「ちゃんと日本語喋って!」人気者だと思っていた娘は加害者だった…子どもが事件を起こす家庭の意外な共通点

2024年3月20日(水)16時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

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いじめや犯罪の加害者になってしまう子どもたちには、どのような共通点があるのか。犯罪加害者の家族を支援するNPO法人の代表を務める阿部恭子さんは「いままで3000件以上の相談を受けてきたが、子どもが事件を起こした家庭は、子どもを甘やかしたというより厳しくしつけている家庭の方が多い」という——。
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■突然、「いじめ加害者」になったわが子


朝、家族を送り出す時、「気を付けてね」と声をかけることがあるだろう。このとき、想像するのは、家族が事故に遭ったり、犯罪に巻き込まれたりすることであって、事故や事件を「起こす側」になることは想像しにくいのではないだろうか。


筆者は2008年、日本で初めて「加害者家族」を対象とした支援活動を始めたのだが、加害者側の悩みを聞くというだけで、まるで人ではないかのような拒否反応を示されることもあった。


しかし、加害者とは犯罪者に限ったことではない。昨今、SNSに投稿した映像が炎上したり、過去に黙認されていた行為が明るみに出て、スターから加害者に転落する人々も存在している。


実のところ、加害者になることとは、誰にでも起こりうるリスクなのである。本稿では、身近な問題として、子どもが「加害者」になってしまったケースを紹介したい。近年、いじめを苦に生徒が自死した事件がメディアに大きく取り上げられ、SNSで加害児童への批判が集中し、一家が転居を余儀なくされるようなケースも存在している。身近な問題であるだけに、いじめに対する世間の反応は敏感である。


「うちは子どもをきちんとしつけているから大丈夫」と考える人も少ないくないかもしれないが、「きちんとしたしつけ」にこそ、落とし穴があるかもしれない。ある日突然、自慢の子どもが加害者と呼ばれてしまったとしたら……。


事例では、プライバシー保護の観点から登場人物の名前はすべて仮名とし、個人が特定されないようエピソードには若干の修正を加えている。


■学校の人気者だと思い込んでいた娘が加害者になり孤立


「いじめだなんて……、うちの子はただ、転校してきたお子さんのことを考えて注意してあげただけだと思うんですが……」


佐藤美穂(40代)は、地方都市の小学校に通う長女の愛理(11歳)のいじめにより、被害児童が不登校になったとして、ある日突然、学校から呼び出された。美穂にとって愛理は、勉強もスポーツもよくでき、家では母の手伝いをし、妹の面倒をよく見る自慢の娘だった。


学校ではクラス委員を引き受けたり、学芸会で主役を演じるたりするなど、人気者に違いないと思い込んでいた。ところが、実態はクラスメートから煙たがられており、学校で孤立しているというのだ。


夏休み明け、愛理のクラスに女子児童・凛が小さな町から転校してきた。担任が特別頼んだわけではなかったのだが、クラス委員の愛理は凛の世話役を買って出た。実はこの時、既に愛理はクラス内で孤立しており、友達がいない状態だったのだ。


何も知らない凛は、積極的に声をかけてくれる愛理と仲良くするようになった。ところが、ひと月が経過した頃、凛は学校に来なくなってしまった。担任が凛の家庭訪問をしたところ、凛は愛理と一緒にいることが苦痛だと訴えていた。


写真=iStock.com/Tomwang112
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tomwang112

■「あなたのためにやった」という論理


「凛ちゃん、その言葉遣いおかしいよ。ちゃんと日本語喋って!」


凛が以前、暮らしていた地域は方言が強く、凛は度々、愛理から、言葉遣いを直すよう注意を受けていた。


「凛ちゃん、ここは山の中じゃないんだから、服装気を付けてよ」


人一倍オシャレに気を遣う愛理は、凛の服のセンスにも文句をつけていた。


「愛理は一時期、運動会のために凛ちゃんを特訓するって、朝早く出かけていました。凛ちゃんのために頑張っていたはずなのですが……」


この「特訓」も、凛が望んだことではなかった。何より、凛は、他のクラスメートとも仲良くしたかったが、愛理がそれを許さなかったのだ。愛理は、担任から凛の気持ちを聞かされ落ち込んだが、母親の美穂は、それでも娘の加害性にピンと来ていない様子だった。


「愛理としては、凛ちゃんが学校に馴染みやすいようにって、凛ちゃんのためを思ってやったことだと思うんです……」


虐待やDVの加害者たちはよく、「あなたのためにやった」と加害行為を正当化する傾向がある。方言や服装のセンスなど、個人のアイデンティティーを否定するような行動は控えるべきである


■かつては「被害者」だった


愛理は、1年前、同じような問題からいじめの「被害者」になっていた。自分の方針に従わないと、口うるさく説教する愛理に嫌気がさし、クラスの友達は皆、愛理から離れていってしまっていた。愛理はクラスメートから無視されたと母親に相談すると、美穂はすぐ当時の担任に、娘がいじめられていると抗議をした。


