宮根誠司の「Mr.サンデー」に討論する資格はなかった…「嫌なら行かない」という二次加害発言を流したフジの罪

2025年4月11日(金)17時15分 プレジデント社

フジテレビ本社、2025年1月 - 撮影=石塚雅人

宮根誠司氏が司会を務める「Mr.サンデー」(フジテレビ)で、中居正広氏から性加害された元フジテレビアナウンサーへの「二次加害」ともとれる発言が相次いだ。元民放のプロデューサーである影山貴彦さんは「放送内容を見て驚いた。宮根氏を始めとするテレビ関係者こそが、言っていいことと悪いことを区別できていない実態が明らかになった」という——。

■調査報告書公表の6日後に放送された「Mr.サンデー」が炎上


4月6日に放送された「Mr.サンデー」(フジテレビ)での“二次加害”発言が、窮地にあるフジテレビをさらにどん底に陥れている。


撮影=石塚雅人
フジテレビ本社、2025年1月 - 撮影=石塚雅人

中居正広氏による性暴力に端を発したフジテレビ問題について、3月31日、第三者委員会は394ページに及ぶ調査報告書を発表。同番組ではその報告書の内容について、MCの宮根誠司氏と6人のゲスト、元フジテレビアナウンサー・長野智子氏、橋下徹氏、古市憲寿氏、中野円佳氏、石戸論氏、後藤達也氏が討論したのだが、そこで被害者A子さん(元フジテレビアナウンサー)に対する二次加害と思える発言が連発された。


その引き金は宮根氏のこんなフリだった。


「アナウンス部の人たち全部が接待要員だとか、上納されるとか、そういう見方は視聴者の方にはぜひここは違うんだというのをね、僕は思っていただきたくて。みんなプロフェッショナルとして頑張ってらっしゃる」(宮根氏)
「ほとんどのアナウンサーは真面目に真摯にそういうこと(中居氏に自宅に誘われるなど)にもイエス・ノー言えて毅然としてきちんとやっている」(長野氏)


長野氏は「私、嫌だったら行かないと思うんですけど」、「この問題点って、女性アナウンサーでもいろいろいるので。私みたいなのもいるわけですよ」ともコメントした。


■「ほとんどのアナウンサーは被害者と違う」という二次加害


古市憲寿氏は「実際、そこ(調査報告書の「性暴力」認定)は真相がわからない。それが本当にレイプのようなものだったのか。それともセクシャルハラスメントみたいなものだったのか。本当にわからない」と問題を矮小化。宮根氏と橋下氏は以下のような論点ずらしも行った。


「これが業務の一環だという認定はいいのですが、じゃあ何が業務とプライベートの区分けをするのかが見えなければ、日本の社会はみんな“行くな”になってしまいます」(橋下氏)
「僕が藤本さん(司会の藤本万梨乃アナウンサー)をプライベートで誘いましたと。プライベートの話をしている最中に、途中で仕事の話になりましたと。それは業務なのかプライベートなのかって話になってきますよね」(宮根氏)
「トラブルが生じて全部社が責任を負わなきゃいけないんだったら『会うな』と……(以下略)」(橋下氏)


さらに宮根氏は「もっというと、フジテレビ内の社内恋愛はこれから成立しないってことですよね?」「私がやしきたかじんさんに誘われたのは業務の延長ですかね?」と悪質な冗談まで言ってのけたのだ。


これらの発言で番組MCやコメンテーター、番組スタッフは何が「二次加害」に当たるのかを理解していないことが明らかになった。テレビメディアのこうした認識のズレはなぜ生じるのか。


元MBS毎日放送のプロデューサーで、同志社女子大学メディア創造学科の影山貴彦教授に聞いた。


■影山教授「宮根氏よりフジの藤本アナに仕切らせるべきだった」


——4月6日放送の「Mr.サンデー」が被害者の女性への“二次加害”としてSNSで批判されています。番組をご覧になった率直な感想を聞かせてください。


【影山貴彦(以下、影山)】そもそも宮根誠司さんは通常のワイドショー司会時もそうですが、コメンテーターに振りつつ、それを受けてのリアクションをほとんどしないで終わりなんですね。エンターテイナーですので、しっかり検証しなければということよりも、面白さを優先させている印象を持ちました。


また、バランスをとろうとしたのでしょうが、出演者も多すぎましたね。橋下徹さんや古市憲寿さんなど、どうしても声が大きい人、前に出てくる人の方が印象に残ってしまう。よくワイドショーなどの構図として、中年男性キャスターがいて、その横に女性アナウンサーが添え物のようにいることも問題視されていますが、「Mr.サンデー」はまさにその例。番組内で宮根氏は藤本アナに1〜2回話を振りましたが、藤本さんの発言を受けての返しもなく、藤本さんが悲しい顔をしているように僕には見えました。今回は若い女性への性加害問題がテーマですし、メインの進行を藤本さんにしても良かったのではないかと思います。


