自民党政権を倒すつもりが本当にあるのか…立憲民主党の「政権交代」が絵に描いた餅になりそうな根本原因

2024年5月13日(月)6時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oasis2me

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■「対等な共闘態勢」はもう古い


「自民党全敗」となった4月28日の衆院3補選は、「全勝」した立憲民主党にとっても今後の課題を考える機会にもなった。立憲は今後、野党としてだけでなく「政権の選択肢」としての評価を厳しく問われることになるが、現状は「戦う構え」すら満足にできていない。


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「戦う構え」を作るには、野党が「まとまる」ことが必要だ、と言われてきた。「全ての野党をまとめて『大きな塊』を作れ」「対等で平等な『共闘』態勢を組め」。方向性に差はあるが、野党は常に外野から、こうした圧力を受けてきた。これらは確かに、ある時代までは野党の強化に一定程度機能したが、その戦い方はもう古い。


立憲は「まとまれ」の呪縛から離れ「自力で政権奪取を目指す」姿勢を明確にすべきだ。「孤高で戦え」と言うのではない。下手な候補者調整をするより、立憲が前面に出た方が、むしろ野党陣営は大きくまとまれる、とみるからだ。


■「共産を切れ」「連合を切れ」と言っている暇はない


立憲は今回の3補選で、すべての選挙区に公認候補を擁立した。これに対し、国民民主党は島根と長崎で候補擁立を見送り、立憲候補を県連レベルで支援した。共産党は島根と東京で候補を取り下げ、長崎を含むすべての選挙区で立憲候補への「自主的支援」を行った。


島根と長崎では、立憲と国民民主、共産、社民という、現状考えうる最も大きな「野党の構え」が出来上がった。連合の芳野会長は島根について「共産党と一緒に戦うことはありえない」と不満を述べたが、それによって現場の態勢が崩れたわけではない。


厚い地盤を誇る自民党との一騎打ちに野党側が勝つには、好むと好まざるとにかかわらず、この枠組みを可能な限り模索せざるを得ない。味方を増やし、敵を減らさねばならない時に「○○を切れ」などと悠長なことを言う暇はないのだ。


■「大きな構え」を阻む連合と共産党の軋轢


東京ではこの枠組みを構築できなかった。9人が立候補した乱戦の中、国民民主は小池百合子東京都知事と組んで無所属候補を推薦し、立憲の公認候補と対決した。


「大きな構え」は崩れたが、乱戦を制して立憲が勝利した。国民民主が離れた分、自主的支援に回った共産党の動きが良く、「構え」の欠落を補った面はあるが、主な勝因は候補者が乱立したことで、候補がいなかった自民党の支持層や無党派層の票が分散したことだろう。この結果、候補者の中では「第1党」であり、組織力もあった立憲に有利な戦いとなった。


自民党が次回、態勢を立て直して候補を擁立した場合、今回の枠組みで勝ちきれるかと言えば、やや心許なさが残る。こちらも「○○のおかげで勝てた」と言える状況にはない。


補選を振り返れば、立憲は国民民主、共産、社民との4党でともに戦う「大きな構え」づくりが急務であるとわかる。それを阻むのが、連合及び国民民主党と、共産党との軋轢だ。


今回の補選でも、野党陣営は大きな勝利を得たにもかかわらず、選挙直後から険のある言葉が飛び交った。連合加盟労組の幹部が今回の勝利で「もう共産に候補者を取り下げてもらう必要はない」と述べた、と毎日新聞に報じられ、こうした声に反発した複数のリベラル系識者などは「立憲がとるべき道は『連合切り』」などといきり立った。


外野の発言とはいえ、こうした応酬は無党派層の立憲への印象を悪化させ、自民党を利することになりかねない。


■政権交代のための候補者がそもそも足りない


「連合vs共産党」のあつれきを乗り越え、野党が大きくまとまるために、立憲は何をすべきか。それが冒頭に述べた「自力で戦う」ことである。「候補者調整を待たず、自前の候補者を可能な限り擁立する」ということだ。


つまりどういうことか。


「大きな塊」にせよ「市民と野党の共闘」にせよ、これまでの野党の戦術は「立憲が他党と候補者調整をし、選挙区を譲り合って候補者を一本化する」というものだった。一本化というと、野党各党がそれぞれ多数の候補者を立て、多くの選挙区で候補者が競合しているように聞こえるが、実態はその逆だ。候補者が全く足りていない。


立憲は小選挙区で200人、比例単独も含め衆院定数の過半数(233議席)を上回る240人以上の候補擁立を目指しているが、現在の候補予定者は170人あまり。全員が当選しても、単独では政権を担えない。これでは「政権交代」を訴えても、絵に描いた餅である。


写真=iStock.com/electravk
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■過度な「候補者調整」はやめるべき


筆者が気になったのは、同じ4月30日の岡田克也幹事長の記者会見だ。補選の勝利を受け、今後の候補者擁立方針を問われた岡田氏は「『数字先にありき』ではない」と述べ、擁立作業を急ぐことにやや慎重な姿勢を示した。


理由は以下の2点だ。①勝てない候補者を数多く立てればいいわけではない、②他の野党とバッティングする——。①はその通りで、質の高い候補をそろえることは、党への信頼を高めるためにもこれから一層重要になる。


