中国不動産のバブル崩壊はさらに深刻化する…習近平の側近の「爆弾発言」が意味する深刻すぎる状況

2024年3月18日(月)9時15分 プレジデント社

2024年3月11日、北京で開かれた中国の全国人民代表大会(全人代)の閉幕式で、議案可決後に拍手する習近平国家主席(中央) - 写真=時事通信フォト

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■世界中の経済専門家が耳を疑った


3月9日、中国の倪虹(げいこう)住宅都市農村建設相は、債務超過に陥った不動産企業について「破産すべきものは破産し、債務再編すべきものは再編すべき」と発言した。この発言に対し、多くの経済専門家が疑問を呈している。これまでの中国政権の政策とまったく逆の発言だったからだ。


中国政府は、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)など事実上の経営破綻状態にある不動産デベロッパーの延命を優先してきた。不動産デベロッパーに対して、既存の建設案件を完成させることを要請してきたからだ。


そのため、大手行に対して不動産向けの融資を増やすよう要請を強めた。2月、政府は金融支援を行う不動産事業を記載した“ホワイトリスト”も策定し、大手国有銀行5行は関連案件の融資申請を受理した。


写真=時事通信フォト
2024年3月11日、北京で開かれた中国の全国人民代表大会(全人代)の閉幕式で、議案可決後に拍手する習近平国家主席(中央) - 写真=時事通信フォト

■共産党と政府内の意思統一ができていない?


それを、デベロッパーを破産させるという住宅相発言は、あまりに唐突でよく理解できない。「共産党と政府内の意思統一ができていない」との見方も出ている。


今なお、中国の住宅市況は悪化が止まらない。不良債権問題を抱える企業を支援したにもかかわらず、一方で延命させると言い、他方で破産させるという。今後、どのように中国の不動産市況悪化は収束するか、落としどころは一段と見出しづらくなった。


1990年初頭にバブルが崩壊したわが国は、一時期、債務問題が深刻化した企業への貸し出し促進策を強化した。それでも、不良債権問題、金融システム不安、デフレ環境の深刻化は止められなかった。今回の中国の政策運営方針の不一致で、経済が正常な環境に戻るにはさらに時間が必要になるだろう。


■経営難の企業を助けたいのか、切り捨てたいのか


9日の記者会見で倪虹住宅相は、不動産バブル崩壊で経営悪化した不動産企業の破産をいとわない考えを示した。最近の中国政府の政策を見る限り、党中央の関係者がこうした見解を示すのは極めて異例だ。


これまで中国政府は、カントリー・ガーデンや恒大集団(エバーグランデ・グループ)など不動産企業、地方政府傘下の融資平台など、債務返済に行き詰まった企業の延命を優先してきた。


2020年8月の“3つのレッドライン”をきっかけに、中国の不動産バブルは崩壊した。その後、中国政府は、住宅購入の規制を一転して緩和した。融資規制強化の負の影響はあまりに強かった。住宅取得税の軽減や、家電などの購入補助券の配布を行う地方政府も現れた。


それでも目立った効果は出なかった。不動産業者の資金繰りを支援するために、政府は市中銀行に融資を増やすよう指示を強化し、不動産デベロッパーにマンションの完成を求めた。中国人民銀行(中央銀行)も政策金利を引き下げ、市中への流動性供給を強化したりした。


■住宅購入者の不満をどうするつもりなのか


2024年1月、中国政府は“ホワイトリスト政策”と呼ばれる不動産支援策も実施した。地方政府などが金融支援を行う不動産事業を選定し、リストにまとめたものである。要は、ホワイトな案件(住むための住宅供給の社会的なニーズが高い開発案件)向けの支援を強化せよという号令だ。同月末、香港の高等法院(高裁に相当)はエバーグランデに清算を命じたが、多くの資産が存在する本土の当局が清算加速に動く兆しは出なかった。


中国政府の政策は、一貫して住宅購入者の不満を抑えることだ。予約販売によって未完成物件のローン返済を抱える家計の不満が高まれば、政治を優先する習政権の基盤が揺らぎかねない。


そうした中国政府の政策と、9日の住宅相の発言は矛盾する。倪虹氏は金融支援を継続する姿勢を示しつつも、不動産企業に厳しい対応をとる考えを示した。前触れのない政策方針の転換に、耳を疑う中国経済の専門家は増えた。


