給料の低さでも少ない休日でもない…やる気失ったコロナ&Z世代が"親身な上司"に無言で辞職した納得の理由

2024年5月14日(火)6時15分 プレジデント社

■コロナ世代(18〜26歳付近)【原則】具体的なデータや数字を使う


コロナ世代の離職率が上昇しているワケ

コロナ世代(1998〜2006年生まれ)は、大学在籍時に新型コロナウイルスの感染拡大によりリモート授業を経験し、就職後も在宅勤務が中心でした。そのため、他の世代に比べて、人との密なコミュニケーションに慣れていない人が多いのが特徴です。


国内で感染者が急増し緊急事態宣言が成立したのが2020年3月で、多くの企業がテレワークを導入しました。これまで仕事とは職場でするもので、自宅で仕事をするのはありえない。それでは部下を管理できないと多くの経営者が考えていました。


ところが、やってみたらなんとかなってしまった。テレワークが機能するのなら家賃の高い都心部にオフィスを構えている意味がないと、本社を地方に移転する企業も現れました。「この流れは止まらない」という人もいましたが、季節性インフルエンザなどと同じ5類感染症に引き下げられた23年5月以降、多くの企業がテレワークをやめて出社の機会を増やしていきました。


理由は言わずもがな、対面でのコミュニケーションに勝るものはなかったからでしょう。


多くのビジネスパーソンにとっては元に戻っただけですが、コロナ世代には初めての経験です。以前は新卒社員の3割が入社1年以内に離脱するとされていましたが、今その割合は「4割」に上がっているとも言われます。リアルなコミュニケーションは面倒もともないますから、慣れない世代にはストレスになっているのかもしれません。


「これって自宅でもできますよね」
「家でやるほうがはかどるんですが」


と、ずばり言ってくる若手もいます。上司・先輩はどう言えば彼らを納得させ、動かすことができるでしょうか。


「出社するのが決まりなんだよ」
「上が決めたことには黙って従え」


などと、強引に従わせようとすれば反発を招くだけでしょう。ゆとり世代と通ずるところがあり、信頼できない相手とは必要以上の議論をしません。


まずは1対1の信頼関係をしっかりと構築するところから始めましょう。頻繁に1ON1の場を設けて、こちらから「不安に思うところはないか」「気になっていることはないか」と問いかけてあげてください。決して自己中心的というわけではないので、しっかりと根拠を示して納得すれば受け入れ、次第に心を開いてくれます。


ただし注意も必要です。ある企業の部長さんが目に見えてやる気を失った部下を心配して、1ON1をしました。


「最近、元気がないね。職場に不安や不満があるのかな」
「はい、まあそんなところです」
「やっぱりそうか。この機会だから、遠慮せずに何でも言ってごらん。改善の方法を一緒に考えてみよう」
「大丈夫です。言えないことなんで」


と回答を拒み、間もなく辞職してしまいました。部長は「給料が低いとか休みが取れないとか、そんな理由だろう」と思っていたのですが、後に人事部から真相を聞かされ、じつは自分の言動が原因だったと知ったそうです。


もしコロナ世代が心を開いていないと思ったら無理はせず、必要なことに関してだけ、根拠を示しつつ話すようにしてみましょう。


■コロナ世代が大好きなキーワードとは


先述の「出社ルール」の話で言えば、完全リモート/在宅○日・出社○日/フル出社の場合と、それぞれの生産性や達成率のデータを示し、「だから出社に決まったんだ」と説明すれば「なるほど、確かにそうです」と腹落ちします。リモートだと必要十分のコミュニケーションしかしませんから、直接に教わる機会がなかっただけなのです。


また、コロナ世代は「Z世代」(1990年後半〜2010年前半生まれ)と呼ばれる年代層とも重複します。幼少期から多様性に配慮した教育を受け、平等とフェアネスに対する意識が強く、コスパやタイパなど効率性や合理性の追求が大好きです。物心ついた頃からスマホがあって(初代iPhoneの日本発売は07年)SNSを使いこなしているので、広くて浅いフラットな人間関係の構築は得意です。


じつは私の会社はコンサルティングが主たる業務ではありますが、組織構築のモデルケースとして東京でアイスクリーム店を経営しており、常時40人ほどの学生アルバイトを雇っています。学生たちとのやり取りが、格好のZ世代調査になっています。


