社員マネジメントは「国語」ではなく「数学・物理」…4000社が導入し毎年10社が上場する"公式"理論を特別公開

2024年5月8日(水)16時15分 プレジデント社

識学 代表取締役社長 安藤広大早稲田大学を卒業後、NTTドコモ、ジェイコムホールディングス(現ライク)、ジェイコム取締役営業本部長を経験。13年に組織マネジメント理論の「識学」に出合い衝撃を受け、識学講師として独立。15年、株式会社識学を設立。

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■アットホームな会社はなぜ弱体化するのか


部下にうまく仕事を任せることのできる組織は、利益を獲得し成長できます。そのような組織になるためには、緊張感が必要です。上司と部下が「なあなあ」になってしまえば、組織はすぐに崩れます。上司は部下と仲良くする必要はありません。部下とは距離を置き、適度な緊張感を持って役割を果たす。それが職場のあるべき姿です。上司は「いい人」になろうとしてはいけません。


識学 代表取締役社長 安藤広大
早稲田大学を卒業後、NTTドコモ、ジェイコムホールディングス(現ライク)、ジェイコム取締役営業本部長を経験。13年に組織マネジメント理論の「識学」に出合い衝撃を受け、識学講師として独立。15年、株式会社識学を設立。

こうした私の考え方を冷たいとか厳しいと批判する人もいますが、すべて「識学」というロジックにもとづいた考え方です。識学とは「意識構造学」という学問からとった造語で、組織内の誤解や錯覚がどのように発生し、どうすれば解決できるか、その方法を明らかにしたマネジメント手法です。


かく言う私も以前は、部下に任せることをしないリーダーでした。自分が頑張ることで成果を上げ、それを部下に分け与えるようなやり方だったのです。ところがそれでは部下がまったく育たず、私の負担は増すばかりでした。それが10年ほど前に識学と出合い、意識ががらりと変わりました。それまで人のマネジメントとは、学校で学ぶ教科にたとえると「国語」の領域だと思っていました。周囲の人たちの感情を読み取り、自分なりの解釈をする必要があると思っていたからです。ところが実際は、「物理」や「数学」と同じように客観的な正解があり、公式がある世界だと気づいたのです。


■識学を世の中に広めるため、会社を設立


そこで、識学を世の中に広く知ってもらおうと、独自の基幹理論として整備したうえで、「株式会社識学」を設立しました。当社の組織づくりも識学をベースに行ったところ、起業からわずか3年11カ月で東証マザーズへの上場を果たすことができました(現在は東証グロース市場に移行)。


現在、4000社以上が識学を取り入れており、その中から毎年10社を超える企業が新規上場を果たしています。この結果からも、生産性向上と組織の成長を図るうえで、今もっとも有効なロジックであると自負しています。


識学の基本的な考え方は、組織を「仕組み化」して動かすこと。仕組み化とは、ルールを決めて運営することです。「仕組み」とか「ルール」という言葉にネガティブなイメージを持つ人もいるかもしれませんが、ロジックの確かさは、当社と導入企業の成長ぶりが証明するところです。


■仕事を「任せる」ときに絶対に守るべきルール


「任せることが大事」と聞いて、部下に「丸投げ」する上司も多いのですが、それではただの無責任です。仕事を任せるには「いつまでに」「どういう結果を」部下に求めるのか、はっきりと伝えなければいけません。


それとともに、その仕事を遂行するうえで過不足ない「権限」を与えることも必要です。権限を与えるとは、「何をやっていいか」を明らかにすることです。たとえば「100万円の予算をつける」とか「同じ部署の人間を1人つけていい」など、社内のリソースの使用可能範囲を明確化することです。部下は権限が足りないと感じたら、上司に追加の相談をしてもかまいません。


こうして「期限と求める結果」と「権限」をセットで伝えるのが、任せるうえでのルールなのです。


■部下に任せたら、口を出さない


しかしそれで終わりではなく、大事なのはそこからです。部下に指示して権限を与えた後は、約束の期日が来るまで一切、口を出してはいけません。


「あれどうなった?」とか「進捗状況を報告しろ」などと声をかけるのは禁止です。期日までひたすら黙って待つ。それが上司の役割です。


部下から相談されても、基本的には答えません。答えていいときは、与えた権限内では部下が決められない場合、もしくは、部下が自分の権限で決めていいかどうか不明な場合だけです。それ以外の相談には応じてはいけません。もしも与えた権限の範囲内での相談ならば、「それは君が考えてください」と突き返してください。それが本当の意味での「任せる」です。


「放っておいて失敗したらどうするんだ」と心配になるかもしれません。もし部下が失敗すれば、その責任をとるのは上司の役目です。上司ははじめから、その覚悟で部下に仕事を任さなければなりません。


部下の責任などとりたくないと、横から口を出す上司も多いのですが、そこが大間違いなのです。部下は完全に任されるからこそ、失敗したときには自分の責任を感じて反省します。上司が途中で口を出すと、「上司の言う通りにしたから失敗した」と、言い訳の材料にされるだけです。それは部下が真剣に反省し成長する機会を奪うことなのです。仕事は任す側も任される側も互いに緊張感を持って進めてこそ、成果が得られます。そのことをまず上司が認識しなければなりません。


■上司が1人で抱え込む組織の末路


「部下に安心して仕事を任せられない」という上司の声をよく耳にします。その理由は、自分でやったほうが間違いがない、もしくは早いと思っているからでしょう。しかし、そのような考え方をしていると組織は成長しません。


たとえば5人の部下を抱えているとします。そしてその部署に5つの案件があるとしましょう。この場合、5人の部下に1件ずつ案件を任せたほうが、上司が1人で考えるより確実で早いものです。たとえまだ力不足に見える部下でも、5件を1人で同時に進めている上司よりは早く、丁寧な仕事ができるに違いありません。


