なぜ突如として韓国の「反日感情」は消えたのか…旅行で殺到する若者たちをメロメロにする「日本の意外なもの」
2025年5月16日(金)7時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg
※本稿は、増淵敏之『ビジネス教養としての日本文化コンテンツ講座』(徳間書店)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg
■急速に増える海外での日本食店
ファストフードは日本においては、江戸時代に屋台で提供していたそば、うどん、天ぷら、寿司、おでん、うなぎ、串焼きなどを源流にする。すなわち手軽に食べられるものであった。
第二次世界大戦以降、米国から伝来したハンバーガーやチキンが定着、そして牛丼、ラーメン、カレーライス、とんかつ、お好み焼き、たこ焼き、たい焼き、菓子パン、ホットケーキ、おにぎり、弁当など近代になって普及したものを包括する。
出典=『ビジネス教養としての日本文化コンテンツ講座』(徳間書店)
現在、インバウンド観光客の急増により、B級グルメを主体とした日本食が注目されている。海外での日本食店の増加(図表1)が見られる。YouTubeでもインバウンド観光客のファストフード体験映像が数多く見られ、また海外に波及するコンテンツ作品の中にさまざまな日本食が描かれている点に注目すべきだろう。
■インバウンド戦略の核は「日本のファストフード」
前者でいえば吉野家、CoCo壱番屋、丸亀製麺、一風堂、おむすび権米衛などの海外展開が加速度を増しており、後者でいえば米国でたい焼きが知られるようになったのはアニメ『Kanon』からだという。実際には他の作品にもたい焼きは登場する(『東京リベンジャーズ』など)ことが極めて重要な要素だ。また先述したように、同時にSNS、動画共有サイトにはこの類のファストフードが近年、頻繁に登場するようにもなった。
確かに懐石、高級寿司、神戸牛などの高級日本食も富裕層には人気があるが、インバウンド観光客の大半はファストフードを楽しみ、そしてコンビニのおにぎり、弁当をも楽しんでいる。つまり日本のファストフードをインバウンド戦略の核に据えるべきなのは当然だろう。
■日本食を牽引しているのは高級店ではなくファストフード
2024年時点で、吉野家1005店舗、丸亀製麺は271店舗以上、CoCo壱番屋は219店舗、一風堂は135店舗、くら寿司は124店舗、そして最近、注目されているおむすび権米衛は4店舗を海外に展開している。中国に偏りが見られるチェーン店もあるが、おむすび権米衛に見られるように欧米主体のチェーン店もある。吉野家は海外展開の先駆者だが、近年は国内市場で一定の成果を挙げたチェーン店はいずれも海外展開に積極的だ。
ロサンゼルスのドジャースタジアムには大谷翔平の移籍加入もあって、スタジアム内に銀だこが出店したことも話題になった。
外務省調べにもとづいた農林水産省の集計によると、日本食レストランの海外での店舗概数は、約2.4万店(2006年)→約5.5万店(2013年)→約8.9万店(2015年)→約11.8万店(2017年)→約15.6万店(2019年)→約15.9万店(2021年)→約18.7万店(2023年)と連続して増加しているとされている。
先に述べたように近年、目立つのはファストフード店である。もちろん日本資本のもの、フランチャイズ、現地法人と経営形態はさまざまだ。欧米では高級寿司店をはじめとした高級店の存在もあるが、現象を牽引しているのはファストフード店ということになるだろうか。
写真=iStock.com/Mirko Kuzmanovic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mirko Kuzmanovic
■SNSも日本食ブームに一役買っている
近年、動画共有サイトで日本食を紹介するチャンネルが増えた。『Momoka Japan』もそのひとつだが、2023年にはコミカライズもされている。2025年3月19日現在、YouTubeのチャンネル登録者数95.4万人・668本の動画、再生回数の最も多いものは909万回、通常のものでも100万回再生前後を維持している。コミックの表紙裏には以下のように記載されている。「私が動画を作り始めたきっかけは日本の商品を外国の人たちがどう評価するのかが純粋に気になったからでした」
彼女はインスタグラムでも発信しているが、基本的には訪日客を美味しい日本食の店に連れていくといった内容になっている。そこで訪日客は初めての日本食に感動し、舌鼓を打つといった内容になっているが、その訪日客の反応が新鮮だ。筆者を含めて日本人には当たり前の食事が彼らの感動を引き起こす様はとても興味深い。もちろんこのチャンネルは海外でも視聴されており、もはや動画共有サイトやSNSは国境も超越した。
そういった意味でもインターネットの普及は大きい。それ以前には映像コンテンツは放送番組の形で海外に輸出するという手段を取っていたのだが、現在では一般人でさえ、簡単に映像化して瞬時に海外まで射程に入れた発信ができるようになった。これも技術的イノベーションの効用である。物品は他国に届くのに一定の時間がかかるが、情報に関しては瞬時に、広範に拡散できる。
■高級から低価格まである幅広いバリエーション
しかしYouTubeチャンネルには日本食を紹介するものが多い。テレビ東京が放送している『YOUは何しに日本へ?』のような訪日客へのインタビューに特化したものが中心だが、日本食のような特定のテーマを持ったものも多いということだ。つまり背景に日本食のバリエーションがある。幾つも動画を上げても尽きることのないメニューが日本食にはあるのだ。
