寝る前に布団の中で「1分間」考えるだけ…脳科学者が教える「本当に頭のいい人」が毎晩やっていること【2025年3月BEST5】
2025年4月20日(日)18時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CoreDesignKEY
2025年3月に、プレジデントオンラインで反響の大きかった人気記事ベスト5をお送りします。仕事術・スキル部門の第5位は——。
▼第1位 「わかりました」を"I understood."と言ったらブチギレられた…通訳者が教える「中学英語」の意外な落とし穴
▼第2位 これほど「壁打ち」に最適な場所はなかった…「喫煙ルームと飲み会」が消滅した日本の企業で起きていること
▼第3位 「コミュ力が高い人」はサラッと使っている…「たしかに」でも「なるほど」でもない"最強の相槌フレーズ"
▼第4位 「なぜ日本車ばかり売れるんだ?」突然絡んできた米国人が思わず感嘆…医師・和田秀樹の"絶妙な切り返し"
▼第5位 寝る前に布団の中で「1分間」考えるだけ…脳科学者が教える「本当に頭のいい人」が毎晩やっていること
人生に迷ったときには、どうすればいいのか。脳科学者の井ノ口馨さんは「直観を信じてみてはどうだろう。あなたが生まれてから今日まで培ってきた、“脳”というスーパーコンピューターがはじきだした最適解なのだから」という——。
※本稿は、井ノ口馨『アイドリング脳 ひらめきの謎を解き明かす』(幻冬舎)の一部を抜粋・再編集したものです。
写真=iStock.com/CoreDesignKEY
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■40億年の進化のたまもの
2023年は「生成AI元年」とよばれるほど、ChatGPTをはじめとした生成AI(GenerativeAI)が世間を賑(にぎ)わせました。
AI(ArtificialIntelligence人工知能)とは、人間の脳が行う思考や学習を再現するコンピュータープログラムやシステムです。人工知能が飛躍的に進歩し、画像診断や音声アシスタントなど、人々の仕事や生活に影響を及ぼすようになってきています。学生や若い人がこれからの時代を生きていく上で、AIと共に生きる、もしくはAIを使いこなすことは必須でしょう。
AIは確かにすごい。実は僕も、AIを活用したアイドリング脳研究を始めたところです。日々の実験において、マウスの脳を観察して得られるデータは、非常に膨大で複雑で、とても人間には解析しきれません。人間には認知できなくても、AIなら何かを見つけられる可能性があると考え、大型の研究プロジェクトを動かしているのです(注1)。
ただし、あえて言いますが、脳のほうがもっとすごい!
僕の研究分野で言えば、脳は、数少ないデータ(経験)を基に、正解らしい答えを一瞬で導き出す能力があります。それは直観、といわれるものです。
脳は、意思を持って自ら考え、何かを新しく創造することもできます。おそらくAIにはできないことです。
■能力のわりに、超省エネ
さらに脳は、とんでもなく省エネです。人間の脳と同じ機能を持つAIを動かそうと思ったら、人口50万人くらいの都市の総電力くらいのエネルギーが必要になるのではないでしょうか。それが僕たちのこの頭の中に収まっているのです。
このように、直観・創造性があり、少量のデータとエネルギーで駆動できる脳は、やはりすごい。
どうしてそんなことが可能なのか? 簡単に言い表すことはできませんが、1つ確実に言えるのは、脳は、いえ脳に限らず今ある生命体は、40億年かけて開発されてきた進化のたまものだということです。
人間が科学をはじめたのはたった数百年前です。それにひきかえ、生命は、40億年かけてこつこつと部品である分子の一つ一つを選抜し、細胞を、生命を、つくりあげてきました。まだまだ分からないことだらけ、謎も可能性もいっぱい。それを究明しようとしているのが生命科学です。そして、その生命科学の最後の大きなフロンティアといわれているのが脳科学、もう少し広範な言葉にするなら神経科学(英語で言うと、ニューロサイエンス)なのです。
■ひらめきを得るためにできること
マウスを使い、光遺伝学を駆使した実験を通して、僕たちは潜在意識下の脳機能に科学的に迫ることができました。ひらめきの瞬間を、ニューロン群の活動というデータで示せたのです。(※)
※編集部註:実験の詳細は、井ノ口馨『アイドリング脳 ひらめきの謎を解き明かす』(幻冬舎)をご参照ください。
正解は脳の中に用意されている、あとはそれを意識に上らせるだけ——。
ここまでは科学的根拠をもって言えるようになりました。
