スペースX、アマゾン、ソフトバンクが参入 7万機超の「衛星コンステレーション」で、次世代通信はどう変わるか?

2025年4月30日(水)4時0分 JBpress

 ロケットや人工衛星と聞くと、多くのビジネスパーソンは「自分の仕事や日常とは遠い世界の話」と考えるかもしれない。しかし実際には農業、漁業、鉱業、金融、災害対策、地図、通信など、現代社会ではあらゆる産業に宇宙技術が活用され、人々の暮らしを支えている。本稿では『宇宙ビジネス』(中村友弥著/クロスメディア・パブリッシング)から内容の一部を抜粋・再編集、壮大な宇宙空間が生み出すビジネスの可能性を探る。

 イーロン・マスク率いるスペースXが先陣を切った「通信衛星コンステレーション」。刺激を受けた各国の企業が続々と参入を計画している。次世代通信はどう変わるのか?


イーロン・マスク氏が仕掛ける「スターリンク」のすごさ

 スターリンクのサービスを活用すれば、これまでインターネットを使えなかった地域であっても、通信速度が高速で、低遅延のインターネットを、大規模な設備も必要なく利用することができます。

 例えば、通信速度は現状のスペックで上りが最大25Mbps、下りが最大220Mbpsと動画サービスを楽しむうえでは十分なインターネット環境を提供できるレベルを実現しています。また、遅延についてもスターリンクの公式HPによれば約25ミリ秒となっており、従来の通信衛星と比較するととても短い遅延です。

 また、人ひとりが持ち運べるほどのコンパクトなアンテナを設置さえすれば、インターネットを利用できるようになっています。そのため、これまで通信環境が十分でなかった地域にあった法人での利用はもちろんのこと、個人でもお金さえ払えば利用が可能となっています。

 さらに、利用料も自宅に設置する場合は日本では月額6600円からと、高額すぎるとは思われないだろう設定がされています。

 スターリンクのサービスは2020年からβ版のサービス提供が始まり、日本では2022年にサービス提供が開始されました。現時点で120カ国以上が利用できるようになっており、その契約者は2025年1月時点で460万人を超えています。仮に月額6600円の契約だったとしても、年間の売上は3000億円以上となります。

 Bloombergによれば、2024年度のスペースX(ロケット事業やNASAからの委託事業なども含む)の売上は2兆円を超えるという予測も出ています。契約者数が300万人を突破したのは2024年5月だったので、その成長スピードにも驚きです。日本の宇宙産業の市場規模が4兆円なので、もしかしたらスターリンクの売上だけで越されてしまうかもしれないという怖さもあります。

 ここまで読んでいただき、地球全球を対象としたビジネスができる、ゲームチェンジャーになれるという点でもあらためて宇宙ビジネスが生み出せるインパクトを実感いただけるのではないでしょうか?

 では、スターリンクはどのように利用されているのでしょうか。実は、通信環境がすでに整備されている日本においても利用事例が生まれています。

 例えば、企業の利用事例としてインパクトが大きいのは、日本郵船や商船三井といった、海上での快適なインターネット環境を求める海運企業の利用です。海上には地上のように基地局を立てることができないため、従来は、地上とのやり取りのために静止通信衛星を利用していました。

 ただ、船員にとって、快適なインターネット環境がないことはストレスの要因ともなっているようです。スターリンクを利用することで、通信速度や遅延が大幅に向上し、家族や友人との会話や動画サービスの利用も可能となります。また、船と陸とのビデオ会議ができたり遠隔医療時の支援を地上から受けられたりするといったメリットもあるようです。

 ほかにも、山の中で開催される野外フェスや山小屋といった、通信環境が整備されていない場所でもスターリンクの導入が始まっています。デジタルデトックスをしたいと考えて野外フェスに行ったり、山登りをする方にとっては複雑な気持ちかもしれませんが、いつでもどこでもインターネットとつながれる環境がスターリンクによって実現され始めています。


各国・各社が取り組む次世代の通信システム構築

 では、スターリンクはどのようにして従来の通信衛星と比較して大幅に向上したスペックのインターネット環境を提供できているのでしょうか。その仕組みは非常にシンプルです。

 それは、スターリンクのサービスを構築する衛星が従来の通信衛星があった静止軌道(地上3万6000km)よりも遥かに地球に近いところを飛んでいるからです。静止軌道は、地球の自転速度と同じ速度で地球を周回するため、地上からだと衛星が止まっているように見える軌道です。

 静止軌道にない衛星は、地上から見ると静止しておらず、衛星1機だけでは24時間通信を提供することはできません。では、どのようにして常時途切れないインターネット環境を提供するかと言うと、大量の衛星を打ち上げるという大胆な手法を用いています。

 どのくらい大量の衛星かと言うと、スターリンクの衛星は現時点で7000機以上宇宙空間に打ち上げられており、最終的に4万2000機が配備される計画となっています。これだけの衛星が宇宙にあることで、地上での途切れることのないインターネット環境の提供を可能にしています。

 このように、複数の衛星を宇宙空間に配置し、1機の衛星では実現できない複合的なサービスを提供する仕組みのことを、「星座」という意味を持つコンステレーション(constellation)という言葉を用いて、宇宙業界では衛星コンステレーションと呼びます。

 そして、スターリンクのような大規模な衛星コンステレーションによる通信衛星サービス提供を計画しているのはスペースXだけではありません。ECサイトを運営するAmazon.com(アマゾン)も、Project Kuiperという3000機を超える通信衛星コンステレーションの構築を計画し、完全子会社を設立しています。また、ソフトバンクグループは同様の通信衛星コンステレーションを計画するOneWebに2016年に出資をしました。

 その後、OneWebはフランスの大手通信衛星事業社Eutelsat Communicationsと経営統合し、Eutelsat OneWebとなり、2024年12月のサービス開始を発表しています。他にも楽天が出資したAST & Scienceや、中国でも中国版スターリンクとも呼ばれる「千帆星座」計画の衛星が打ち上げられ始めるなど、スペースXだけではなく、各国・各社が独自の通信衛星コンステレーションの構築を進めています。

 そのため、今後も通信衛星の打ち上げが加速し、現時点で計画されている衛星の数を足しただけでも7万機を超える衛星が打ち上がる予定となっています。スターリンクの衛星打ち上げが本格化する以前の2019年に打ち上げられた衛星の数は世界全体で500機でした。単純計算すると140年かかる計算となりますが、衛星の小型化やスペースXや中国のロケットの打ち上げ回数の急激な増加により、衛星の打ち上げ機数も急増しています。

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筆者:中村 友弥

JBpress

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