ここまでしないと芸能界から性被害はなくならない?…中居フジ問題で見落とされている業界の構造的な欠落

2025年4月25日(金)17時15分 プレジデント社

第三者委員会の報告会に登壇する委員長の竹内朗氏、委員の五味祐子氏、山口利昭氏 - 撮影=石塚雅人

中居正広氏の起こした事件で見逃されていることは何か。芸能業界の労働環境やハラスメントの改善に取り組んできた日本芸能従事者協会代表理事の森崎めぐみさんは「ハラスメント被害を受けた人は精神のバランスが崩れ、通常の仕事ができなくなることが少なくない。一方で、テレビ番組の視聴率を背負うような影響力のある芸能人も尋常ではないプレッシャーを抱えている」という——。

■アンケートで「ホテルや自室に呼ばれた」という回答が23.7%


——中居正広さんがフジテレビ社員の女性に性加害をしたという事件、3月31日に公表されたフジテレビ第三者委員会の調査報告書を読んで、どう思われましたか?


【森崎】気になったのは、調査期間が約1カ月半と短いこと、第三者委員会が弁護士だけで構成されていたこと。他の立場の人間として芸能界で働く当事者、私が代表を務める日本芸能従事者協会もそうですが、芸能界におけるハラスメントの原因や実態をよく知っていて、相談を受けたり解決に向けて取り組みをしている人が判断していれば、事件発生時に取るべきだった対策、これから取るべき対策が、もう少し具体的で実効性のあるものになったのではないかと思います。


——具体的な再発防止策とは、例えば何がありますか?


【森崎】私たちが取った芸能界でのハラスメントについてのアンケートでは、「ホテルの部屋や自室・酒場に呼ばれた。あるいは見聞きした」という回答が417人中99人で、全体の23.7%。「レイプ(同意のないセックス)をされた。あるいは見聞きした」という回答も46人、11%という結果になりました。


まず、密室での会合を禁止しないと、性加害はなくならない。既に海外の芸能界では禁止している国が多いです(米俳優労組は密室でのミーティング廃止を要請)。芸能の仕事に打ち合わせはどうしても必要なので、プライバシーが守られるように、慣例で場所をホテルや個人の部屋に設定されがちですが、ハラスメントの温床になっている以上は禁止するルールを作るべきです。法制化できればいいですが、その前にテレビ局はもちろん、エンターテインメント業界の団体などが自主的に禁止できるのではないでしょうか。


第三者委員会の報告書には客観的な事実は正しく書いてありますが、なぜこうなってしまったのか、これをどう防ぐのかという記述が少ないように感じました。「誰が悪い、何が悪い」という報告ではなく、これを受けて、もう一度、具体的な提言書を出してもいいのではないかと思います。


撮影=石塚雅人
第三者委員会の報告会に登壇する委員長の竹内朗氏、委員の五味祐子氏、山口利昭氏 - 撮影=石塚雅人

■フジテレビは外部の意見を聞き、労働環境を変えるべき


——「誰が悪い」で言いますと、フジテレビの社長たちが、性暴力を受けた女性社員への対応について「彼女が笑顔で番組に復帰するまで何もしない」など、楽観的に考えていたのはなぜでしょうか?


【森崎】トップの人たちには、やはり根本的な現場の理解が足りなかったのではないかと思います。性被害の深刻さへの理解や、この問題を放置したら今回のような会社の存続が問われる事態になるということにも理解が足りない気がします。


根本的な解決のためには、組織の何を変えて各個人がどう変わったらいいのかを考えなければ、同じことの繰り返しになりかねません。組織においては透明性と相互監視が必要です。組織を構成するどの部署の方でも全員が「ハラスメントはダメだ」と自然に言える環境にすること。なぜこうなってしまったのかを、せめて外部の人間を入れて真摯な議論をしないと、状況は改善しないと思います。


■最優先で必要なのは性加害を受けた人のメンタルケア


——中居正広さんから性暴力を受けたという被害女性についてはどう思われますか?


【森崎】私は日頃から、性被害・セクハラを受けた女性から相談を受けていますが、今回の被害についても本当に胸が痛む思いです。きっと、被害者の方は番組や局の責任を背負っているような気持ちで、番組出演者・取引先である中居さんに真面目に接していたのではないでしょうか。とてもつらかったと思います。ご本人のコメントにもあったように、二度とこういう被害を出してはなりません。


撮影=石塚雅人
清水賢治社長の会見の様子 - 撮影=石塚雅人

——報告書によると、被害女性はショックで仕事ができなくなりフジテレビを退職しました。日本芸能従事者協会はメンタルヘルスの問題について取り組んでいますが、そのように仕事、業務の延長線上のトラブルでメンタルを崩している人から相談が来ていますか。


