「数字はウソをつかない」はウソである…橋下徹が「日本人の悪い癖」と嘆くデータの扱い方

2024年4月10日(水)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

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「数字はウソをつかない」は本当なのだろうか。元大阪市長・大阪府知事の橋下徹さんは「内閣支持率やGDPといったデータでも、使い方によっては真逆の結論を導くことができる。日本人はデータから導き出した『意見』を『事実』と混同しがちだ」という——。

※本稿は、橋下徹『情報強者のイロハ 差をつける、情報の集め方&使い方』(徳間書店)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/takasuu
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■数字は一見中立的でフェアに見える


ファクトフルネスやデータサイエンスをことさら声高に標榜する人の言い分はこうだ。


「人は感情や思い込みによって判断や解釈を間違う。だから感情の混じらない数字やデータをなにより見るべきだ」「数字は人を裏切らない、人を騙さない。だから数字を最重要視すべきだ」


それはほんとうだろうか?


数字はたしかに一見、中立的で無機質でフェアに見える。でも光の当て方や切り取り方を変えれば、まったく違う文脈を帯びてくる。


例えば、内閣の支持率が下降しているとのデータを示す際、グラフの目盛りの間隔を大きくすれば、「急下降」しているように見える。視覚的にそんな演出が可能だ。もちろん逆の効果を狙ったグラフだって、いかようにもつくれてしまう。


■数字に隠された恣意性


個人的な体験談になってしまうが、僕が大阪府政に関与している期間のデータについてもそのような作為はたくさんあった。


僕に批判的な立場の人が「橋下府政の経済政策はなんの意味もなかった」と訴え、僕が大阪府知事だった期間の大阪府内総生産をその根拠として引き合いに出す。問題はその数字の切り取り方である。


そこで提示された府内総生産では、大阪は全国47都道府県中、たしかに下位に沈んでいる。その「事実」を指摘して、「だから橋下は無能だ」と断じるわけだ。


僕としては苦笑するしかない。もちろんそう思うのは自由だし、だいいちウソではない。その数字はフェイクではなく、れっきとした事実だ。


でも、その数字には恣意性が隠されている。


■数字やデータも時に人を欺く


たしかにそこで示された数字のみに着目すれば、全国で下位なのは間違いない。でも、前知事、前々知事時代からの府内総生産の推移に着目すると、別の「事実」も浮上してくる。


長らく右肩下がりだった府内総生産は僕の任期中に底を打ち、そこから徐々に上昇しているのが明らかに見て取れるはずだ。そこに光を当てず、部分的なデータを切り取って、「橋下府政は成果を生み出さなかった」という1つの意見を突き付ける。それはフェアじゃないし、なにより府民に誤解を生む。


繰り返すが、僕を無能だとするその「意見」自体は、自由だ。日本には表現の自由がある。誰かが誰かのことを好む・好まない、評価する・評価しないは、個人の自由。だから「橋下は無能だ」という人の好みを、批判するつもりはない。


そうではなく、ここでみなさんにお伝えしたいのは、ある特定の数字やデータとはそういうものにすぎないということだ。


切り取り方しだいで意味合いはがらりと変わる。もっと言えば、容易に人を欺きもする。世の中にあるさまざまなファクトは決して鵜吞みにできないということだ。


報道や言論は、数字やデータを駆使してある結論を導く。数字やデータは無機質だから、そこにはフェアな視点があるように思える。でも、その結論までもがフェアだとはかぎらない。


数字やデータは語りたいストーリー(物語)をつくり出すために、時として恣意的に使われる場合もあることを覚えておいてほしい。


提供=TNマネジメント
橋下徹氏 - 提供=TNマネジメント

■同じデータからでも真逆の結論を導くことができる


例えば、「日本の国際競争力は低下している」という意見がある。でも同時に「日本の国際競争力は向上している」という真逆の意見も存在する。


では、どちらかがウソを述べているのだろうか。そうではない。


どのデータを使い、どの現象に光を当てるかによって、結論は変わりうる。


2023年度上期、日本の輸出額は増え、経常収支額は12兆7064億円の黒字(財務省発表)だった。年度の半期としては過去最高額だ。そのデータを重視すれば、「国際競争力がある」という結論に至るだろう。


