成功を素直に喜べない上司が陥りがちな過ちとは? 優れたリーダーがメンバーを成長させるために伝えるべきこと
2025年4月10日(木)4時0分 JBpress
組織やチームを率いるリーダーには「勇気」が必要だ。それを磨くには、まず自分自身の「臆病さや不安(ヴァルネラビリティ)」を受け入れることが必要だという。本稿では『dare to lead リーダーに必要な勇気を磨く』(ブレネー・ブラウン著/片桐恵理子訳/サンマーク出版)から内容の一部を抜粋・再編集。勇気と不安の関係や、不安への向き合い方、リーダーシップのあるべき姿について解説する。
職場でいいことがあっても、なぜ上司は素直に喜べないのか? リーダーの用心深さによって失われてしまう大切な機会とは?
武装したリーダーシップ—— 物足りなさを埋めるために働き、喜びや認めてもらう機会を無駄にする
人前で話すとき、私はきまって聴衆にこう尋ねる。「人生ですばらしいことが起きても、すぐに“浮かれすぎるな、きっと悪いことが起きるぞ”と言い聞かせる人はどのくらいいますか」と。
あちこちで手があがる。「昇進した」「わくわくしている」「婚約した」「妊娠がわかった」「孫ができる」——何かいいことが起きると、私たちはつかのま、その喜びに浸る。だが5秒後には興奮は消え去り、その喜びを相殺するような悪いことが起こるのではとパニックになる。すぐにでもよくないことが起こるのでは?
もしあなたに子どもがいる場合、その寝顔を見ながら、信じられないほどの愛しさがこみあげると同時に「この子に何かあったらどうしよう」という恐怖に襲われたことがある人はどのくらいいるだろうか。統計的には、約90パーセントの親がそう考えている。
なぜ私たちは、無上の喜びに浸りながら、悲劇のリハーサルをしたがるのだろう?
それは、「喜び」が脆く傷つきやすい感情だからだ。恐怖と恥を研究する私からすると、そこには何らかのメッセージがあるように思う。
「喜び」という感情はとても危うく、美しさと繊細さ、深い感謝と無常が、まるっとひとつの体験としてまとめられたものである。その危うさに耐えられないと、喜びは悪いことの予兆となり、ただちに自己防衛が発動する。
そして私たちは、ヴァルネラビリティの両肩をつかんでこう言うのだ。「不意を突こうとしたってそうはいかないぞ。いきなり殴られたりするもんか。こっちは準備ができているんだ」。
このように私たちは、楽しいことが起こるとすぐに傷ついたときのことを想定し、失望という恐怖に備えようとする。
だが、本当にそれで事態が好転するだろうか? もちろん、しない。
たとえば私たちは、どれほど災害に備え、その被害を想定しても、必ず失意を味わうことを知っている。残酷な瞬間に備えることなど無理なのだ。そして失意から自分を守ろうとすれば、心に余裕をもたらし、悲劇から回復する力となる喜びの感情もまた損なってしまう。
職場では、いいことがあっても手放しで喜べない場合が多いが、これはさりげなく事態を悪化させている。
勝利を祝うことをためらう理由は、主にふたつある。
ひとつは、「チームでお祝いしたり、ひと息ついたりすれば、何か悪いことが起きるのではないかと考えてしまうため」。プロジェクトの立ちあげが完了してもハイタッチを交わさないのは、おそらくこんな思いがあるからだろう。「まだ完璧かどうかわからない、うまくいくかわからないのに、諸手をあげて喜ぶわけにはいかない…」。
ふたつめの理由は、「評価を保留するため」。ほかにもやるべきことがたくさんある組織では、あまり社員に舞いあがってほしくない。満足して手を緩めてほしくないのだ。だから成果を出しても褒めたりしない。いずれねぎらう場合でも、やはり喜びにともなう不吉な影はぬぐえないだろう。職場で素直に喜べないのはこうした理由からだが、この過ちは高くつく。
勇敢なリーダーシップ——節目や勝利に感謝し祝う
喜びを100パーセント享受できる人の共通点は何か?「感謝すること」である。
彼らは感謝をする。「感謝のそぶり」だけでなく、「行動」で示す。感謝の気持ちを日記につけたり、携帯にメモしたり、家族に話したりするのだ。
データから「感謝の効能」が明らかになると、私たち家族はさっそく、夕食の席でそれを実践した。いまでは、サマーキャンプのように恵みの歌をうたってから、それぞれ感謝した出来事を話していく。おかげで、子どもたちの生活やその心に触れることができるようになった。
感謝を体現し、実践することで、すべては変わる。
これは個人を成長させるだけではなく、人間を、私たちの存在をひとつにするものであり、身構えてしまう喜びに対する単純明快な解毒剤である。その瞬間や機会に感謝することで、達成感や、愛することの喜びを本当の意味で味わうことができる。「ああ、こんないいことがあったら、何かを失っても仕方ない」と震える自分の弱さを認識し、受け入れることができれば、自分の手にしているものに改めて感謝するだろう。
また、ミーティングのはじめか終わりに感謝を確認するといったシンプルな行為でも、全員がその出来事をシェアすることで、信頼やつながりを構築し、「容器」をつくりあげ、喜びに身を預けてもいいのだと感じることができるようになる。
今年のはじめ、評価制度と解決策を提供する、グローブフォース社主催のHRカンファレンス「ワークヒューマン」で基調講演をおこなった。
私がこの依頼を引き受けたのは、勇敢なリーダーシップのデータから、勇敢なリーダーや勇気ある文化を育むには、「評価」が必要不可欠だとわかったからだ。
競争が激化するグローバルな人材市場において、「社員の献身度、満足度、定着率を高める要因は評価である」という記事は何度か目にしたことがあったものの、具体的な事例研究を読んでいなかった私は、グローブフォース社が実践しているリーダーおよびチームメンバーの評価に関する取り組みにすぐさま興味を抱いた。
グローブフォース社はシスコ社と協力し、評価を活用して社員の献身度を5パーセント上昇させ、さらにインテュイット社と組んで、6か国に散らばる全従業員ベースで、従業員の献身度を2桁上昇させた。
ハーシー社の評価に関する取り組みでは、従業員の満足度は11パーセント上昇した。またリンクドイン社では、4回以上評価を受けた新入社員の定着率が10パーセント近く上昇した。
チームのリーダーであってもメンバーであっても、公式の、あるいは非公式の評価制度を採用していても、一緒に働いている仲間には、責任をもってこう伝えなければならない。
「どんなに小さなことでも、うまくいったらちゃんとお祝いしよう。たしかにやることは山積みだし、状況がいきなり悪くなったりするかもしれないけれど、それでも、いまこの場で成功を祝うことのほうが大切だ」と。
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筆者:ブレネー・ブラウン,片桐 恵理子