ホンダ、コストコ、グーグル――「愛される企業」に共通する特徴とは

2024年5月2日(木)4時0分 JBpress

 時代を超えて輝き続ける18社を研究した『ビジョナリー・カンパニー』(1994年発行)は現在も経営者の必読書と言える名著だが、それをさらに進化させた本『愛される企業 社員も顧客も投資家も幸せにして、成長し続ける組織の条件』(ラジェンドラ・シソーディア、ジャグディッシュ・シース、デイビット・B・ウォルフ著/齋藤慎子訳/日経BP発行)が話題を呼んでいる。キーワードは「愛」。企業経営にはおよそ似つかわしくない言葉だが、顧客や投資家のみならず関係するあらゆる人・組織に愛されることこそが経営の本質だと説く。抽出された72社はビジョナリーカンパニー以上の実績を上げており、そこには共通して7つの特徴があるという。本連載では、同書から内容の一部を抜粋・再編集、愛される企業の条件を事例を交えて紹介する。

 第1回は、「愛される企業」に見られる共通点を解説する。

<連載ラインアップ>
■第1回  ホンダ、コストコ、グーグル——「愛される企業」に共通する特徴とは(本稿)
■第2回 コストコの福利厚生は手厚過ぎる? 成長し続ける企業の「意外な条件」とは
■第3回 GEのジェットエンジン工場では、なぜ工場長がいなくても欠陥品が出ないのか?(5月16日公開)
■第4回 イケアやトヨタ、サウスウエスト航空は、なぜ「低価格、気高い魂」を重視するのか(5月23日公開)
■第5回 ホンダの成功のエンジン、「ベストパートナープログラム」はなぜうまくいくのか?(5月30日公開)

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■「愛される企業」とは?

「愛着」「愛情」「喜び」「誠意」「エンパシー(共感)」「同情」「思いやり」など、愛情を表すことばはいろいろある。少し前までは、こうしたことばはビジネスの世界で受け入れられていなかった。それが変わりつつあり、いまは、こうしたことばを難なく受け入れている企業が増えている。

 だからこそわたしたちも「愛される企業」と造語したのだ。愛される企業は、簡単にいえば、すべてのステークホルダー集団の関心事を戦略的に調整することで、ステークホルダーに「愛されている」企業のこと。ほかのステークホルダー集団を犠牲にして利益を得るような集団はひとつもなく、どの集団もみんな同じように豊かになっていく。愛される企業は、ステークホルダーを喜ばせ、愛着を感じてもらい、ロイヤルティにつながるやり方で、すべてのステークホルダーの機能的ニーズにも、精神的ニーズにも応えている。

 1990年代、「財布シェア」というマーケティング用語が流行り、顧客関係管理(CRM)と呼ばれる手法で最重要視されるようになった。しかし、顧客を数字としてしか見ない、味気のない、非人間的な見方を示すことばだった。圧倒的多数の企業にとって、顧客関係管理は、データ管理で顧客をさらに絞り込み、さらに搾取するためのものであって、顧客ニーズに親身に応じることではなかった。顧客「データ」管理と言ったほうがよかった。

 愛される企業の考え方はこれとは異なり、「心のシェア」の獲得を目指している。顧客の心に居場所を獲得すれば、財布の中身は喜んでシェアしてもらえる。従業員の心に居場所を獲得すれば、生産性や仕事の質の飛躍的アップという形で応えてもらえる。サプライヤーと「心」がつながっていれば、より優れた製品の納入やすばやい対応といった見返りが得られる。自社の存在がコミュニティに誇りに思われるようになれば、顧客獲得にも人材採用にも困らなくなる(この「心のシェア」という表現には、一定量の愛や思いやりを分け合うイメージがあるが、「愛は無限」という表現どおり、そのような限度はない)

 では、株主はどうだろうか。デイトレーダーなどの短期投機家は別として、株主の大半は自分が投資している愛される企業に満足しているはずだ。利益もしっかり得たいが、心から応援している企業に投資している喜びもある。人は、モラルに欠けるような企業を応援しようとは思わないものだ。

 大学基金や年金基金といった機関投資家も、投資先企業のモラルをますます意識するようになっている。それは、サステナブル投資、社会的責任投資、インパクト投資への急速な流れを見てもわかる。

 残念ながら、今日の企業の大多数は、愛される企業とはいえない。過去に繁栄を謳歌していた多くの企業は脆弱化が進み、あらゆる方面からの批判も高まっている。こうした企業に対する圧力が増える一方で、愛される企業は、ステークホルダーの全集団とともに堂々たる存在感を見せ、投資市場でも見事な実績を示している。

 本書が伝えたいことは、単純明快だ。「経営が健全であれば(モラル的にどれほど正しくても、経営がまずければどうしようもない)愛される企業はおおむね永続企業である

 愛される企業には、その核となる価値観、経営方針、運営上の特徴に共通点が見られる。いくつか挙げてみよう。

● 利益をあげるだけではない存在意義(パーパス)を重視している。

● ステークホルダーの全集団の利益を、バランスをとるだけではなく、積極的に「調整」している。ある集団の利益か、他の集団の利益かのトレードオフ(賃金アップか、投資家への利益還元または顧客への値下げかなど)ではなく、各ステークホルダーが目指しているものが同時に達成されるだけでなく、ほかのステークホルダーによって強化されるようなビジネスモデルを巧みにつくりあげている。この「コンシニティ(全体的調和)」のカギは、愛される企業のさまざまな活動がステークホルダーの利益を積極的に調整できるシステムのなかでおこなわれていることにある。たとえば、ホールフーズはこうした考え方を「相互依存宣言」に取り入れ、ステークホルダー集団のどのメンバーも、互いに依存し合うひとつの家族のようなものだと見なしていた。