では、どうしたらその正解を意識に上らせることができるのか? どうしたらひらめくことができるのか? この点については科学的に言えることはまだありませんが、過去の多くの人の経験および僕自身の実体験から、「アイドリング脳を働かせること」がカギになると言えると思います。
まずは拙著でもお話ししてきたように、自分に合った、ぼーっとできる方法を見つけて、意識的に実行することが挙げられます。そうすることで脳がバックグラウンドで活動を続けて、睡眠中に用意された正解が意識に上ってきやすくなります。
■限界までインプットする
つねに忙しくしていたり、スマホに集中していたりすると、ひらめく体験を得るのは難しいと思います。リラックスの時間を設けて、ぼんやりと思考をめぐらすのです。睡眠中やうつらうつらしているときに、ひらめくこともあるでしょう。特に、うつらうつらしているときは、脳が意識と無意識の間を行ったり来たりするため、アイデアが出やすいのではないでしょうか。
ひらめいた内容を忘れてしまわないようにする工夫があってもよいかもしれません。
もちろんそれ以前にしっかりとインプットしておくことが不可欠です。マウスの実験でもトレーニング時間が短いと、推論の正答率は上がらなかったからです。
科学者たちのように、いくら考えても行き詰まるところまで追い込むことがベースとなります。優れたアイデアを得たいと思うなら、自分の限界まで真剣にインプットしてみてください。インプットが足りない状態では、解決策にたどりつかないでしょう。
■眠る直前の“1分間”でできること
ひらめきが浮かぶ、正解にたどりつく確率を高める方法としておすすめなのは、眠る直前に、懸案のテーマについて思いをめぐらせることです。これは僕が普段から実際に行っていることです。長く考え過ぎてしまうと逆に眠れなくなるので、1分だけでよいです。1分間だけ、未解決のことに思いをめぐらせて、眠ります。こうすることで、翌朝目が覚めたときに良いアイデアを思いつく確率が上がるような気がします。
これは数学者でAI研究者のダヴィッド・ベシス氏も著書の中で言っていて、皆さんの中にも実践している方がいるかもしれません(注2)。
関心のあるテーマについて“熟考する”のではなく、そのテーマにただ“浸る”術を身につけたのだ。この2つは微妙に、しかし本質的に異なる行為だ。熟考するとはつまり解決方法を見つけようとすることだ。絶対にうまくいかないうえ、寝つけなくなる。一方で浸るとは、集中せず、本気で関心を寄せず、目的もなく思いをめぐらすことである。夢を見るのとほとんど変わらない。
間違っているかもしれないが、この入眠テクニックは翌朝目が覚めたときによいアイデアを思いついている確率を高めると私は思っている。
(『こころを旅する数学』晶文社)
写真=iStock.com/gorodenkoff
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■最初の“1〜2時間”がポイント
また、ノンレム睡眠・レム睡眠を含む十分な睡眠時間が重要なことはもちろんなのですが、これまで多くの実験を行ってきた感触から、「寝入りばな」も重要そうだと考えています。
マウスでの実験結果から推測すると、人間だと最初の1〜2時間が寝入りばなにあたると思います。
僕は、布団をかぶった記憶もないくらい、すとんと眠りに落ちるタイプなのですが、寝入りばなにしっかりと眠っていることは、アイドリング脳にとって良いことだろうと信じています。
何時間眠ればよいかは、人それぞれでしょう。いわゆるショートスリーパーとよばれる、短時間の睡眠でも問題ないタイプの人は、長く眠るよう努力する必要はアイドリング脳に関してはないと思います。
■「アイドリング脳」が活躍できる環境をつくる
ただし、寝不足は、アイドリング脳に限らず何においても良いことは1つもありません。自分に合った適切な睡眠時間を確保されることをおすすめします。
ポイントは、「アイドリング脳に頑張ってもらうこと」です。
40億年の進化の歴史の中で選ばれた部品が使われているアイドリング脳が、十分に力を発揮できる環境をつくってあげることなのです。
そうすれば、日常の些細な悩み事やちょっとした解決法、あるいはちょっとしたアイデアなんかを捻出するのにも使えますし、もしかしたら、誰も思いつかなかったような画期的な考えをも、アイドリング脳は思いついてくれるかもしれません。
■あえて放っておく時間をつくる
もう1つ、アイドリング脳の活用法を紹介しましょう。
取り掛かるべきタスクがあるのに、なぜか別の作業をしてしまうことはありませんか? 提出期限が迫った仕事があるのにデスクの整理をしてみたり、試験勉強をしなくちゃいけないのにスマホを見続けたり……。
