キノロン系抗菌薬点眼の使いすぎが問題に!正しい診察と慎重な処方が必要~結膜炎治療と抗菌薬適正使用~

2025年5月2日(金)19時46分 PR TIMES

 AMR臨床リファレンスセンターでは、政府で策定された「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2023ー2027」に基づき、AMR対策を進めています。AMR対策の基本は抗菌薬(抗生物質)の適正使用と感染対策です。抗菌薬の適正使用とは、抗菌薬が必要な疾患に対して、適切な抗菌薬を、適切な使い方で治療をすることです。わが国では2016年の最初のアクションプラン策定以降、さまざまなAMR対策の取り組みが行われ、抗菌薬適正使用に対する意識も少しずつ向上してきました。今後は個々の診療科や疾患ごとに、具体的に適正使用を進めることも必要です。
 今回、眼科領域における抗菌薬適正使用をテーマに、関西医科大学附属病院眼科角膜センターの佐々木香る先生にお話を伺いました。プライマリ・ケア領域で診る機会の多い結膜炎の治療について、抗菌薬の適正使用推進の点から、眼科医、内科医をはじめとし、プライマリケアに関わる全ての医療従事者、病院内で抗菌薬適正使用推進を進める医療従事者向けに、わが国の現状や課題をご紹介します。
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/45695/10/45695-10-ca7ef9c370c19a48d676669456f74b96-86x108.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]佐々木香る Kaoru Sasaki
関西医科大学附属病院眼科 角膜センター長
関西医科大学 眼科学講座 嘱託
日本眼科学会専門医/指導医 Infection Control Doctor
1986 大阪市立大学 医学部 卒業
1994 大阪大学大学院 大学院 博士課程 医学博士
日本眼感染症学会 評議員 理事、日本角膜学会 評議員
日本感染症学会、日本眼炎症学会、日本眼科学会




本ニュースレターのサマリー

・充血や眼脂のみで抗菌薬点眼を投与してはならない
・ 結膜炎がいつも細菌によって引き起こされた感染症とは限らない
・ わが国ではキノロン系抗菌薬点眼が使われすぎている
 特に慢性結膜炎では長期投与されることが多い
・ 抗菌薬点眼は点滴や内服薬と比べてはるかに高濃度
・ キノロン系抗菌薬点眼は、慎重に投与すべき

処方の9割超が第4世代キノロン系

 抗菌薬点眼は1950年代にテトラサイクリン系が登場して以来、およそ10年周期で新しい種類が登場してきました。現在、点眼で使われている抗菌薬はそのほとんどがキノロン系で、使いやすさや適応菌種の多さなどの理由から、処方の90%以上を第4世代キノロン系が占めています。※1
 佐々木香る先生は、わが国の眼科領域における抗菌薬適正使用では「周術期や結膜炎治療におけるキノロン系抗菌薬点眼の過剰使用」が大きな課題だといいます。本邦では、なんと1年間で5tタンク11個分、つまり年間50t以上ものキノロン系点眼が、目の表面に投与されています。こうしたキノロン系点眼の過剰使用は、わが国特有の状況でもあります。その背景には、公的医療保険制度のもとで、高価な薬でも処方しやすい、眼内炎訴訟での抗菌薬使用法をめぐる敗訴などの事情があると考えられます。抗菌薬点眼の約9割は眼科医が処方していますが、内科・小児科・耳鼻科などでも使われていますので、注意が必要です。
 実は抗菌薬点眼は内服や点滴の血中濃度に比べ非常に高濃度の製剤です。例えばレボフロキサシンの場合、点滴の最高血中濃度は9μg/mL、内服は8μg/mLです。これに対し点眼では3,000〜15,000μg/mLと、点滴や内服の300〜1,500倍もの高濃度に達します。※2
※1 株式会社日本医療データセンター(JMDC)、抗菌点眼薬剤販売量(2020年4月〜2021年3月)
※2 株式会社日本医療データセンター(JMDC)、診療科別抗菌点眼薬処方患者数(2021年1〜12月)
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キノロン系はWatchカテゴリーの抗菌薬

 細菌は抗菌薬から生き延びるために、さまざまな方法でみずから薬剤耐性を獲得しようとします。さらに抗菌薬が不適切に使われることで、耐性菌が生き残り、薬剤耐性が増加したり拡散する可能性が高まります。キノロン系抗菌薬に耐性化すると、眼科領域では特に他に取りうる治療抗菌薬の選択肢が少ないため、医療現場において慎重な使用が求められる抗菌薬の1つです。WHO(世界保健機関)が提唱するAWaRe分類※3では、限られた疾患や適応にのみ使用が求められる「Watch」カテゴリーに含まれます。ところが、眼科領域疾患では、結膜炎や周術期など多くの場面で、キノロン系点眼が処方されています。
 年間170万件行われている白内障手術の周術期の感染予防投与として、キノロン系抗菌薬が使用されていますが、近年、眼科手術予定患者の結膜から常在菌を分離・培養し、各種キノロン系抗菌薬に対する感受性を検討したところ、非常に感受性が低かったと報告されています。※4
 周術期のキノロン系抗菌薬点眼の使用期間についても、見直しが検討されているところです。
※3 World Health Organization, AWaRe classification of antibiotics for evaluation and monitoring of use, 2023
※4 Eguchi H et al: J Ocul Pharmacol Ther 37(2): 2021 https://doi.org/10.1089/jop.2020.0091