■バッシングされた長野智子・元フジアナの発言の真意


——メディアでは被害者と同じ女性で、同じく元フジテレビアナウンサーの先輩ということもあり、長野智子さんの発言が多く取り上げられました。


【影山】長野智子さんは第一声がかすれ、緊張されていたように見えましたね。ご自身のラジオやXで反省のコメントもされていますが、被害者の女性とは年が離れていて、一緒に仕事したこともなかったはず。おそらく多くの同僚や後輩アナウンサーをかばうつもりで発言したのでしょう。被害者意識のようなものがデフォルメ化され、親しい後輩たちへの正義感で言ったけれど、被害女性に対する思いが抜けていた。それで二次加害となってしまったことは非常に残念です。


■まるで他局の問題のように扱った番組作り


——宮根さんのフリがそういったコメント待ちにも思えました。


【影山】個人攻撃はしたくないですが、宮根氏のMCは残念でしたし、ああいった番組の作り方をしたフジテレビには責任を感じてほしいと思います。VTRで会見が行われたとナレーションが入り、「フジテレビは再生できるのか。変われると思う方は22%、変われないと思う方は78%」などとやっていたことにも驚きました。思わず「Mr.サンデー」がどこの局の番組なのか、確認してしまったくらいです。これだけの不祥事を起こしておきながら、危機感がない人がフジテレビの中にまだまだたくさんいる。反省して反省して反省して、ようやく次の一歩を進めるのに、そこが全くできていない。大局的で、他人事なんですね。


写真=時事通信フォト
東京マラソンを完走し、ガッツポーズするフリーアナウンサーの宮根誠司さん=2014年2月23日、東京都江東区の東京ビッグサイト - 写真=時事通信フォト

——MCの宮根さんに加え、コメンテーターがフジテレビ寄りの橋下徹さんや古市憲寿さんという時点で見る気がしないという声も多かったです。局側としてはそうした一般の反応が読めないのか不思議です。


【影山】スタッフたちにしっかりと検証する気があったとは思えません。ただ、橋下・古市両氏に関しては、やはり絶妙にうまい。長野さんなどはある種ピュアだから、フリに全面的にのってしまい、炎上しましたが、橋下・古市両氏はフジをフォローするかと思いきや、うまいことバランスをとったりもしている。テレビというものを本当に熟知している。作り手としてはテレビ番組として成功させたい、数字をとりたい、話題を作りたいというのが本音なんです。ちゃんとした検証番組になったと胸を張っては言えないと思いますけど、うまくいったと思っているのではないでしょうか。だからこそ、橋下・古市両氏が入ることになる。


——橋下・古市両氏の名前がある時点で見ない人がいる一方で、話題になるから良い、ということでしょうか。


【影山】そうですね。忘れてはいけないのは、すばらしい番組が数字を取れるとは限らないということ。「宮根さんがまたひどい発言をした」などと言いながら、彼がいまだに君臨しているというのも同じで、本当に嫌いだったらチャンネルを合わさない。清廉潔白なアナウンサーキャスターがやっている番組よりも、ヒール見たさに見ている視聴者はいますよね。テレビをよく知る人は、数字や内容がどうであれ、自分がどう映るか、自分の発言がどう聞こえ、どのようにメディアで影響力を与えられるかという方が先に立つ。そういった人たちの方がテレビ業界で活躍しているということは否定できないですね。


■旧ジャニーズ事務所の会見との奇妙な共通点


——ある種の炎上商法だったわけですね。ただ、今回は番組制作のフジテレビ(と関西テレビ)が問題の当事者ですから、エンタメのノリに、フジの悪いところが凝縮されていたのでは。それに、同僚や後輩という“身内”をかばうため、「みんながそうじゃない」と被害者への二次加害をしてしまった長野さんの発言に、旧ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長の会見を思い出した方も多数いました。


【影山】そこはある種ムラ社会と言いますか、親しい同僚たちや、自分がお世話になっていたところは守りたいという思いによるもので、もし被害に遭ったA子さんが、長野さんがフジテレビ在籍時にかわいがっていたアナウンサーだったら、あの発言はなかったと思うんですね。


仲間意識が強いこと自体は本来悪いことではない。ただ、それをメディアで公に出してしまうのかということ。例えば仲間たちだけで「アナウンサーがみんな上納されていると思われるのは……」などとグチをこぼすのは止められないし、それぞれの判断でやれば良いですが、公共の電波で言葉にすることがどのような影響を与えるのかを、プロの方々がわかっていない。


撮影=石塚雅人
フジテレビ本社、2025年1月 - 撮影=石塚雅人

■生放送で仲間うちの発言をするリスクをわかっていない


——世論を考えると、フジテレビにかなり厳しい意見を言う人で固めたほうが、検証番組として成功し、イメージアップを図れたのではないかと思います。そのあたりが制作側に読めていないのか。あるいは、二次加害についてタレントも作り手も本当に理解できていないのでしょうか。


