発言ころころ変わるトランプ氏、理屈より「得になる」で説得…前首相・岸田文雄氏 

2025年4月26日(土)5時0分 読売新聞

[危機〜世界経済秩序]インタビュー<10>

 米国のトランプ政権による関税政策を巡る日米交渉は今後、テーブルに何を載せるかがポイントになる。トランプ大統領は関心事を全部口に出してしまう人だけに、日本側が交渉材料をしっかり整理しないと話が進まなくなるだろう。

 米国第一のトランプ氏に対しては、理屈を言ったところでプラスにならない。日米関係は補完的で、両国の関係を安定させ、深めることが米国の安全保障や経済にとって「得になる」「利益になる」という観点で説得することが大事になる。

 24日に赤沢経済再生相と面会した際には、「経済と安全保障はごちゃ混ぜにしたら終わりで、交渉がまとまらなくなる」と伝えた。経済と安保は物差しが違うから、切り分けないといけない。トランプ氏の発言はころころ変わり、経済状況も変化する。だからこそ、日本が合意を焦らないことも重要だ。

 日米交渉における首脳外交は、交渉が行き詰まった時に打開したり、最終判断が必要になったりする場面で意味を持つことになるのではないか。そのためにも、石破首相にはトランプ氏と個人的な信頼関係を築いてほしい。2月の日米首脳会談は良い雰囲気だったと聞いているが、1回で人間関係ができるほど甘くはない。電話会談や国際会議の際の立ち話なども活用したらいい。

 米国は今、自らが戦後築いた国際的な秩序をかなぐり捨てようとしているようにも見える。島国で資源のない日本は、米国には現実的でしたたかな対応をする一方で、自由貿易と法の支配という二つの原則を譲るわけにはいかない。当面は、米国と国際社会への対応を使い分けるハイブリッドな外交が求められている。

 国際社会では、日本は自由貿易の大切さを共有できる仲間を作るなど秩序を守るために自ら旗を振っていくべきだ。世界貿易機関(WTO)を復権させ、包括的及び先進的な環太平洋経済連携協定(CPTPP)も拡充しないといけない。

 日本としては、米国の関税措置でショックを受けている東南アジアの国々などへの対応も大切になる。中国も米国が開けた穴を埋めようと動いている。私は首相の特使として、5月の大型連休中にインドネシアとマレーシアを訪問し、両国首脳らと会談する予定だ。首相もベトナムとフィリピンを訪れる。手分けして、米中対立で困っている国々に寄り添うメッセージを届けていきたい。(聞き手・政治部 伊賀幸太)

 ◆きしだ・ふみお=早大法卒。銀行員などを経て、1993年衆院選で初当選し、当選11回。衆院広島1区。2012年12月から4年7か月にわたり外相を務めた。21年10月に第100代首相に就いた。首相在任中の24年には米議会で演説し、米国に国際秩序の維持に関与し続けるよう訴えた。67歳。

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