眼科領域における抗菌薬の出番

 眼科領域における抗菌薬点眼の出番の一つである眼科領域感染症は大きく3つの部位に分かれます。前眼部感染症(角膜炎・結膜炎・眼瞼炎)は点眼が有効ですが、付属器感染症(眼窩蜂窩織炎・涙道炎)は、点眼の到達が悪く、全身投与中心です。また眼内炎では、点眼も全身投与も十分な濃度を得ることができず、手術主体となります。この中で、結膜炎では、「眼科でも他科でも、慢性結膜炎としてキノロン系抗菌薬点眼が長期投与されている患者が非常に多い」と、佐々木先生は指摘しています。実際、佐々木先生のもとには、結膜炎でキノロン系抗菌薬点眼を使っているにもかかわらず、症状が改善しないという患者が紹介されてきます。その中には、ほかの疾患が隠れているケースが少なくないといいます。たとえば、アレルギーやウイルス性、さらに薬剤毒性、涙小管炎といったケースです。まれにリンパ腫やCCF、甲状腺眼症の充血が慢性結膜炎とされていることもあります。
 これらの疾患は、キノロン系抗菌薬点眼では改善せず、高齢者や乳幼児で長期投与になりがちです。その結果、「高齢者の結膜炎の主な起炎菌であるコリネバクテリウムは、高度のキノロン耐性が認められています」と佐々木先生は述べています。さらに、長期でキノロン系抗菌薬点眼を投与していると、選択的にMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が増加することも指摘されています。
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その結膜炎は本当に「感染」か

 結膜炎は目の表面、前眼部で炎症が起こる疾患です。前眼部には常在菌がいて、何らかの傷がつくことで感染が成立し、菌が増殖します。目の表面なので、起炎菌がわかれば抗菌薬点眼を使って治療できます。ただし、「結膜炎がいつも細菌によって引き起こされる感染症とは限らない」ことに注意が必要です。アレルギー性の結膜炎もあれば、同じ感染でもウイルスによる結膜炎もありますが、抗菌薬点眼が有効なのは細菌性の結膜炎だけだからです。
 目の周りの眼瞼皮膚の紅斑や発疹。眼球突出具合、眼脂の有無、全身状態の観察なども大きな情報となります。

充血と眼脂だけで抗菌薬を投与しない

 結膜炎の主な症状は充血と眼脂です。ただし、これらの症状があっても細菌性結膜炎とは限りません。最近では気道感染症などに対し、「発熱のみで抗菌薬を投与しない」ことが浸透してきましたが、佐々木先生はこれを眼科領域に置き換えて、「充血と眼脂のみで抗菌薬を投与するべきではない」と注意喚起しています。

結膜炎の種類と眼脂の違い

 佐々木先生によれば、アレルギー性やウイルス性の結膜炎と細菌性の結膜炎とでは、眼脂の性状が異なるため眼脂の観察が重要だと指摘しています。前者は涙腺や副涙腺からの分泌物が主体の、透明でサラサラした漿液性の眼脂です。一方、細菌性結膜炎では、好中球主体の黄色いドロドロした膿性眼脂がみられます。つまり、ある程度視診で鑑別できるということです。
 また眼脂を採取し、塗抹や培養を行うことも有用です。特に塗抹検査は細菌の有無や菌量、好中球や貪食像などを観察できるため、実際に細菌が存在して感染が成立しているのか、本当に抗菌薬は必要なのかを判断する重要な手がかりとなります。佐々木先生は、「眼脂の採取は眼科医しかできないわけではなく、診療所や高齢者施設でも可能です。目の表面からまぶたにこぼれた眼脂を採るだけで、診断の参考になることがあります」と指摘しています。
 佐々木先生は、「充血で紹介される症例のうち、本当にキノロン点眼が適切なケースは約半数強くらい」と指摘します。それにもかかわらず、わが国ではキノロン系抗菌薬点眼が過剰に使用されています。充血や眼脂の有無だけで判断せず、視診や塗抹検査などの所見も参考にしながら、抗菌薬の不適切な使用を減らしていくことが求められます。
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漫然と抗菌薬点眼を使用せず、全身投与薬と同様に、適切な症例に適切に使用することが大切と考えられます。

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