歩く速度はイモムシレベルに…息切れ、だるさを抜いて浮上した「足の痛み」の正体《がん余命宣告「半年」を越えて》

2025年5月17日(土)7時0分 文春オンライン


医療ジャーナリストの長田昭二氏(59)は、前立腺がんで「余命半年」の宣告を受けながら執筆活動を続けている。今回はがんの進行と同時期に発生してきた「足の痛み」について綴った。



◆◆◆


息切れ、だるさを抜いて、「足の痛み」が頭角を現した


 日々の症状でつらいのは、前回までは貧血による息切れとだるさがトップだったが、ここに来て「足の痛み」が俄然頭角を現してきた。


 数カ月前から両方の太腿(前腿)と膝に痛みは感じていたのだが、これが突如として威力を増してきたのだ。



自慢の杖を使って散歩する長田氏 ©文藝春秋


 当初、主治医の小路医師は「がんがどこに転移しても不思議ではないので」と話していたが、左右の前腿と膝という限定した部位に、同じような強さの痛みが出るという点に不自然さを感じているようでもあった。


「もしかしたら腰椎が圧迫骨折して、中を通る神経を刺激しているのかもしれません」


 これまでのホルモン治療で骨粗鬆症が進んでおり、ちょっとしたショックで圧迫骨折するリスクを抱えていることは以前から指摘されていた。尻もちをつかない、重いものは持たない、などのできる限りの対策は講じてきたつもりだが、それでも知らぬ間に圧迫骨折を起こしている危険性は捨てきれないし、「両方の足の同じ部位に同じような痛みが出る」という特徴的な症状についても、小路医師の推測なら納得がいく。


 そこで同院整形外科からオーダーしてもらい、腰のエックス線写真を撮ってもらったところ、幸いにも腰椎の圧迫骨折は見られなかった。となると原因は何なのか。


 整形外科医の推測はこうだ。


「がんとは関係なく、年齢的な問題で腰部脊柱管狭窄症が起きているのではないか」


 脊柱管狭窄症とは、脊椎の骨や靭帯などが変形して中を通る神経を刺激している病態。60歳も近くなると、普通に起きても不思議ではないという。


 それをはっきりさせるためにMRI検査を受けた。連休明けに結果が出る予定だが、もしこれが脊柱管狭窄症だとしたら腹立たしい話じゃないか。


 こっちががんの末期症状の対応でてんてこ舞いの忙しさだというときに、がんとは関係ない痛みを引き起こして意識をそちらに向けさせる。“かまってちゃん”にもほどがあるというものだ。


 これは無視したいのだが、無視できない痛みになってきた。


 歩く速度はイモムシレベルにまで低下し、それでもふらついたりするので、ついに「杖」を購入してしまった。


 杖をついたからと言って元のスピードですたすた歩けるわけではないが、2本足よりは3本足のほうが少しは安定するというもの。


 また杖を持っていれば電車の優先席に座っていても白い目で見られるリスクは下がるような気がする。


四谷三丁目駅で美女と遭遇


 そういえば杖を買う前に、こんなことがあった。


 四谷三丁目駅の改札階から地上階に上がるためにエレベータに向かっていたら、僕を追い越して若いミニスカート姿の美女がエレベータの前に立ってしまったのだ。他にエレベータに向かう人はおらず、このまま僕がエレベータに向かうと美女と2人で乗り込むことになる。


 しかし僕は見た目は健康だ(美女はもっと健康そうだが)。見た目健康そうな初老の男性が、美女の背後からエレベータに乗り込むと、何らかの思惑というか魂胆があると思われるような不安が沸き上がる。


 その美女に聞こえるように、


「いやあ、僕も前立腺を摘出して3年経つんだな……」


 などと言い訳じみた「独り言」を言う手も無くはないが、かなりわざとらしいし、確実に気味悪がられる。


 短い時間に色々と考えた挙句、僕は階段を上がったのだった。


 手すりにつかまり、一歩一歩ゆっくりと上がって行き、地上に出たときには息が切れまくっていた。


 目の前の信号が青になっても渡ることができず、1回分青信号をやり過ごしてから新宿通りを横断した。


 こんなことになるなら、エレベータを1回やり過ごせばよかったと後悔したのだが、もう遅いんだよ。


 しかし、こんな時に1本の杖があれば、僕は堂々とエレベータに乗ることができる。それどころか、


「あら、足がお悪いのですか。手を取りましょう」


 かなんかで、新宿通りの横断歩道を一緒に渡ってもらえるかもしれない。


 やはり僕には思惑や魂胆があるんだな……。


 前立腺を取っても、ダメな男でございます。


 ちなみに杖はアマゾンで購入した。


 仙人が持つような長い杖だと安定感もありそうだが、安定感と引き換えに失うものも多いような気がする。


 そこで「せめて少しでも若く見えるデザインを」とのことで、水色のタータンチェック柄の杖を選んだ。


 これでモテようなどとは思っていないが、まあいいじゃないですか。最後の悪あがきですよ。



※長田昭二氏の本記事全文(7000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「 文藝春秋PLUS 」に掲載されています。全文では、足の痛みを抑える薬、食欲不振でも口にしている食べもの&飲みもの、介護保険の申請などについて語られています。



(長田 昭二/文藝春秋 電子版オリジナル)

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