■総額4兆円超の地方案件の対応が懸念される


全人代の会期中、中国人民銀行の潘功勝総裁は、「預金準備率に追加の引き下げ余地がある」と述べた。不動産市況の悪化を食い止め、雇用・所得環境を下支えする中銀の姿勢は強まった。


証券監督管理委員会のトップは、投資家が保有していない株を借りて空売りすることをより厳格に取り締まる考えを示した。株価下落時の市場介入も強化するようだ。いずれも不動産デベロッパーなどの延命を重視した政策方針の継続を示唆した。


ところが、住宅相は強硬に不動産業界の整理を進める見解を示した。延命、不良債権処理、どちらを優先して中国が不動産バブル崩壊の後始末を進めるか、落としどころは見出しづらくなった。


懸念が高まるのは、地方政府の対応の乱れだ。記者会見中、倪氏は「地方政府が融資適格と認定した不動産の開発案件は6000件を超えた」と明らかにした。地方政府が認定したプロジェクトへの融資承認額は、2000億元(約4兆1000億円)を超えた。


写真=iStock.com/4045
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/4045

■足並みが揃わないと金融機関に波及する恐れ


その発言を額面通りに解釈すると、ホワイトリストにどの案件をのせるかは地方政府の責任ということになる。足許、中国の住宅価格は下落傾向が続く。2月、カントリー・ガーデンの販売面積は前年同月比89%減と報じられた。2024年も中国の不動産販売額は減少し、3年連続で不動産市況は悪化する恐れが高い。


一方、中央銀行が金融緩和を強化する。住宅建設などを監督する当局も延命を優先する。政策の方向性が一致する場合、地方政府は中央の政策方針に従って行動すればよい。反対に、政策の方向性が一致しないと、地方政府はどの案件を支援するか二の足を踏むだろう。


地方政府の不動産対策姿勢の乱れは、金融機関などのリスク許容度を減殺する。大手行などが不動産分野への融資に慎重になる恐れは高まった。シャドーバンキング、融資平台など不動産デベロッパー以外の融資も抑制傾向が強まるかもしれない。


■不良債権処理が遅れた90年代日本と重なる


バブル崩壊後のわが国の経験からして、不動産バブル崩壊に関する政策が後手に回ったり、有効な対策の発動が遅れたりすると経済環境の厳しさは高まる。1990年代、わが国の政府は、金融緩和を強化しつつ、信用保証制度を拡充するなどして企業向けの貸し出し促進に取り組んだ。


1997年度までは公共事業関係費も積み増した。1999年には公的資金を用いて銀行の自己資本を増強した。当時のわが国の政権は、「景気を下支えすればいずれ設備投資が回復して景気は持ち直し、不良債権処理も解消に向かう」と考えた。


しかし、実際にはそうならなかった。不良債権処理が遅れたことによって徐々に金融機関のリスク許容度は低下し、景気は長期停滞に陥った。2008年9月15日のリーマンショックの発生直後、米国は迅速に金融緩和と財政資金を用いた不良債権(資産)の買い取り制度を発動した。また、シェールガス開発の支援も強化した。米国は、バブル崩壊後のわが国の教訓を生かし、景気後退を比較的短期間で切り抜けたといえる。


■優秀な官僚の進言が中枢に届きにくくなっている


これまで中国人民銀行や政府の関係者は、失われた30年に陥った日本経済をつぶさに研究し、同じ轍(てつ)は踏まないとの見解を示してきた。しかし、わが国の教訓を活かすことは難しい。今回の全人代で明らかになった通り、習政権は経済よりも政治の強化を優先している。


経済政策に精通した優秀な官僚の進言は、習政権の中枢に届きにくくなったのかもしれない。政策が後手に回るだけでなく、ここにきて方向性までもがばらつき始めた。政策の方向性が定まらないことには、国内の企業、個人、海外企業、内外の投資家は中国の景気先行きに慎重になる。


先行きを懸念する人は、本土株や人民元を売り、資本逃避は激化する恐れも高い。資金流出を食い止めようと中国政府が資本規制を強化する恐れも増す。結果的に資金流入は細り、不動産市況の悪化、不良債権問題は深刻化するだろう。政策の方向性が一つに収斂しないことには、中国経済が正常な環境を取り戻すには長い時間がかかりそうだ。


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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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