プレーヤーとして優秀だった上司にありがちなのが、「俺の言う通りにやれ」と細かく指示を出すスタイル。これは組織にとって一番よくないやり方です。自分の言う通りにやれば間違いがないというのはほとんどの場合、過信です。人間の能力に大差はありません。経験の差があるだけです。やらせてみれば、そのうちできるようになります。上司が細かく指示を出すやり方がダメな最大の理由とは、上司1人の「脳みそ」しかその部署で使われていないことです。組織はより多くの脳みそを使ってこそ強くなるものなのです。


上司の仕事とは、部下に頭を使わせることなのです。その大切さは、「時間軸」で考えるとわかります。短期的には上司が1人で考えたほうが早いかもしれませんが、それを続けていては未来永えい劫ごう、部下は成長せず、上司は1人で部下たちの分の仕事をし続けなければいけません。しかし、「部下の頭を使える組織」は、最初は思うように結果が出ないかもしれませんが、「上司の頭だけ使う組織」とどこかの時点で結果が逆転します。そこからは差が開くばかりです。部下に失敗させる組織とさせない組織とでは、半年後、1年後、3年後には、とてつもなく大きな差がついてしまうのです。


■親身に相談に乗る上司が結果的に部下を潰す


「部下に任せても失敗を繰り返すから、任せられないんだよ」と反論する人もいるかもしれません。しかし、本当に完全な任せ方ができていたでしょうか。おそらくどこかで口を挟んできたのではないのでしょうか。


昨今、手取り足取り部下に教えるのが上司の役目だと勘違いしている人が大勢います。残念ながら、普段から優しい上司を演じている人が、部下に本当の意味で仕事を「任せる」ことはできません。優しい上司のもとにいる部下たちは「困ったら上司に相談しよう」と考えてしまうからです。また上司のほうも、部下から「相談に乗ってもらえませんか?」と言われると、自分が信頼されている気がして嬉しいものです。それでついアドバイスをしてしまう。その安易な言動が、部下の仕事を邪魔しています。すなわち、部下の成長を止め、ひいては組織に損害を与えているのです。


そもそも部下が不安なときに相談に来るのは、無意識の「免責獲得行動」です。「できなくても許してください」と甘えているのです。繰り返しになりますが、部下に任せた以上、結果以外に口出しをしてはいけないのです。


■原稿の確認に来た副社長を突き返した


私の経験談を1つお伝えします。起業してまだ2〜3年目の頃、顧客企業数十社をお招きして会合を行ったことがありました。私はその会合の最後の挨あい拶さつを、副社長に任せることにし、それを事前に伝えていました。ですが、その副社長は挨拶の直前になって、私のもとへ「これでいいでしょうか」とスピーチ原稿の確認に来たのです。そのとき私はどうしたかというと、「君に任せたことだ。君の責任でやれ」と突き返しました。「任せる」とはそういうことです。


もし挨拶で失態があれば、その責任をとるのは私です。しかし同時に任された副社長にも責任が伴います。そもそも副社長とは、社長の私に何かあった際に、私の代わりを務める人です。社長は人に了承を得ることはできません。その重責を担う立場である以上、日頃からその意識を持っていなければならないのです。


■まずは誰でも守れるルールを作る


近年、日本の企業では「モチベーション」や「心理的安全性」を重視するマネジメントが主流です。しかしそれで利益が出せるでしょうか。世界と戦える組織になるでしょうか。


モチベーションとは、成果が上がった後に自然に湧いてくるものです。成果も出ていないのに最初にモチベーションだけ上げるのは順番が逆。聞けば何でも教えてくれる優しい上司とは、子どもが欲しがるものは何でも与える親のようなもので、教育の義務を放棄した状態です。こういった表面的にフレンドリーな組織こそ、日本の企業を弱体化させた元凶だと私は考えています。高度経済成長期に日本企業が世界の頂点に立てたのは、強固なピラミッド型組織を確立し、規律ある指揮系統が機能していたからです。識学は、日本の企業に再び世界で戦う強さを授けるロジックだと、私は本気で思います。


それでは、まずどのような第一歩を踏み出せばいいか。自分の部門だけでもすぐに生産性を高めたいということであれば、1つ方法があります。それは私たちが「姿勢のルール」と呼んでいる「決めごと」を3つほど作り、しっかり守れる状況にすること。これが組織のリーダーが取り組むべき一丁目一番地です。「姿勢のルール」とは、挨拶をする、期限を守る、時間を守る、など「できる・できない」が存在しない、意識すれば誰でも守れるルールのことです。ルールで動く組織に変えることで、部下に「任せる」ことができるようになります。


「任せる」とは「任せきる」こと。これができれば、みなさんが思うより早く効果が出ます。部下の成長速度に驚くでしょう。その効果を実感したとき、むしろ「任せないこと」に不安を感じるようになるに違いありません。


※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年5月17日号)の一部を再編集したものです。


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安藤 広大(あんどう・こうだい)
識学 代表取締役社長
1979年、大阪府生まれ。早稲田大学卒業後、NTTドコモ、ジェイコムホールディングスを経て、ジェイコム(現:ライク)にて取締役営業副本部長を歴任。2013年、「識学」という考え方に出会い独立。識学講師として、数々の企業の業績アップに貢献。2015年、識学を1日でも早く社会に広めるために、識学を設立。人と会社を成長させるマネジメント方法として、口コミで広がる。2019年、創業からわずか3年11カ月でマザーズ上場を果たす。4000社以上に識学メソッドを導入。
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(識学 代表取締役社長 安藤 広大 大島七々三=構成、榊 智朗=撮影)

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