ライバルの足をすくったことは? 官僚主義的思考から脱却する12の問いかけ

2024年3月18日(月)4時0分 JBpress

 未だ大企業が抜け出せない官僚主義。変化の激しい時代にあって、イノベーションの創発によって成長し続ける企業へと進化するには、どんな組織改革が必要なのか? 本連載では、世界で最も影響力のある経営思想家の1人、ロンドンビジネススクール客員教授ゲイリー・ハメル氏による『ヒューマノクラシー ——「人」が中心の組織をつくる』(ゲイリー・ハメル、ミケーレ・ザニーニ著/英治出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第6回は、組織から個人へと視点を移し、大企業のビジネスパーソンが官僚主義的思考から抜け出すための12の問いかけを紹介する。

<連載ラインアップ>
■第1回 「人間らしさ」が失われると、なぜ組織は病んでしまうのか?
■第2回 高収益体質で業界トップを独走、米国鉄鋼大手・ニューコアの企業文化とは?
■第3回 業界平均より25%高い報酬を実現、米ニューコアの独自のボーナス制とは?
■第4回 8万人の「起業家集団」! 中国家電大手・ハイアールの「人単合一」とは?
■第5回 ハイアールの成長と変革の源泉、「リーディング・ターゲット」とは何か?
■第6回 ライバルの足をすくったことは? 官僚主義的思考から脱却する12の問いかけ(本稿)

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官僚主義者のためのデトックス

 これまで述べてきたように、大企業で働く人の4分の3は、他人に先んじるための秘訣は、官僚主義的な抜け目のなさであると考えている。

 この考えは現実を反映したものだろうか。あるいは、能力の劣る人たちが、昇進を逃したときに使う言い訳だろうか。どちらにせよ、問題は人々がこれを信じ、おそらくはこの考え方に従って動いていることだ。

 内部抗争に長けた人だけが出世できると信じている人は、その戦術を真似ようとする。ちょうど、メダルを取る唯一の方法はドーピングすることだと、嫌々ながらも思い至るアスリートのように。

 前にも述べたが、官僚主義は競争だ。職位による権力と報酬のために、参加者を互いに競わせる。競争自体には、まったく問題はない。ただし、勝利のために人間らしさが犠牲になるとすれば話はちがう。官僚主義が崩壊しはじめるのは、才能があり信念を持った人たちが、戦いの場から去るときだ。

 目先の利益に目もくれない異端者たちが、自分の正義のために、そして、官僚主義によって傷つけられた人たちのために、官僚主義的な意味での勝利を見送るときだ。社会運動研究の第一人者でハーバード大学教授のマーシャル・ガンツが指摘したように、世界を変える人たちが目指すのは、「競争に勝つことではなく、ルールを変えることだ1」。

1:Marshall Ganz, “Leading Change: Leadership, Organization, and Social Movements,” https://www.researchgate.net/publication/266883943_Leading_Change_Leadership_Organization_and_Social_Movements.

 新しい競争を覚えるには、古い競争を忘れなければならない。もし、あなたが黒帯級の官僚主義者だったとすると、反射的にやっている習慣をどうやって変えればいいのか。官僚主義者のデトックスとは、どのようなものだろう。それは他の回復プログラムとよく似ている。手始めに、アルコホーリクス・アノニマス(AA)の回復ステップを参考にした方法を紹介したい。

 AAの12ステップの4番目は、「恐れずに、徹底して、自分自身の棚卸しをすること」を求めている。この精神にのっとれば、組織で働く人は誰でもこう自問する必要がある。

「官僚的な仕組みのなかで勝つために、私は自分の信条をどこで手放したのか。官僚主義によって、私はどのように人間らしさを失ったのか」

 以下に、簡単な練習問題を用意した。あなた自身の先週、あるいは先月の行動について、よく考えてみよう。

 1 私は見えないところでライバルの足をすくったか・・・官僚主義では権力はゼロサムだ。あるポジションが空いても昇進できるのは1人だけ。上へ昇ろうとする競争では、他者の貢献を小さく見せたり、その人たちの誠実さや能力を疑わせる種をまきたい誘惑に駆られる。

 2 権限をシェアすべきだったとき、私はそれにしがみついたか・・・ヒエラルキーの組織のなかでは、大きな報酬を得るのは、大きな意思決定をする人だ。人よりも高いステータスを正当化するために、マネジャーたちは難しい判断をしているように見せなければならない。そのため、権限をシェアすることには後ろ向きになる。