気がかりなのは②だ。立憲は他党との調整を意識するあまり、自前の候補者擁立を手控えなければならない、という呪縛にとらわれてはいないだろうか。


一本化は死活的に重要だ。だが、衆院解散の足音が近づくなか、それを意識するあまり候補擁立が遅れることの方が、はるかに死活的な問題になりつつある。


立憲以外の野党支持者には納得しがたいだろうが、野党がこの先「小選挙区で勝つ」なら、可能な限り第1党である立憲の公認候補を前面に出すことが望ましい。


政権批判層や「非自民」志向の無党派層は、選挙区に野党第1党の立憲がいなければ、次善の策として第2党の日本維新の会への投票を試みるだろう。筆者はたびたび立憲と維新の「目指す社会像が違う」ことを指摘してきたが、無党派層にそのことが十分に浸透しているとは言い難いからだ。


■小選挙区は立憲、比例は他の野党で戦えばいい


立憲が擁立を見送った選挙区に維新が候補を擁立すれば、維新が非自民票をかっさらう可能性がある。昨年の衆参補欠選挙は「立憲が全敗、維新が自民から金星を挙げた」と評されたが、維新が勝った衆院和歌山1区補選に、立憲は公認候補を立てていなかった。


維新は近畿以外で地方組織の力が十分でなく、メディアに露出する「空中戦」で比例票を稼ぐ戦いに頼りがちだ。だが、立憲が過度に候補擁立を見送れば、維新は立憲のいない小選挙区で勝利を重ねるかもしれない。今回の補選で獲得しつつある「自民vs立憲による『目指す社会像』の選択」の構図が再び崩れ、振り出しに戻る可能性がある。


メディアは「維新を含めた野党候補の一本化」を盛んに求めているが、一方で次期衆院選で自民党が大敗した時に「維新が連立政権に加わる可能性」にも言及している。選挙後に自民党政権の補完勢力になるかもしれない候補が、野党支持の票をかき集めることを、野党第1党が簡単に認められるわけはない。維新の動向には今後も注意を払う必要はあるが、現時点で立憲が、維新の議席を大きく増やすことにつながる戦術を安易にとることは極めて困難である。


野党陣営は補選を機に頭を切り替え、小選挙区では立憲の旗を前面に出して戦うべきだ。他の野党は比例代表で確実に議席を増やし、立憲が自分たちの望む方向を外れてしまわないよう、政策面で圧力をかける力を強めればいい。


くどいようだが、小選挙区制とはそういう制度なのだ。


■立憲公認候補がいたから東京15区を取れた


ところで「立憲が前面に出た方が、野党は大きくまとまりやすい」とはどういうことか。その答えの萌芽が、今回の東京15区補選でみられた。連合東京の「自主投票」である。


東京は連合の「反共」志向が、全国の地方組織の中でも特に強い傾向がある。無党派層が多く、国民民主も候補を擁立する余力があるため、島根や長崎のような大きな「構え」の構築は難しい。今回の補選で連合東京が、国民民主の推薦候補に「全振り」しても不思議はなかった。


だが、連合東京はそうしなかった。芳野氏は東京についても、立憲候補が共産党から支援を受ける構図に不快感をあらわにしたが、一方で連合東京の自主投票を「受け止める」とも述べ、事実上黙認した。「反共」の建前を維持しつつ、立憲への配慮を見せた形だ。


これが選挙結果に及ぼした影響を評価するのは難しいが、少なくとも国民民主の推薦候補に票が集まるのを、一定程度防ぐ効果はあっただろう。


もともと国民民主は、東京15区で公認候補を擁立する方針だった。玉木雄一郎代表は、島根と長崎では同党が公認候補を擁立せず、逆に東京では立憲に擁立を見送ってもらい、互いに支援する「すみ分け」を構想していた。


国民民主はその後、擁立を予定していた人物の公認内定をなぜか取り消す事態となり、玉木氏の構想は崩れた。だが、もし同党が予定通り公認候補を立てていたら、共産党は対立候補を擁立し、補選は共倒れになった可能性が高い。国民民主でも共産党でもない立憲の公認候補だったからこそ、両党がそれぞれの形で同じ候補を応援する(あるいは「邪魔をしない」)形ができたとも言える。


自民党との一騎打ちの選挙を戦う時、このわずかの差がものを言う可能性は十分にある。


■「仲の悪さ」を気にする必要はない


そろそろ小選挙区制の特性を理解して、それぞれが「大人の対応」をすべき時だ。


「政権交代」というみこしを担ぐ時、担ぎ手同士の仲が悪いことを問題視する必要はない。事故を起こさず前に進むための、最低限の認識の共有があればよい。「自民党政権を倒し、自己責任の社会を終わらせ『支え合い』の社会をつくる」、この1点があれば良い。


その時「誰にとっても担ぎやすいみこし」は、野党第1党の立憲だ。今回の補選全勝で注目されたことで、立憲の党名を前に出した方が、現実に「勝ちやすい」空気も生まれつつある。立憲カラーを前面に出した候補を他の野党が側面支援する「基本のスタイル」をまずはしっかりと意識し、あとは地域事情によって支援の形にバリエーションをつけていく形が望ましい。


だから立憲は、第1党の自らが責任を持って「勝ちを取りに行く」姿勢を、もっと強く打ち出すべきだ。大きく遅れている候補者擁立を急ぎ、野党陣営の芯を明確に作り、その後に他党に協力を呼びかけるべきだ。労組や市民連合などの支援団体は、政党同士の調整が円滑に進むよう、最大限の尽力をすることに徹すべきではないか。


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尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト
福岡県生まれ。1988年に毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長などを経て、現在はフリーで活動している。著書に『安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ』(集英社新書)、『野党第1党 「保守2大政党」に抗した30年』(現代書館)。
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(ジャーナリスト 尾中 香尚里)

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