「答えにくい質問」にどう向き合うべきか?コストコCEOがリーダーたちから拍手喝采を受けたただ一つの理由とは?

2025年4月17日(木)4時0分 JBpress

 組織やチームを率いるリーダーには「勇気」が必要だ。それを磨くには、まず自分自身の「臆病さや不安(ヴァルネラビリティ)」を受け入れることが必要だという。本稿では『dare to lead リーダーに必要な勇気を磨く』(ブレネー・ブラウン著/片桐恵理子訳/サンマーク出版)から内容の一部を抜粋・再編集。勇気と不安の関係や、不安への向き合い方、リーダーシップのあるべき姿について解説する。

 リーダーになったら決してやってはいけない「花丸収集」「ジグザグ逃避」とは?


武装したリーダーシップ——花丸を収集する

「業績を認められたい」のは当然の願望だ。キャリアの初期に、個人プレーヤーとして花丸を集めるのはかまわないし、完璧主義ではなく健全な努力によって花丸を手に入れようとするのはむしろいいことだと言える。

 実際、自分の強みがまだどこにあるのかわからない段階で、自分の力を発揮できる場所を探ることは重要だ。しかし、ひとたび「管理する側」になったら、メダルやリボンを集めることはゴールではなくなり、逆にリーダーとして「やってはいけないこと」になる。


勇敢なリーダーシップ——花丸を分配する

 直感に反するように聞こえるかもしれないが、そもそも私たちを突き動かし、結果として組織でのし上がることになった要素は、すぐれたリーダーシップを妨げる可能性がある。組織内で成長をつづけ、勇敢なリーダーシップという役割を完全に体現するには、「見返りを求めず他者に報いる」しかない。

 勇敢なリーダーの役割は、「チームをもりたて、彼らが輝けるようにする」ことだ。これはとくに、がむしゃらに働くことが当然で、これまでの活躍の場を後進に譲ったとたん、どうすればいいかわからなくなってしまう人にとってはハードルが高い。

 だからこそ、直属の部下をもつ職務に就く者は、「リーダーシップ」をはっきりと優先すべき仕事のひとつと考えなければならない。決して思いつきで動いたり、片手間にこなしたりできるものではないのだ。

 リーダーシップ研究者のウィリアム・ジェントリーは、リーダーという新たなポジションに就いたら「台本をひっくり返す」ことの必要性を説いている。彼の著書『Be the Boss Everyone Wants to Work For:A Guide for New Leaders』(未邦訳)は、花丸集めをやめられない人のための、スマートな実用書である。


武装したリーダーシップ——ジグザグに逃げる

 米ニューオーリンズに住んでいた小学校3年生のとき、家族で沼地へ釣りに出かけたことがある。沼地に着くと、土地の管理人がこう言った。「アリゲーター(小さいワニ)が近づいてきたら、ジグザグに走って逃げること。やつらはすばしこいが、曲がるのは得意じゃないから」

 そして5分後、アリゲーターが母の釣り竿の先端を折ると同時に、私たちは逃げだした。幸いにも、アリゲーターは私たちを追ってはこなかったが、もし追ってきていたら、間違いなく私たちはジグザグに走って、必死に車へと戻ったことだろう。

「ジグザグ」とは、対立、不快感、対決のほか、恥をかいたり、傷ついたり、批判されたりする可能性など、ヴァルネラビリティという名の銃弾を避けるために費やされるエネルギーの比喩である。

 私はヴァルネラビリティを感じると、ジグザグに進む傾向がある。たとえば「気の進まない電話をかけなければいけないとき」がそうだ。

 原稿が進まず、明日になればきっとなんとかなると言い聞かせながら、やっぱりメールで説明をしようとEメールを書きはじめる。そしてへとへとになるまで行ったり来たりをくり返したあげく、結局電話をかけるはめになるのだ。


勇敢なリーダーシップ——率直に語り、行動に移す

 足元まで困難が迫ってきたら、「真正面から向きあう」ほうが、圧倒的に時間の節約になるし、精神的にも楽である。実際、背後を気にしながら走るよりも、真正面に見えていたほうが、恐怖や威圧感ははるかに少ない。

 困難に直面したら、立ち止まって呼吸を整え、自分が回避しようとしているものの「正体」を正確に見極めてほしい。ヴァルネラビリティに踏み込むにはどうすべきかを考えるのは、それからだ。

 隠れたり、やっているふりをしたり、避けたり、先延ばしにしたり、正当化したり、非難したり、嘘をついたりして、もし自分が「ジグザグ」に走っていることに気づいたら、走って逃げても莫大なエネルギーを消費するだけで、自分の価値観に見合わないことを思いだしてほしい。いずれはヴァルネラビリティと向きあい、気まずい電話もかけなければならないのだ。

 数年前、コストコで開催されたグローバル・リーダーシップのイベントに出席した。私は最前列の席に座り、コストコのCEOクレイグ・ジェリネックが、同社のリーダーたちから質問を受けるようすを眺めていた。

 リーダーたちの質問は厳しいものだったが、クレイグの答えもまた、その大半が質問と同等かそれ以上に厳しいものだった。

 CEOたちが、あらかじめ知らされていない質問に答える場面はこれまでも何度も見てきたが、たいていの場合、答えにくい質問に対しては、彼らはアリゲーターに追われているみたいにジグザグとかわし、ほとんど答えない。

「いい質問です。ぜひ検討してみます」
「なるほど、いい考えです。どなたか書き留めておいてくれませんか。後で何か思いつくかもしれません」
「たしかに、そういう捉え方もあるかもしれません…」

 だが、寒さ厳しいシアトルでのその朝、ジグザグは存在せず、あるのは率直なやり取りだけだった。

「はい、たしかにそういう決定をくだしました。その理由は…」
「いいえ、わが社はそういう方針を取るつもりはありません。その理由は…」

 このやり取りを見ながら私は、「この質疑応答セッションのあとに舞台に立たなきゃいけないなんて。きっと張りつめた雰囲気になるだろうな」と思っていた。

 クレイグの出番が終了すると、聴衆は椅子から立ちあがり、拍手と歓声を送った。私は驚いて、隣の女性にこう尋ねた。「CEOはみんなが望んでいた答えを言わなかったのに、どうしてこんなに歓声が?」

 女性は笑顔でこう答えた。「コストコでは、真実に拍手を送るのです」

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筆者:ブレネー・ブラウン,片桐 恵理子

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