(日経BP)を出版した日経ビジネス記者の中山玲子氏に、刀が手掛けた製粉大手ニップンの変革や、2025年に刀がオープンさせる沖縄のテーマパーク「ジャングリア」について聞いた。


全国小売店の担当者を驚かせたニップンの新商品

──著書『森岡毅 必勝の法則 逆境を突破する異能集団「刀」の実像』では、製粉大手のニップン(旧日本製粉)が刀の支援を受けて挑んだパスタ事業の変革について触れています。そもそもニップンはどのような目的で刀との協業を始めたのでしょうか。

中山玲子氏(以下敬称略) ニップンは明治期の1896年に設立され、130年近い歴史を持ちます。こうした老舗企業には、JTC(ジャパン・トラディショナル・カンパニー=伝統的な日本企業)と呼ばれるように、積み重ねた歴史が足かせとなり、変革に踏み切れないケースも少なくありません。

 ニップンも社長の前鶴俊哉氏が「閉塞(へいそく)感が漂い、結果につながらない状況が何十年もあった」と話すように、伸びしろであるはずの食品事業では苦戦を強いられてきました。そうした状況を打破するために「組織としてマーケティングを取得すべき」という結論に至り、2022年10月、USJを再建に導いた森岡氏率いる刀との協業を開始しました。

 そして、ニップンと刀が開発から製造、販売までを共に手掛けた乾燥パスタ「オーマイプレミアム もちっとおいしいスパゲッティ」は2024年2月の発売開始後、売上高が前年同月比65%増(2023年3月から2024年8月まで)を記録し、ニップン社員や全国小売店の担当者を驚かせました。


ニップンが乾燥パスタの売り上げを伸ばした勝因

──ニップンが乾燥パスタの売り上げを伸ばすことができた一番の要因は何だったのでしょうか。

中山 刀と商品開発を進める中で「おいしさ」という商品の原点に回帰したことだと思います。刀によると、乾燥パスタに限らず、成熟市場になると当初の訴求点が商品の本質から離れてしまうことはよくあるのだそうです。

 乾燥パスタの材料は基本的に小麦粉と水だけです。その中で差別化を図るためには「ゆで時間の速さや麺の太さ・細さといった機能性を訴える」ことが当たり前になっていたようです。しかし、消費者が本当に求めているのは「おいしさ」ではないか、と森岡氏や刀の担当者は考えました。

 刀側が食品として当たり前ともいえる原点に着目したことについて、ニップンの社員の方々は非常に驚いたようです。「成熟市場になったときこそ原点を見直す」という考え方は、食品業界のみならず、多くの業界で応用できる考え方ではないかと思います。

──刀はニップンとの協業において、どのようなゴールを描いているのでしょうか。

中山 ノウハウを人材に定着させ、刀との協業終了後も継続して成長できる状態をつくることを目指しています。刀のコンサルティングは「ノウハウの移植」を重要視しており、結果が出ても、その状態を協業期間だけで終わらせる一過性のものにはしないことが特徴です。

 そして、ノウハウの移植についても徹底しています。森岡氏は「企業さまにとって本当に必要なのは、自ら魚を釣れる能力『釣りざおと釣り方』を備えること」と話しており、実践方式を重視しています。座学ではなく、刀の社員がニップン社内に入り込んで共に戦略を練り、実行まで行うのです。刀の社員が毎日のようにニップンにやってきて、まるでニップンの社員のようにフラットに1メンバーとして関わっているといいます。


ジャングリアが目指す「日本経済の再生」

──沖縄で2025年夏に開業するテーマパーク「ジャングリア沖縄」が注目を集めています。ジャングリアはユー・エス・ジェイ在籍時に一度白紙となった「沖縄パーク構想」が基になったとのことですが、森岡氏が再挑戦した理由は何だったのでしょうか。

中山 森岡氏はユー・エス・ジェイ在籍時から「沖縄には大きな可能性がある」と言い続けていました。沖縄に大きな可能性があると自分たちが気付いてしまった以上、やらない選択肢はない、といったところではないしょうか。その可能性は、自身の所属がどこであろうが変わらないということでしょう。

 本書に収録した森岡氏のインタビューでも「ここで終わるのは無念過ぎる。私には当時、仲間と一緒につくった計画での勝ち筋が見えていた。これが実現できれば沖縄だけでなく日本を強くできるのです」と答えています。

 沖縄パーク構想が白紙になったとき、森岡氏は1年かけて各方面に謝罪をして回ったそうです。そこでも「会社の判断としてはできなくなったけれども、沖縄には可能性があります」と言い続けていたといいます。沖縄には可能性があることを証明したいと、今日まで沖縄パーク計画の構想を温め続けてきたのだと思います。

──ジャングリア沖縄をはじめ、数々の挑戦を続ける刀はどのようなビジョンを描いているのでしょうか。

中山 一言でいえば、森岡氏と刀が目指すのは日本を強くすること、つまり「日本経済の再生」です。その象徴的な事例となるのが、2025年夏に開業するジャングリア沖縄です。

 通常、沖縄県内なら、アクセスが良く、既に那覇空港や国際通りといった都市機能が集中する南部にテーマパークをつくると考えるほうが自然でしょう。一方、北部には手つかずの豊かな自然がありますが、あまり開発が進んでいない地域です。あえて北部にテーマパークをつくることで、ホテルや飲食店といった施設が集まり、新たに経済効果が生まれることを狙っているのです。伸び代の大きさを見ているのだと思います。

 北部の経済効果を沖縄全体に波及させることができれば、それを再生モデルとして日本の他の地方にも応用できるかもしれない──。そうして日本を強くすることが森岡氏と刀のビジョンです。森岡氏はインタビューでも「これが実現できれば沖縄だけでなく日本を強くできる」「目指すのは『バタフライエフェクト』です」と語っています。

 社名の刀には「マーケティングを日本の企業の武器としたい」という意味が込められている、と聞いています。その社名の由来こそが、森岡氏たちの日本経済再生に懸ける思いを表しているのだと思います。

筆者:三上 佳大

JBpress

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