大腸がんのAPCネオアンチゲンに対するがん免疫療法の開発

2025年5月15日(木)16時17分 PR TIMES

より多くの患者を迅速に治療可能な次世代免疫治療に期待

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(大阪府茨木市、理事長:中村祐輔) 難病・免疫ゲノム研究プロジェクトの清谷一馬プロジェクトリーダーらの研究グループと公益財団法人がん研究会(東京都江東区、理事長:浅野敏雄)は、東京科学大学との共同研究により、一部の大腸がん患者に共通する遺伝子由来のネオアンチゲン(ネオアンチゲン)を同定し、これを標的とした2つの新たながん免疫療法(遺伝子改変細胞および二重特異性抗体)の開発に成功しました。
これまでの研究について
遺伝子変異によって生じる新たながん特異的な抗原(ネオアンチゲン)を標的としたがん免疫療法が注目されています。ネオアンチゲンの多くは患者ごとに異なりますが、今回の研究では、大腸がん患者の約3%に適用できるがん免疫治療法の開発を目指しました。より免疫原性が高いと期待されるAPCフレームシフト型変異由来のネオアンチゲン(フレームシフトネオアンチゲン)を中心に解析を行いました。
研究成果のポイント
大腸がん患者の約3%に共通して存在するAPCネオアンチゲンを同定しました。APCネオアンチゲンを特異的に認識するT細胞受容体を導入した遺伝子改変T細胞は、がん細胞を正確に認識し、細胞傷害活性を示しました。APCネオアンチゲンとT細胞の両方に結合する二重特異性抗体は、がん細胞のAPCネオアンチゲンとT細胞を結びつけ、結合したT細胞が活性化し、がん細胞に対して強い細胞傷害活性を示しました。
本研究成果の意義
本研究では、これまでの個別化ネオアンチゲン免疫療法に加え、「一部のがん患者に共通のネオアンチゲン」を標的とする新たな免疫療法のアプローチを示しました。特に大腸がんにおけるAPCネオアンチゲンを標的とした遺伝子改変T細胞療法および二重特異性抗体療法は、より多くの患者に迅速な治療を提供する可能性が期待されます。
本研究成果は、2025年5月15日(木)14時に国際科学誌「Frontiers in Immunology」に2報の論文として発表されます。
ウェブサイト: https://www.frontiersin.org/journals/immunology/articles/10.3389/fimmu.2025.1574955およびhttps://www.frontiersin.org/journals/immunology/articles/10.3389/fimmu.2025.1574958
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/118477/82/118477-82-3fa54f6187011c8467877d0e471c6455-1222x769.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
用語解説

ネオアンチゲン

がん細胞で起こる遺伝子変異(遺伝子の傷)により生じ、正常細胞には存在しないがん特異的な抗原です。T細胞ががん細胞を攻撃するとき、がん細胞の目印となります。
フレームシフトネオアンチゲン
DNAからRNAに転写されるときに、読み枠(フレーム)のずれる変異(フレームシフト)により生じるネオアンチゲンです。この変異により、正常細胞にはない配列を持つ異常なタンパク質が生成され、免疫が強く反応しやすいネオアンチゲンとなります。

T細胞

免疫系の中核を担う白血球の一種。異物やがん細胞などを攻撃・排除する働きを持ち、がん免疫療法の中心的な役割を果たす細胞です。がん細胞やウイルス感染細胞などを認識して攻撃するCD8+ T細胞やヘルパーT 細胞、制御性T細胞として働くCD4+ T細胞などが存在します。

遺伝子改変T細胞

特定の抗原を認識するT細胞受容体を遺伝子導入したT細胞です。ネオアンチゲンなどのがん特異的な目印を識別してがん細胞を攻撃することができます。

二重特異性抗体

異なる2つの標的に同時に結合できるよう設計された人工抗体です。今回の研究では、一方がネオアンチゲンに、もう一方がT細胞上のCD3分子に結合し、T細胞をがん細胞に誘導して攻撃を促すようにデザインされています。
論文情報

論文1

論文タイトル
Identification of shared neoantigens derived from frameshift mutations in the APC gene
著者
趙鵬1,2,3, Clara Effenberger2, 松本早紀2, 田中敏博3,4, 中村祐輔1,2, 清谷一馬1,2
1 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 難病・免疫ゲノム研究センター 難病・免疫ゲノム研究プロジェクト
2 公益財団法人がん研究会 がんプレシジョン医療研究センター 免疫ゲノム医療開発プロジェクト(研究当時、現 免疫ゲノム医療研究部)
3 東京科学大学大学院 医歯学総合研究科 疾患多様性遺伝学分野
4 東京科学大学 リサーチインフラ・マネジメント機構 疾患バイオリソースセンター
掲載雑誌
Frontiers in Immunology
DOI: 10.3389/fimmu.2025.1574955

論文2

論文タイトル
Bispecific antibody targeting shared indel-derived neoantigen of APC
著者
Clara Effenberger1, 武暁セイ1,2, 趙鵬1,2,3, 松本早紀1, 中村祐輔1,2, 清谷一馬1,2
1 公益財団法人がん研究会 がんプレシジョン医療研究センター 免疫ゲノム医療開発プロジェクト(研究当時、現 免疫ゲノム医療研究部)
2 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 難病・免疫ゲノム研究センター 難病・免疫ゲノム研究プロジェクト
3 東京科学大学大学院 医歯学総合研究科 疾患多様性遺伝学分野
掲載雑誌
Frontiers in Immunology
DOI: 10.3389/fimmu.2025.1574958
医薬基盤・健康・栄養研究所について
医薬基盤・健康・栄養研究所は、2015年4月1日に医薬基盤研究所と国立健康・栄養研究所が統合し、設立されました。本研究所は、メディカルからヘルスサイエンスまでの幅広い研究を特⾧としており、我が国における科学技術の水準の向上を通じた国民経済の健全な発展その他の公益に資するため、研究開発の最大限の成果を確保することを目的とした国立研究開発法人として位置づけられています。
ウェブサイト: https://www.nibn.go.jp/
がん研究会について
がん研究会は1908年に日本初のがん専門機関として発足して以来、100年以上にわたり日本のがん研究・がん医療において主導的な役割を果たしてきました。基礎的ながん研究を推進する「がん研究所」や、新薬開発およびがんゲノム医療研究を推進する「がん化学療法センター」「がんプレシジョン医療研究センター」、さらに新しい医療の創造をする「がん研有明病院」を擁し、一体となってがんの克服を目指しています。
ウェブサイト: https://www.jfcr.or.jp/
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/118477/82/118477-82-537c7398fe031176c9ed2a5dd9615c7a-1201x206.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]

https://prtimes.jp/a/?f=d118477-82-75f191939c98c333207bcce04f035968.pdf

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