 3 私は予算要求を水増ししたり、事業の利点を誇張したりしたか・・・官僚主義における資金の分配は柔軟性に欠け、保守的だ。予算はたいてい1年前に決められ、リスクのありそうなものはどれも評価が下がる。こうした状況から、必要以上の資金を求めたり、事業のメリットを誇張したいという誘惑が生じる。

 4 上司のアイデアに熱心な振りを装ったか・・・官僚主義では、上司の意見に反対するとキャリアに影響が出る可能性がある。したがって、上司に忠実ではないと見られるリスクを冒すよりも、自分の懸念を呑み込みがちだ。

 5 意思決定で人間的なコストを無視したか・・・もし、あなたの組織が従業員を単なる経営資源として扱っているなら、短期的な事業利益のために、信頼や関係資本を犠牲にするような決断を迫られるかもしれない。

 6 大胆になるべきときに安全策をとったか・・・官僚主義では、手をこまねいていたときより、失敗したときのほうが科せられる罰は大きい。そのため、「臆病」であることを「慎重」なのだと弁護したくなる。

 7 逆効果となりそうな政策に反対し損なったか・・・政策決定者に意見するよりも、くだらない規則について愚痴を言うほうが簡単だ。不服従は市民にとって決して安全な選択ではない。だが、人々が立ち上がらなければ制度は変わらない。

 8 部下を成長させるために十分に力を注がなかったのではないか・・・前述したように、「ありふれた仕事」は「ありふれた人たち」がやっているという思い込みがある。その結果、ありふれた仕事をしている従業員の成長機会を見過ごしがちだ。

 9 イノベーションを追求する場や時間を設けなかった、あるいは有望なアイデアを支援する機会を逃していないか・・・イノベーションを支援してもあまり見返りはない。時間はとられるし、たいていは失敗に終わる。新しいアイデアを応援するより、身を潜めているほうが簡単だ。しかし、そんなことをしていたら惰性に陥り、動きが鈍くなるだけだ。

 10 事業全体を犠牲にして、自分のチームをひいきしたか・・・官僚主義では、経営資源を他の部門と共有してもほとんど報いはない。組織全体にとって最善ではなくても、一部の利益のために行動するほうが、その人にとって最もよい結果をもたらすことが多い。

 11 不当に責めを免れたり、評価を得ようとしたりしたか・・・官僚主義では、業績評価はチームではなく個人にフォーカスしている。だから、失態を演じても悪い評判が立たないよう、称賛されたときにはそれが長続きするよう仕向ける。この行動によって評価が歪められ、報酬の分配が不公平になる。しかし、個人主義的な組織では、これが勝利を手にする方法となる。

 12 急場をしのぐために、自分の価値観を犠牲にしたか・・・官僚主義では何よりも結果が重視される。だから目標さえ達成すれば、どんな抜け道を使ったかなど誰も聞いてはこないだろう。それに慣れてしまうと、倫理よりも結果を重視するようになり、組織もその行動から生じた道徳的な問題に鈍感になる。

 これらの問いについて考える時間を確保しよう。ノートや表に書き出してみよう。人としてではなく、官僚主義者として振る舞ったときがあっただろうか。そのきっかけは何だったのか。今後、同じきっかけがあった場合に、どうすれば官僚主義者のように振る舞わずに済むだろうか。

 筆者らの経験では、毎週、この12の問いかけをすることには意味がある。これに真剣に取り組めば、同僚はすぐにあなたの変化に気づくだろう。あなたはより寛大に、思いやり深く、接しやすくなり、その結果、より成果をあげられるようになるはずだ。

<連載ラインアップ>
■第1回 「人間らしさ」が失われると、なぜ組織は病んでしまうのか?
■第2回 高収益体質で業界トップを独走、米国鉄鋼大手・ニューコアの企業文化とは?
■第3回 業界平均より25%高い報酬を実現、米ニューコアの独自のボーナス制とは?
■第4回 8万人の「起業家集団」! 中国家電大手・ハイアールの「人単合一」とは?
■第5回 ハイアールの成長と変革の源泉、「リーディング・ターゲット」とは何か?
■第6回 ライバルの足をすくったことは? 官僚主義的思考から脱却する12の問いかけ(本稿)

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筆者:ゲイリー・ハメル,ミケーレ・ザニーニ,東方 雅美,嘉村 賢州

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