でも2023年の日本の名目GDP(国内総生産)は633兆円で、前年比0.2%減だ(国際通貨基金の調べ)。1997年以降、日本の名目GDPは横ばいという事実に光を当てれば、いくら輸出額は増えていても、「競争力がある」とは言い切れない。


さらに近年は日本国内で生産するより、海外に拠点を置く事業所も増えている。そうした海外生産部分が潤ったところで、日本国内の雇用が増えなければ、日本人に利益が還元されているとは言えない。


要するに「国際競争力がある」も「国際競争力がない」も、どちらの結論も、各種データや数字を駆使すれば導き出せるのだ。


■「意見」と「事実」を混同する日本人の悪い癖


これらの結論は、1つの「意見」である。3人いれば、3人の意見があるだろう。そして、それでいいのだと僕は思っている。


でも、概して日本人は意見の食い違いが苦手だ。「それは違う」「あんたは間違っている」と議論を通り越したケンカになりがちである。それは「意見」を「真実」とはき違えているから起きる現象だ。世の中にはたった1つの「事実」しか存在しないと、正解主義の日本人は考えがちなのだ。


写真=iStock.com/porcorex
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/porcorex

世界に自分しかいなければ、たった1つの事実をよりどころに生きていけばいい。でも現実は違う。3人いれば3通りの、5人いれば5通りの意見が存在する。であれば、そうした意見の違い、ズレにこそ、物事の問題解決のヒントが隠されていると考えるべきだろう。


建設的な議論とは、満場一致の「正解」を得ることではない。むしろ互いの立場や事情による「意見」の違いを知ったうえで、どうすれば私たちが幸福になるのか、どうすればよりマシな世の中になるのかを、みんなで考える作業なのだ。


■どんな情報を扱うかによって結論は変わる


僕はいまテレビで政治評論家としてコメンテーターの仕事をしている。そこで困るのが「現首相の通信簿をつけてください」というような依頼だ。多方面から考察を示す時間的余裕があるならいざ知らず、番組中のほんのわずかな時間で、視聴者に納得してもらえる通信簿をつけるのは難しい。


そもそも現首相の通信簿といっても、なにを基準にするのかで評価は変わってくる。外交手腕を見るのか、国内政治力を見るのか、あるいは政治家としての立ち回りやアピール力を見るのか。


また、絶対評価なのか、相対評価なのか、その違いも大きい。絶対評価の場合、どうしても評価する側の主観に頼らざるをえない。一方、歴代首相との比較ということになれば、評価基準はもう少し定まるかもしれない。


どんな情報に光を当てるかで結論は変わる。長引く円安をどう評価するかというような問題も同様だ。


■一方のみからの評価に意味はない


日本の輸出産業は、とうぜん円安によって潤う。またインバウンド需要においても、円安は追い風となる。日本円の安さは、外国人観光客にとって大きな魅力であることは間違いない。



橋下徹『情報強者のイロハ 差をつける、情報の集め方&使い方』(徳間書店)

もっとも「安い日本」というフレーズは、かつて経済大国の威光に浴した世代にとって喪失感をともなうものだ。でもこの円安の機会にたくさん訪れる外国人客に日本の良さを味わってもらえば、母国に帰ってからも日本製品や日本文化・食などを好み、消費してくれるかもしれない。そして友人や家族をともない、再訪してくれるかもしれない。その経済効果ははかり知れないだろう。


そうした観点で見れば、必ずしも円安は悪いことではない。


かたや日本は、食料、肥料、エネルギーなどの各資源を海外に大きく依存してきた。そこに光を当てると、円安は家計や経済に大きな打撃を与えることになる。食料品の値段も、真冬の灯油代も、真夏のエアコン代もますます高騰していくおそれがある。


企業も原材料費が重くのしかかれば、どんどん利益は減っていく。であれば、「円安=悪」となるだろう。


あらゆる物事にいえることだが、ある一面のみから評価をくだしても意味はない。それは幾多もある「意見」「見解」のうちの1つにすぎない。だからこそ「情報」に多面的な光を当てることが大切なのだと、あらためて強調しておきたい。


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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。最新の著作は『折れない心 人間関係に悩まない生き方』(PHP新書)。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)

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