この時の担任は新米で、保護者からのクレームに慌て、根本的な問題に言及することなく、「愛理さんと仲良くしてください」と児童に呼びかけ、表面的に問題を解決させていた。


今回は、凛が不登校になってしまったことにより、愛理は加害者の立場に立たされたが、問題の本質は、かつて被害者になった頃と変わっていなかった。


「美穂は社会性が低く、独善的なところがあって……」


これまで家庭に干渉しなかった夫の浩二も、今回ばかりは子どもが「加害者」と呼ばれ、慌てた様子で問題解決に乗り出していた。


愛理の言動は、母親のしつけが影響していることは浩二も認めていた。美穂は、どこでも自分が一番でなければ気が済まない性格で、勉強でもスポーツでも常に一番であることを子どもたちに課しており、他人を尊重することなど全く意識下になかった。優秀であったり、立場が上であれば、相手が従うのが当たり前だという思い込みがあった。


■厳しくしつけている家庭の問題点


美穂は大学卒業後、数年、会社に勤務した後、結婚を機に退職。その後はずっと専業主婦だった。世話好きであることから、地域の行事やボランティアに積極的に参加してはいるものの、友達付き合いはほとんどなかった。


「正義感が強く他人に厳しいので、美穂と本音で話ができる人は少ないでしょう。『子どもは、皆に認められる自慢の子にしたい』というのが美穂の口癖でした。おそらく、自分がかなえられなかった理想像なんだと思います……」


他人をコントロールしたい美穂にとって、思い通りになった存在は唯一、長女の愛理だった。


写真=iStock.com/takasuu
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「愛理も母親の期待が重すぎたようです」


娘は、母に対する本音を父親に打ち明けていた。


「『一番』よりも、人を思いやる気持ちを育ててやらないと、一生、この子は寂しい思いをして生きることになるんだぞ」


夫の言葉に、美穂はようやく自分の独善性に気が付き始めた。


■「いい子」に育てようとすることの危険性


「健全な子育て」によって、親の期待する役割を演じることに耐えられなくなった子どもたちが犯罪者になる傾向について論じた、岡本茂樹著『いい子に育てると犯罪者になります』(新潮新書、2016)の主張は、決して大袈裟とはいえない。


筆者はこれまで3000件以上のさまざまな状況にある加害者家族から相談を受けているが、子どもが事件を起こした家庭は、意外にも、子どもを甘やかしたというより、どちらかと言えば、厳しくしつけている家庭の方が多いのだ。「いい子」を強いられる子どもは本音を出せず、隠れたところで加害行為に及ぶことがある。


聖也(15歳)の両親はふたりとも教師で、子どもたちのしつけには厳しかった。聖也は学校の成績もよく、面倒見のいいリーダータイプだったが、あろうことか、近所の知的障害を持つ女子児童・真実にわいせつ行為をしていたことが発覚した。


「とにかく、困った子がいたら助けてあげなさいっていつも教えてたんです。真美ちゃんのこともよく面倒を見てあげてたはずなんですが……。まさかうちの子が、被害者になることはあっても、加害者になるなんて……」


聖也の両親は、現実を受け止められずにいたが、同級生の一部は、相手を見て態度を変える聖也の「裏の顔」に気が付いていた。


■厳しいしつけは子どもの加害性を育てるおそれも


岡本氏は、子どもを犯罪者にしないためには、厳しいしつけより、子どものありのままを受け止めることの重要性を説いている。しかし、世間の常識は、前者に価値を置く傾向にある。


家庭での虐待や学校での体罰が見過ごされていた時代、暴力やプライバシー侵害もしつけや教育として正当化されてきた。それゆえ、事件が発覚した時の家族の衝撃は大きく、加害性の認識が欠けている親たちも少なくない。家族の意識がそうであれば、子ども自身も原因を掘り下げず、同じ問題が繰り返されてしまう。


日々、世間を騒がせている事件について、加害者側を批判するだけではなく、自らの子育てを振り返るきっかけにしていただきたい。


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阿部 恭子(あべ・きょうこ)
NPO法人World Open Heart理事長
東北大学大学院法学研究科博士課程前期修了(法学修士)。2008年大学院在籍中に、社会的差別と自殺の調査・研究を目的とした任意団体World Open Heartを設立。宮城県仙台市を拠点として、全国で初めて犯罪加害者家族を対象とした各種相談業務や同行支援などの直接的支援と啓発活動を開始、全国の加害者家族からの相談に対応している。著書に『息子が人を殺しました』(幻冬舎新書)、『加害者家族を支援する』(岩波書店)、『家族が誰かを殺しても』(イースト・プレス)、『高学歴難民』(講談社現代新書)がある。
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(NPO法人World Open Heart理事長 阿部 恭子)

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