コストコの福利厚生は手厚過ぎる? 成長し続ける企業の「意外な条件」とは

2024年5月9日(木)4時0分 JBpress

 時代を超えて輝き続ける18社を研究した『ビジョナリー・カンパニー』(1994年発行)は現在も経営者の必読書と言える名著だが、それをさらに進化させた本『愛される企業 社員も顧客も投資家も幸せにして、成長し続ける組織の条件』(ラジェンドラ・シソーディア、ジャグディッシュ・シース、デイビット・B・ウォルフ著/齋藤慎子訳/日経BP発行)が話題を呼んでいる。キーワードは「愛」。企業経営にはおよそ似つかわしくない言葉だが、顧客や投資家のみならず関係するあらゆる人・組織に愛されることこそが経営の本質だと説く。抽出された72社はビジョナリーカンパニー以上の実績を上げており、そこには共通して7つの特徴があるという。本連載では、同書から内容の一部を抜粋・再編集、愛される企業の条件を事例を交えて紹介する。

 第2回は、コストコを例に、従業員に高給を払い、投資家をもうけさせ、顧客とサプライヤーを満足させ、さらに地域からも歓迎される仕組みについて論じる。 

<連載ラインアップ>
■第1回  ホンダ、コストコ、グーグル——「愛される企業」に共通する特徴とは
■第2回 コストコの福利厚生は手厚過ぎる? 成長し続ける企業の「意外な条件」とは(本稿)
■第3回 GEのジェットエンジン工場では、なぜ工場長がいなくても欠陥品が出ないのか?
■第4回 イケアやトヨタ、サウスウエスト航空は、なぜ「低価格、気高い魂」を重視するのか(5月23日公開)
■第5回 ホンダの成功のエンジン、「ベストパートナープログラム」はなぜうまくいくのか?(5月30日公開)

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 わたしたちは、「株主かステークホルダーか」は誤った二元論だと考えている。本書で取り上げている愛される企業がより優れた財務実績を達成していることから判断すれば、株主価値を長期的に生み出す最善の方法は、すべてのステークホルダーにとっての価値創造を意識的におこなうことではないだろうか。

 コストコを例にとろう。コストコは同業他社と比べて給与水準がかなり高く、しかも福利厚生なども充実している。直接競合する企業よりかなり多く支払っていながら、従業員ひとりあたりの売上も利益もかなり大きい。まるで錬金術のようだが、圧倒的な効率のよさと、非常に低い離職率のおかげなのだ。より高い賃金でより満足して働いているから、モチベーションも生産性も高い。さらに、一般的な小売業とくらべて愛社精神も強いため、生産性をさらに高める新たなアイデアを従業員が次々と提案しているにちがいない。

 ほかの愛される企業と同じく、コストコが構築しているビジネスモデルも、従業員の給与が高く、投資家をしっかり儲けさせ、顧客とサプライヤーを十分満足させ、新規開店予定のどのコミュニティからも歓迎されることを可能にしているのだ。

 それなのに、コストコは投資家の利益を奪い、取るに足りない従業員を甘やかして給与を払い過ぎていてけしからん、と考えている金融アナリストが多い。これまでのように数字だけ見て企業判断しがちなアナリストにとって、ステークホルダー関係管理ビジネスモデルによる価値創造の可能性は理解しがたいのだ。ドイツ証券のビル・ドレハーがこう述べている。

「投資家の観点からいえば、コストコの福利厚生は手厚すぎる。公開会社は株主のことを第一に考える必要がある。コストコは未公開会社のような経営をしている」

 わたしたちは、ドレハーのほうが間違っているように思う。良識ある未公開会社のような経営の公開会社が、実は優良株だった、ということはよくある。コストコの前CEOジム・シネガルは、従業員待遇が「手厚すぎる」理由を次のように説明している。

「従業員にしっかり支払っているのは、そうするのが正しいからだけでなく、業績につながるからです。結局、支払っただけのものが手に入るのです」

 シネガルはさらにこう続けている。最低賃金しか払わないのは「間違っています。適切な利益配分ではないからです。従業員は常に不満を感じ、離職者が増えます。おまけに、店長は代わりとなる人材の採用ばかりに時間をとられて、店の運営がおろそかになります。わたしたちはむしろ、従業員に店を運営してもらったほうがいい、と考えています。従業員が満足して働いてくれることが、企業の顔としても一番なのです。(中略)きちんと経営し、目標に意識を集中させていれば、株価は自然についてきます」。実際、コストコは優良株であり続けている。

 問題は、従来のビジネスモデルと異なるものはなんであれ、金融アナリストの多くは不安を感じてしまうことだ。「基準」となる豊富なデータを信頼して企業判断しているため、なんらかのカテゴリーで基準を超えた支出があると——コストコが賃金カテゴリーで基準を超えているように——、それを補っている強みを見落としがちになる。コストコは比較的高い賃金——それに尊重とエンパワーメントの文化——と引き換えに、採用や研修にかかるコストを抑え、顧客とよりよい関係を保ち、ひいては顧客ひとりあたりの売上の高さと強い顧客ロイヤルティを獲得しているのだ。

 愛される企業の成功の最大の「秘訣」として、どのステークホルダー集団からも、関わりたい、と思われていることが挙げられる。

 たとえば、ゴルフ用品のタイトリストやキッチン家電のクイジナートといった高品質メーカーは、倉庫型店舗との取引を当初は避けていた。「必要最小限」の味気ないイメージだからだ。それがいまでは、コストコで自社製品を積極的に販売するようになり、コストコ利用客の富裕層割合を高めている。

 また、優秀な人材は愛される企業で働きたがる。UPSには、空きを何年も待っている優良ドライバーのリストがある。パタゴニアには、新規採用募集枠100名に対し、毎年1万通ほどの履歴書が送られてくる。愛される企業の多くは、費用のかさむ広告をほとんどおこなっていない。大手広告代理店式の派手な宣伝をしなくても、顧客のほうから来てくれるからだ。

 愛される企業の主な課題は顧客の獲得ではなく、顧客の要望に応え続けることだったりする。ぜひうちへ、と地域社会から要望されることが多いのだ。同族経営のスーパーマーケットチェーン、ウェグマンズには、地元に店を開くよう懇願する手紙が毎月何百通も届いている。

<連載ラインアップ>
■第1回  ホンダ、コストコ、グーグル——「愛される企業」に共通する特徴とは
■第2回 コストコの福利厚生は手厚過ぎる? 成長し続ける企業の「意外な条件」とは(本稿)
■第3回 GEのジェットエンジン工場では、なぜ工場長がいなくても欠陥品が出ないのか?
■第4回 イケアやトヨタ、サウスウエスト航空は、なぜ「低価格、気高い魂」を重視するのか(5月23日公開)
■第5回 ホンダの成功のエンジン、「ベストパートナープログラム」はなぜうまくいくのか?(5月30日公開)

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筆者:ラジェンドラ・シソーディア,ジャグディッシュ・シース,デイビット・B・ウォルフ,齋藤 慎子

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