たとえば、こんなことがありました。私が店舗の様子を見に行くと、アルバイトに「社長、何しに来たんですか? こちら側に立ち入るなら、ちゃんと手を洗って制服を着てください」と厳しく“指導”されました。肩書は役割の違いでしかなく、仕事の前では年齢の上下など関係ないというのは平等とフェアネスの意識からだと思います。


人手が足りなそうだったので見かねて手助けに入ると「いつものやり方と違うのでやめてください」と注意されてしまいました。


「いつもはどうやっているの?」
「こうです」
「でも俺がやったやり方のほうが効率が良いぞ? 検証してみよう」
「本当だ! そうとわかったらマニュアルを変えちゃいましょう」


上司が言うからむやみに従うのではなく、効率性や合理性に適っており納得したから受け入れる。ある意味で、真っ当な感覚だと思います。


■コロナ世代の新しい発想を引き出す方法


別の日の出来事です。店はキャッシュレス決済のみで現金を扱わないのですが、その日は開店直前に不具合が生じ、決済システムが機能しなくなりました。たまたま開店準備をしていたアルバイトが発見したのですが、社員とは連絡が取れません。開店時間が迫る中、彼女が取った行動に、驚きました。


「今日は現金決済にしちゃおう」と決断して、自分の預金口座から釣り銭を用意したのです。しかも、多種の硬貨を揃えるのが難しいと知るや全商品を一律500円と決め、スマホでチラシをつくってコンビニで出力して一人で“特別セール”を始めたのです。


私は事後報告でそれを聞かされたのですが、ちろん問題はありません。むしろ、危機対応としては完璧で「Z世代が本気になったらここまでできてしまうのか」と感心してしまいました。彼女が大胆に行動できたのは、コミュニケーションを密にして、信頼関係が構築できていたからだと思います。デジタルネイティブの世代ですから、自らの意思で動けば、上司の世代にはないアイデアも出てくるのです。


私は日頃からアルバイトにも店舗経営の目的やミッションを詳しく説明し、売り上げ管理などの情報もすべてオープンにしていました。もちろん、コンプライアンスの観点から公開すべきでない情報は誰にも見せません。ただ、公開できる情報に関しては誰でも見られるようにする。


ベテランも新人も、管理職もアルバイトも差はなく、考えやアイデアを自由に述べていい、間違ったことを言っても責められないという心理的安全性が確保されていることが大切です。


■各世代が歩み寄れば大きな価値になる


世代が違えば価値観にギャップがあるのは当然です。ゆとり世代やコロナ世代は多様な価値観を持っていますから「今の若い人はこう」と一括りにもできません。ですが、時間をかけて向き合い、互いを理解しようとすればの溝は埋まります。そうして信頼関係が醸成できてしまえば、少々の無茶振りをしても食らいついてきてくれます。


私のところにも本当は芸術家志望でありながら、家の事情で会計士になるために商学部で勉強をしている学生がいます。あるとき勤務態度が良くないので注意しようと呼び出したら、思いがけず「じつは——」と悩みを打ち明けられました。私は答えを示せたわけではありませんが、とことん彼の話を聞き、できる限りのアドバイスをしました。それ以来、お互いの距離はぐっと近くなり、彼はふっ切れたように勉強にもアルバイトにも全力で取り組んでくれるようになりました。


企業とはさまざまな世代が力を合わせ補い合って、社会に価値を提供していく組織です。そして、これからの企業を担うのは、間違いなくゆとり世代・コロナ世代の若者たちです。若い世代を理解し、歩み寄るところは歩み寄り、若い世代に刺さる言葉でコミュニケーションを取りながら、能力を引き出してあげてほしいと思います。


※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年5月17日号)の一部を再編集したものです。


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池本 克之(いけもと・かつゆき)
組織学習経営コンサルタント
株式会社パジャ・ポス代表取締役、NPO法人Are You Happy? Japan 代表理事。1965年神戸市生まれ。日本大学卒業後、金融会社を経て、ソニー生命保険に入社。わずか2年で「全国トップ20」の成績をあげる。その後、マーケティング会社、通販会社の経営を経て、ドクターシーラボ、ネットプライスなどの社長を務める。年商3億円の企業をわずか4年で120億円にするなど、さまざまな企業の上場、成長に貢献し「成長請負人」と呼ばれる。現在は数社の社外取締役を務めつつ、コンサルタントとして一部上場企業からベンチャー企業まで200社以上を指導。
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(組織学習経営コンサルタント 池本 克之 構成=渡辺一朗 撮影=宇佐美雅浩 イラストレーション=竹松勇二)

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