「英語が話せる」ではアメリカでバカにされる…東大の授業を受けてわかった「英語以外の言語」を学ぶ重要性
2025年3月20日(木)17時15分 プレジデント社
東京大学駒場Iキャンパス正門(写真=Kakidai/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)
東京大学駒場Iキャンパス正門(写真=Kakidai/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)
■爆速で語学力が向上する東大の授業の中身
トライリンガル・プログラム(TLP)とは、日本語、英語に加えて第二外国語を本格的に学び、1年で実用レベルの外国語を習得する授業です。
TLPに所属すると、通常の第二外国語の授業とは別に、外国語のネイティブ教員などによる演習授業を受けることになり、他大学とは比較にならないほど速いペースで授業が進んでいきます。
加えてTLPコースは、演習授業とは別に、国際研修という海外研修が行われることが多く、学習した外国語を実際に海外で使用する環境にも恵まれています。現在は、中国語、ドイツ語、フランス語、ロシア語、韓国朝鮮語、スペイン語の計6カ国語で開講されています。
授業の内容については各言語ごとに異なりますが、今回は筆者の体験したフランス語TLPについてご案内します。
フランス語演習の授業では、フランス語のテキストを参照しながら、会話形式やゲーム形式など様々な形で実践的なフランス語を学んでいきます。教室で一方的に先生の話を聞きながら、外国語の文法を習うというような、伝統的な言語学習の形とはまったく異なり、とにかく「遊び感覚」で外国語を学んでいくところに特徴があります。
ネイティブ教員が授業を担当するときも、日本人教員が授業を担当するときも、基本的にはフランス語のみで授業が行われ、もしフランス語で理解できないことがあっても、質問をするにもフランス語が求められるというスタンスで進んでいきます。
■1年程度でフランス語をマスター
驚くことに、大学1年生の初回の授業から、オールフランス語です。筆者が最初の授業に出席したときは、何もフランス語を理解しておらず、Bonjour(ボンジュール)というフランス語の挨拶すら知らない状態でした。
それなのに、フランス語の先生は、初回から私に対して、Bonjour! Bonjour! Ça va bien? Comment tu t’appelles?(こんにちは! 調子はどうですか? 名前を教えてください)と聞いてきました。
Bonjourが挨拶の言葉っぽいことは、雰囲気から察することができたのですが、それ以降については一切理解できず、フリーズしてしまった思い出もあります。
こうして、とにかく「フランス語を使うこと」に重きを置いた授業を通して、学生は1年程度でフランス語をマスターしていきます。
「そんな短期間で外国語をマスターできるの?」と疑問に思われるかもしれませんが、TLPでは実質的に留学と同じくらい外国語に触れる環境が整っているため、飛躍的に語学力が伸びていきます。
■ユニークな授業内容
例えば、フランス語TLPでは、教員の好意で、授業外の昼休みの時間には、「しゃべランチ」というフランス語練習の場が設けられていました。このしゃべランチでは、TLP1年生や2年生のみならず、TLPを卒業した3、4年生、さらにはフランス語のネイティブ教員たちがお弁当を持ち寄って、フランス語で会話を楽しみます。
フランス語に慣れていない1年生でも、TLPの先輩たちの補助を受けながら、フランス語を話す練習ができるため、日本にいながらも、留学して言語を学ぶのと同様の体験をすることができます。
また、ハロウィンやクリスマスにはパーティがあるなど、魅力的な企画も多く、フランス語を楽しみながら勉強したい学生にとって最適な環境が整っています。外国語を学ぶときは、話し相手がいない、一緒に勉強する仲間がいないといった理由で挫折してしまうことがよくあると思うのですが、とにかくフランス語仲間が増えていく環境が用意されており、フランス語を学ぶモチベーションを保てるというのが魅力です。
先ほど軽く述べたように、授業内容もユニークなものでした。外国語の授業と聞くと、多くの人は座って教科書を読んだり、問題を解いたりする光景を想像すると思うのですが、TLPの授業では、かなり変わった光景が広がっていました。
■教科書も黒板も使わない
フランス語で即興劇をしてみたり、フランス語のボードゲームやカードゲームをしてみたり、ある意味「授業らしくない」遊びを通じてフランス語を学んでいきます。
例えば、即興劇では、デートプランを提示して相手の合意を取り付けたり、レストランでクレジットカードが使えなかったときに店員に文句を言ったり、郊外に引っ越したい人におすすめの物件を紹介したり、日本語でも難しそうな会話の練習をたくさん経験しました。例えば、店員に文句を言う即興劇はどんな感じかというと、
「すみません、本店は現金払いしか対応していないので、現金で支払いをしてください」
「え、現金しか使えないなんて知りませんよ! クレジットカードでしか払えません」
「それじゃあ、現金を持っていないのに飲食をしたってことですか? 食い逃げするつもりなら許しませんよ!」
「失礼だな! クレジットカードなら払うって言っているでしょう」
「それは無理です。現金をおろしてから、もう一度店に支払いに来てください!」
「現金をおろすって、ここから銀行は遠いんですよ? 交通費はどうしてくれるんですか!」
といった会話をその場で考えながらフランス語で話していくのです。
■国際研修で見た衝撃的な光景
日本語であれば絶対に言わないようなことも、フランス語を使うようになると言えるようになったり、そもそも会話するときの頭の使い方が変わったりするなど、即興劇から学べることはたくさんありました。
こうした授業では、普通は教科書で習わないような表現も含めて、非常に実践的なフランス語を学ぶことができるので、フランス人と会話したり、フランスで生活したりしたときには、大変役に立ちました。