無駄なことで時間を使ったと後悔するかもしれませんが、もしかしたら、無意識にアイドリング脳を働かせているのかもしれません。
実は、僕も無意識に同じようなことをしていました。でも、これが有効なことに気づき、今は、あえて1日の中に取り入れています。
実行するのは、難しい仕事に取り組むときです。一筋縄ではいかない仕事だと分かったら、朝少しだけインプットしたり、少しだけ取り掛かったりして、放ったらかしにしておくのです。インプットの時間は10分か20分か、その程度です。そして別の簡単な仕事に取り掛かります。この間に潜在意識下で脳に難しい仕事を考えてもらうわけです。
■「難しい課題は朝イチで」だけが正解ではない
午後なり夕方なりになって、いざその難しい仕事に取り組むと、道筋がパッと見えて案外すんなりと片付いてしまうことがよくあります。
もし仮に朝からずっと取り組んでいたら、時間ばかり過ぎていって途方に暮れたでしょう。潜在意識下でアイドリング脳を働かせれば、非常に効率よく難しい仕事を片付けられるのです。
難しい課題は朝イチでやれ、最優先で取り組めと言う向きもあるようですが、必ずしもそれが是でもないと経験的に感じています。やるべきことは、簡単なインプットと、割り切って放置することだけです。
眠る前に1分間思考をめぐらせるやり方と似たアイデアですが、多くの人の役に立つのではないかと思います。
写真=iStock.com/fizkes
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■直観を信じてみよう
僕たちの研究から、「脳は正解を知っている」ことが明らかになってきました。
潜在意識下にあるため自覚はできませんが、脳の中には、これまでの経験に裏打ちされた正解があるのです。そして、その潜在意識下の正解は、「直観」に関係していると僕は考えています。情緒や気持ち、と言ってもよいと思います。
たとえば、進路や仕事などで迷いがあるとき。どっちにしようかな、と悩んでいるとき。
論理的に考えて選ぶ選択肢と、直観や気持ちで選ぶ選択肢が異なっているなら、直観に従ったほうが良いと思います。直観は、あなたが生まれてから今日まで培ってきた脳というスーパーコンピューターがはじきだした最適解なのですから。論理的に考えたことに従うと、かえっておかしなことになりかねません。
下手の考え休むに似たり、です。脳を信じてよいのです。
■アイドリング脳で世界を幸福に
井ノ口馨『アイドリング脳 ひらめきの謎を解き明かす』(幻冬舎)
アイドリング脳を働かせたり、直観を信じたりできるようになれば、人々は創造性豊かに、幸せになれると僕は信じています。
1%でも5%でも脳の潜在能力を今より上げることができれば、色々な悩み事が解決するのではないでしょうか。悩みが減れば、幸福につながります。
僕たちの研究には、多くの税金が使われています。その研究で得た成果は、人々に還元したいと思っています。できればそれは特定の一部の人だけではなく、すべての人の幸せにつながるような還元をしたいと強く思います。そのためにもアイドリング脳の研究をさらに進めていきたいのです。
※注1:プロジェクト名は、「多階層の神経活動データ駆動による睡眠脳の機能解明」。2023年度〜2028年度において、国の大型研究プロジェクトとして遂行中である。『アイドリング脳』(幻冬舎)第4章で概要を紹介する。
※注2:『こころを旅する数学 直観と好奇心がひらく秘密の世界』(ダヴィッド・ベシス著、晶文社、2023年)
(初公開日:2025年3月5日)
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井ノ口 馨(いのくち・かおる)
富山大学アイドリング脳科学研究センター、センター長
1955年生まれ。1984年名古屋大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士。専門は分子神経科学。1985年から2009年まで三菱化学生命科学研究所で主任研究員・グループディレクターを務める。米国コロンビア大学医学部、HHMI, Research Associate、早稲田大学、横浜国立大学の兼務を経て、2009年より富山大学学術研究部医学系教授。2019年から卓越教授。2020年に設立されたアイドリング脳科学研究センターのセンター長も兼任。紫綬褒章など受賞歴多数。著書に『アイドリング脳 ひらめきの謎を解き明かす』(幻冬舎)がある。
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(富山大学アイドリング脳科学研究センター、センター長 井ノ口 馨)