【森崎】相談の大半がそういう内容です。ハラスメントの被害者がほとんどですが、メンタルのバランスが崩れ、壊れそうになっている方がいます。心の根幹が簡単なケアでは治らないようなレベルで、通常の仕事を継続できなくなっています。それでもまだ相談に来られればいいのですが、症状が重い人ほど、すぐには来られなくなるケースが多いです。


今回のフジテレビのケースでは、社長がコンプライアンス室に共有しなかったようですが、テレビ局なら社員の一人ひとりが、いつでもハラスメントの窓口に相談できるようにし、傷が浅いうちに治療やケアにつながる環境をつくることが大切だと思います。


出典=厚生労働省「令和5年版過労死等防止対策白書

■第一線に立つ芸能人たちの抱えるプレッシャーの大きさ


——中居正広さん、広末涼子さんのようなTVドラマで主演を務めるスター俳優、冠番組を持っていた人のメンタルは、どうですか。


【森崎】日本芸能従事者協会の会員はさまざまで、第一線で活躍されている方も少なからずいらっしゃいます。特にプレッシャーの負荷が高い人、例えば主演級の方で、視聴率が高いか低いかをその人の責任にされてしまうような影響力のある方や、番組や作品の看板になる人の抱えているプレッシャーは大きすぎて尋常ではありません。


そういったいわゆる有名人の問題行動が目立てば目立つほど、ストレスを溜めに溜めて、自分でどうしたら良いのかわからなくなってしまう状態になりがちです。そのまま適切なケアをしなければ、いつか爆発するか周囲の歯止めも効かなくなるでしょう。厚生労働省の「過労死等防止対策白書」でも芸能従事者のメンタルヘルスは非常に悪い状況で、「うつ傾向」が半数以上だという結果が出ていました。


労働安全衛生総合研究所「令和4年度過労死等に関する実態把握のための労働・社会面の調査研究調査報告書」より編集部作成

——第三者委員会の報告書で「性暴力を振るった」と認定された中居正広さんについては?


【森崎】私自身も10代から芸能界で仕事をしてきたことからの経験やこれまで見聞きしてきたことからの推測でしかありませんが、中居さんは10代前半から芸能界にいらして、これまでずっと一般的な普通の生活や恋愛をしづらい環境にあったのではないかと懸念しています。非常に特徴的であり、気の毒でもある点かと思います。もちろん、だからといって、性加害をするのは仕方がないということではありません。ただ、事件の全体像を正しく見るためには、彼の背景にも目を配るべきだと思います。


■芸能人は健全な恋愛をできる環境にあるのか?


——世間では中居さんが全面的に悪いという見方が強いですが、芸能人全体がスポイルされてきたということでしょうか。


【森崎】そういった傾向はあるかもしれません。若いころに芸能界にデビューすると「外でデートをしてはいけません」とよく言われます。危険を避けるために、人目につかないところ、自宅などでの会合は、どうしても増えてしまいます。それは芸能人としての安全配慮ではありますが、それが極端に裏目に出ると、性加害事件になってしまう可能性が否定できません。


街中の人目のあるところで日中にデートやスポーツをするなど、健全な交際の方法を知らないで、10代、20代の人格形成期を過ごしてしまうと、正常な判断がしづらくなるものでしょう。それは、必ずしも本人だけのせいではないと思います。これは中居さんに限らず、男女も問わず、アイドルや若年層のタレントが学生の時から芸能界に入り、独特のルールの中で生活していると、一般常識とかけ離れた判断をすることにもつながります。


■人権意識がアップデートされない芸能界で生きてきた弊害


——ただ、同じ組織、事務所などに属していても、ハラスメント、加害などをしない人もいます。


【森崎】もちろんそうです。社会的に公平な目で、実態によりそって判断して、一人に責任を取らせるのではなく、これからの若い人たちをどうやって育てていこうかと考えていくと良いと思います。


アイドル出身で、長く芸能界の第一線で活躍する方は少なからずいらっしゃいます。その一方で、自由な生活が守られてきたかどうかはわかりません。これまで芸能界が人権を軽視しがちだった歴史の中で育った世代は、本人も周囲も人権意識を改めるきっかけがないままに仕事をしてきたと思われます。芸能界全体が温床となりハラスメントや性加害事件が起きてしまうのは、招くべくして招いているのではないでしょうか。今こそ抜本的な対策を取るべきだと思います。


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森崎 めぐみ(もりさき・めぐみ)
俳優、一般社団法人日本芸能従事者協会代表理事
映画『人間交差点』で主演デビュー。キネマ旬報「がんばれ!日本映画スクリーンを彩る若手女優たち」に選出。テレビ『相棒』、舞台『必殺!』など多数出演。代表作は映画『CHARON』。2021年に全国芸能従事者労災保険センターを設立。文化庁「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議」委員。著書に『芸能界を変える——たった一人から始まった働き方改革』(岩波新書)がある。
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(俳優、一般社団法人日本芸能従事者協会代表理事 森崎 めぐみ)

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