【影山】討論番組は全部フリーでという場合もあるし、それぞれの人が担ってほしい役割を割り当てられている場合もありますし、カンペが出てしゃべるコメントを指示される番組もあります。そこはテレビマンの悪しき習性で、番組として成立させるため、いまフジへの逆風が激しいから、特に橋下・古市両氏には彼らの考える範囲でバランスを取るようにという思惑があったのかもわかりません。


あくまで憶測ですが。番組内では、例えば長野さんのコメントに対し、東京大学准教授の中野円佳さんが「Aさんが断れなかったのをちょっと責めるように聞こえます」と二次加害を指摘していますが、宮根さんが「そんなつもりはなかった」と手短に否定してしまった。テレビ的に慣れている人とそうでない人とがフラットに話し合える工夫が必要ですが、するつもりが最初からないのか、TVショーとして盛り上げたい思いが先行してしまっているのか。僕は後者だったのではないかと思います。


■生放送の前にリテラシーを高めるレクチャーをすべきだった?


——生放送の前に何が二次加害に当たるのか、出演者にレクチャーしていたら、今回のようなことが起こらなかったと思いますか。


【影山】そこは難しいですね。本当は一日かけてしっかりとレクチャーなどができたら良いですが、民放の番組はかなりぶっつけ本番に近いですから。ただ、僕は作り手時代に、尊敬していた筑紫哲也さんから言われた「弱者に対する目を向けろ」という言葉を大事にしてきました。「Mr.サンデー」はその点、被害者の方に対する配慮が完全に欠けていましたね。ノーが言える人ばかりじゃない。あれは強者の論理です。


——強者の論理でいうと、長野智子さんは「オレたちひょうきん族」(1981〜89年)で司会をするなど、フジテレビの最も華やかなりし時代のアナウンサーですよね。一方、被害者のAさんはフジが落ち込んでから入社した世代です。中居氏のような視聴率を持っているタレントの言うことを聞かなきゃいけないという感覚は、長野さん世代より強かったのでは?


【影山】テレビ局の社員も制作会社もフリーの作り手の皆さんも、ビッグネームのタレントに対してはエレベーターホールに出向き最敬礼してドアが閉まるまで見送るみたいなことが常態化しています。それはフジだけでなく、民放全局です。これは第三者委員会の調査でも指摘されていますが、有名タレントとの力関係が明確にあるんですね。もう少しフラットな関係にしていかないと、第二、第三の事件が起こりかねない。タレントも自分たちはえらいと勘違いしますし。そういった意味でも第三者委員会の調査報告は非常に大きな意味があると思います。


■「Mr.サンデー」の失敗で、フジ再生へのステップは後退


——今回の二次加害を受け、「Mr.サンデー」は番組終了すべきという声もあります。どのようにご覧になっていますか。


【影山】3月31日に第三者委員会がすばらしい報告書を出したのに、その直後に放送されたこの番組で、フジテレビ再生へのステップはさらに何歩も後退してしまったと言えるでしょう。「Mr.サンデー」はフジテレビの情報制作局がメインで作っていますから、フジテレビの報道局は、自分たちが検証番組を放送する前にこんな事態になったことに頭を抱えているかもしれませんね。


ただ、希望を感じたのは、受け手の皆さんの声が正常に機能し、「あれは二次加害だ」「これでは駄目だ」と指摘したことです。今は、発信の順番として、ネットを中心とする一般の視聴者の声を、次にメディアが取り上げるという順番になっています。今回はNOの声を上げたのは視聴者で、そうした意味でまだまだ日本の社会はうまく機能しているのかなと思うんです。


僕が作り手時代に上司たちからよく言われたのは、視聴者やリスナーは自分より賢者だということ。ものすごくしっかり見ているし、聞いているからと。番組や局はそれを肝に銘じて番組作りをしていかなければいけないと思います。


----------
影山 貴彦(かげやま・たかひこ)
同志社女子大学メディア創造学科教授/コラムニスト
早稲田大学政治経済学部卒、関西学院大学大学院文学研究科博士課程中退毎日放送(MBS)プロデューサーを経て現職。専門は「メディアエンターテインメント論」。朝日放送(ABC)ラジオ番組審議会委員長 /スポーツチャンネルGAORA番組審議会副委員長 日本笑い学会理事/「影山貴彦のテレビ燦々」(毎日新聞)等コラム連載。著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」「テレビのゆくえ」「おっさん力」など。
----------


(同志社女子大学メディア創造学科教授/コラムニスト 影山 貴彦 取材・文=田幸和歌子)

プレジデント社

「Mr.サンデー」をもっと詳しく

「Mr.サンデー」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