「好きこそ物の上手なれ」と言われるように、とにかく面白くフランス語を学ぶことができるので、TLPコースには、東大の授業の中でも屈指の魅力があると思います。
さらにTLPコースでは、授業で学んだ語学力を、世界を舞台に国際研修という場で実践できるのが特に面白い点です。フランス語TLPでは、大学1年生の冬にパリ・リヨンへの国際研修、大学2年生の夏にパリとアンジェへの国際研修と、合計2回の研修プログラムが用意されていました。
2年生夏の国際研修では面白い出来事が起こりました。研修では世界各国からフランス語を学びに来たメンバーと一緒にフランス語の集中授業を受けることになっていて、フランス語のレベル別にクラス分けされました。
写真=iStock.com/Ababsolutum
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ababsolutum
■語学学習でもっとも大事なこと
筆者はてっきり「外国人と一緒にフランス語を勉強できる」と思っていたのですが、なんと振り分けられたクラスはほとんどTLPメンバーでした。世界中から集まった学生のうち、最上位はほとんど東大生で、日本で授業を受けるのと同じようなクラスになってしまったのです。
日本でフランス語を学んでいるときには、あまりTLPの特殊性がわかっていなかったのですが、語学学校に来ていた他の外国人と話してTLPのすごさを痛感しました。他国の学生の大半はフランス語学習歴6年、7年といった人で、1年程度でフランス語を習得できるTLPの学生は異常と言ってもよいくらいなのです。
それだけの語学力を培えた理由は、熱心な先生方や多才なクラスメイトと一緒に勉強できる環境です。外国語を学習する際には、どうしてもモチベーションが下がってしまう時期が来るものですが、理想的な環境のおかげでフランス語を続けられました。
東大生には、大学生になってから語学に目覚め、複数の外国語を習得していく人が一定数いますが、それはもしかしたらTLPをはじめとした東大の言語学習プログラムのおかげなのかもしれません。
最後に、この授業で特に印象的だった学びをご共有したいと思います。
■なぜ複数の外国語を勉強するのが大切なのか
夏の国際研修では、アンジェというフランスの地方都市で2週間から3週間程度ホームステイする企画がありました。私がホームステイしたのは、60代後半のマダムが一人暮らしをする家庭でした。そのマダムは元同時通訳者で、国際会議などでフランス語、ドイツ語、スペイン語の同時通訳を行っていたそうです。
ホームステイをしていた当時、筆者もフランス語に加えて、ドイツ語やスペイン語の学習にも励んでいたので、マダムは大変シンパシーを感じてくれました。
そこで、私に向かって「どうして複数の外国語を勉強するのが大切なんだと思う?」と質問してきました。
コミュニケーションを取るだけなら英語が使えれば十分で、学ぶ外国語を増やせば増やすほど、1つ1つの語学力は中途半端なものになってしまうかもしれない。それなのに、あえて複数の言語を学ぶのには、どういった意味があるのか——マダムはそう問いかけたのです。
その質問に、筆者は戸惑ってしまいました。
するとマダムはこう続けました。
■国際人として大事なのは英語力だけではない
「複数の言語を学ぶことで、私たちの言語力の差はなくなる。私たちみたいに英語が母国語でない人はいくら英語を勉強しても、英語のネイティブに英語では敵わない。だけど、英語以外にも、フランス語が話せる、ドイツ語が話せる、スペイン語が話せるとなれば、その点で英語のネイティブにだって言語力で勝つことができる。
日本人は英語が話せない、と英語圏の人から下に見られやすいかもしれないけど、それでもフランス語やドイツ語が話せたら、国際人として対等になれる。そういう意味で外国語を学ぶことには、大きな意義があるし、フランス語を話せることはあなたの人生において大事なアドバンテージになるんだよ」
この言葉を聞いて、自分が今までフランス語を必死に勉強してきたことや、他の外国語も話せるようになりたいと必死に努力してきたことが、少し報われたような感じがしました。
東大カルペ・ディエム『東大1年生が学んでいること』(星海社新書)
私たち日本人は、学校教育を通じて英語を学ぶこと、英語が話せることが大切だと考えがちですが、国際人として大事なのは、英語力だけではなく、バランスのとれた語学力なのかもしれない。そう考えさせられました。
外国語を学ぶことは、その国の文化を学ぶことだとよく言われます。筆者はこのことを、留学を通して体感しました。今のマダムの話も、形式的に授業で伝えられるだけでは、その意味を正しく理解できないような気がします。現地でフランス語を学ぶことの難しさと面白さを痛感し、フランス人たちと寝食をともにして初めて理解できる価値観のように思えました。
ぜひ本稿を読んでいる読者の皆さんも、機会があるときに海外へ飛び出して、異文化を学ぶ体験をしてみてください。En revoir!
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東大カルペ・ディエム
東大生集団
2020年6月、西岡壱誠が代表として株式会社カルペ・ディエムを設立。西岡を中心に、貧困家庭で週3日バイトしながら合格した東大生や地方公立高校で東大模試1位になった東大生など、多くの「逆転合格」をした現役東大生が集い、日々教育業界の革新のために活動している。漫画『ドラゴン桜2』(講談社)の編集、TBSドラマ日曜劇場『ドラゴン桜』の監修などを務めるほか、東大生300人以上を調査し、多くの画期的な勉強法を創出した。そのほか「リアルドラゴン桜プロジェクト」と題した教育プログラムを中心に、全国20校以上でワークショップや講演会を実施。年間1000人以上の学生に勉強法を教えている。
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(東大生集団 東大カルペ・ディエム)