● 経営陣の給与があまり高くない。コストコの共同創業者で元CEOのジム・セネガルの給与は、通常35万ドル、ボーナスが20万ドルだった。一方、コストコと規模が同じくらいの公開会社のCEOは、2012年の全報酬額の平均が1420万ドルだった。

● 役員に自由に意見を言える方針をとっている。ホンダは、なにか大きな問題があると「ワイガヤ」を実施し、上下関係に基づく礼儀や遠慮をいったんなくして、平社員でも役員に解決策を直接提案できる環境をつくっている。ハーレーダビッドソンはもっとざっくばらんだ。従業員はだれでも、いつでも、最高幹部に意見を言える。

● 給与や福利厚生などが同業種内の水準とくらべてかなり手厚い。トレーダージョーズの正社員の1年めの賃金と諸手当は、アメリカの小売業界平均の2倍。

●社員研修の時間が同業他社よりかなり多い。ザ・コンテナストアでは、入社1年めに平均300時間近い研修があるのに対し、米小売業界の平均は8時間。

● 離職率が業界平均とくらべてはるかに低い。サウスウエスト航空の従業員離職率は、ほかの主要航空会社の半分。

● 従業員に権限を与え、あらゆる面で顧客に必ず十分満足してもらえるようにしている。ウェグマンズのある従業員は、顧客の家に料理人を派遣したことがある。失敗した料理を挽回し、サンクスギビングのディナーを無事整えたのだ(そのとおり、ウェグマンズは料理人も雇用している。5つ星レストランで働いていた人もいるのだ)

● 自社の製品やサービスの熱心なファンを雇うようにしている。パタゴニアは、自然を愛する人しか雇わないようにしている。ホールフーズは、いわゆる「グルメ」な従業員をなるべく増やそうとしている。

● 顧客や従業員の企業体験をあたたかみのあるものに、また、人を育む職場環境を整えるように、意識している。グーグルは、従業員が美味しい食事を24時間無料でとれるようにしている。

● 顧客への心からの愛を伝え、心の深いレベルで信頼関係を結んでいる。顧客の心のシェアをしっかり獲得し、財布シェアをより多く獲得している。ノードストロームは、その傑出したカスタマーサービスへの取り組みで知られている。

● 同業他社とくらべて、マーケティングにかける費用がはるかに少ないのに、顧客満足度と顧客維持率がはるかに高い。ジョーダンズ・ファニチャーは、マーケティングと広告にかける費用が業界平均の3分の1にも満たないが、売り場面積1平方フィートあたりの売上は業界平均の5倍、と業界屈指。グーグルは、広告を一切打たずに世界トップレベルの価値のあるブランド力を構築している。

● サプライヤーを真のパートナーと考え、両社がともに前進できるよう協力している。サプライヤーが生産性、品質、収益率を高められるよう支援している。サプライヤーも、買い叩かれて言いなりになってばかりの存在ではなく、真のパートナーとしての役割を果たしている。ホンダは「サプライヤーとは一蓮托生(いちれんたくしょう)」で、自社のサプライヤーグループの企業に対し、品質を向上させてより収益をあげられるよう、できるかぎりのことをしている。

● 法律の文言にただ従うのではなく、法の精神を遵守している。国や地域によっては規制がかなり緩い場合でも、世界一律の高い基準で企業活動をおこなっている。イケアは、化学物質などに関する厳しい規制が一国でもあれば、すべての国のすべてのサプライヤーにもその規制に従ってもらっている。

● 企業文化を、最大の強みであり、競争優位になる重要なもの、と考えている。サウスウエスト航空の「企業文化委員会」は、同社のユニークな文化の維持といっそうの強化を担っている。

● 短期の偶発的なプレッシャーに強いだけでなく、必要とあればすばやい適応も可能である。したがって、その業界に従来からあるルールを破る革新的存在である場合が多い。ストーニーフィールド・ファームは、従来型の広告ではなく、独創的なソーシャルメディアキャンペーンを活用している。

 企業の強みやこれまでの業績を分析するためには財務データはもちろん重要だが、企業の今後の見込みを見極めるうえでは、質的な尺度がさらに重要になる。極論すれば、将来の業績を予想する際には、量的要素より質的要素のほうが参考になる場合が多い。

<連載ラインアップ>
■第1回  ホンダ、コストコ、グーグル——「愛される企業」に共通する特徴とは(本稿)
■第2回 コストコの福利厚生は手厚過ぎる? 成長し続ける企業の「意外な条件」とは
■第3回 GEのジェットエンジン工場では、なぜ工場長がいなくても欠陥品が出ないのか?(5月16日公開)
■第4回 イケアやトヨタ、サウスウエスト航空は、なぜ「低価格、気高い魂」を重視するのか(5月23日公開)
■第5回 ホンダの成功のエンジン、「ベストパートナープログラム」はなぜうまくいくのか?(5月30日公開)

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筆者:ラジェンドラ・シソーディア,ジャグディッシュ・シース,デイビット・B・ウォルフ,齋藤 慎子

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