この背景には2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたこともある。それまでは口承伝統、民族文化、伝統工芸技術、伝統芸能、祭礼などが対象だったが、2010年から食文化も対象となった。和食が登録されるまでは、フランスの美食術、スペインやイタリアなどの地中海料理、メキシコの伝統料理、トルコのケシケキ(麦がゆ)が登録されており、それに続く形となった。
ただしこの和食はあくまで日本人の伝統的な食文化を意味しているので、先に挙げた一連の日本食とは微妙に違うものになるが、それでも海外において日本の食への関心を高めたという点は大きい。逆に日本食の奥深さを提示することにもなったのかもしれない。
つまり日本食は高級なものから低価格のものまで縦のバリエーションを示すことにもなり、メニューの幅だけではない点がひとつの特徴ともいえるだろう。それがインターネットを通じて、その存在と情報が海外に伝播されているということになる。
■訪日韓国人のお目当ては日本食
2024年になって韓国人の訪日が増えている。JNTO(日本政府観光局)が発表している訪日外客統計によると、2024年6月の訪日韓国人数は70万3300人で、コロナ禍前の2019年の水準を大きく上回っている。
筆者もときどき福岡に行くのだが、福岡は韓国からの距離が近く、交通アクセスも良いので、街は韓国からの観光客で溢れているという印象が強い。韓国は2022年9月から、国別の訪日外客数1位の座を22カ月連続で維持しており、この背景には日韓関係の改善、円安、航空便の増便、文化交流の維持、中国市場の低迷などが挙げられるが、おそらくそれだけではないだろう。
韓国からの訪日客の大半は日本食を期待しているのだ。
訪日韓国人の支出比率は、主に宿泊料金と買い物代、飲食費が大きい。訪日客が増えることによってリピート現象が生じ、それによって日本の文化(コンテンツ含む)にはまった人々が多いのかもしれない。動画共有サイトにも韓国人訪日客のチャンネルが多くあるが、それらの大半はそのような内容になっている。反日、親日と取りざたされることの多い韓国だが、若年層は後者の傾向が強いようだ。
■韓国の「鳥貴族」は当初予約が取れなかった
最近では韓国でもJ-POPが流行り、日本の文化コンテンツに対しての関心が高まっていると聞く。2024年9月、ソウルに日本のチェーン店「鳥貴族」が開店したが、予約が取れない限り入店ができない状態だったという。もともと学生街では日本風の居酒屋が人気を博してはいたが、近年ではとんかつをはじめとした日本食がブームを引き起こしている。
ではとんかつを見ていこう。「新宿さぼてん」のブランドで有名なグリーンハウスフーズのHPによれば、2025年3月時点でうどんの「つるよし」を含めて、韓国では27店舗を展開、第1号店は2001年だった。「つるよし」を含めて海外では111店舗展開しているが、台湾が39店舗、韓国は第2位となっている。
筆者が2023年にソウルを訪れた際にも地元資本のとんかつ屋は増えていたという印象が強い。南大門のとんかつ屋はまるで日本の「松のや」のようだった。ファストフード的な店も増えているのだろう。とにかく日本の食文化は韓国においても裾野の広がりを見せている。
■反日、不買運動は見る影もない
もちろん寿司、ラーメンをはじめとして韓国国内には随分、多くの日本食店があるが、韓国ではここ数年、日本の文化コンテンツ、食文化などが人気を呼んでいる。若者の間では日本語と韓国語を混在させる「ハンボノ」という話し方も一般化している。これも一種の「日本化現象」と見られる。
かつて韓国で起きた日本製品の不買運動「ノージャパン」と対比し「イエスジャパン」と呼ばれている。訪日客の3分の1を韓国人が占める「ゴージャパン」も活発化している。
2023年10月に発表された、言論NPOと韓国の東アジア研究院の11回目の「日韓共同世論調査」で、日本の大衆文化を楽しんでいる人、日本を訪問した経験がある人、日本人と交流する機会が多い人ほど良い印象を持つようになるとの分析結果が出たとのことである。
文化コンテンツに限定すると、相手国のポップカルチャーに対して、「楽しんでいる」という人は日本人で36.1%、韓国人で18.5%であった。ただ日本人は「ドラマ」「K-POP」に特化しているのに比べ、韓国人では「マンガやアニメ」が突出しているが、「ドラマ」「映画」「YouTubeチャンネル」にも関心を寄せているとのことだ。
■インバウンドのリピーターが親日に結び付く
緩やかではあるが、状況は好転の兆しを見せており、その背景には日本の文化コンテンツの力が大きく寄与しているものと思われる。従来、存在していた暗黙の規制も少なくなったようにも思える。少し前まで日本では韓流ブームが注目されていたが、近年では立場が逆転したようだ。
増淵敏之『ビジネス教養としての日本文化コンテンツ講座』(徳間書店)
つまり先に紹介したように、韓国からの訪日観光客の増加がリピーターを生み、それが日本への関心を高め、好感度を高めていることに疑念の余地はない。
インバウンドの増加にはそういった効用があり、単に日本に滞在費等の経済的な利益を創出するのみではない。このリピーター効果が親日に結び付いていくのだ。韓国以外からの訪日客が増加する中、日本の文化が広範に理解されていくことを期待してもいいだろう。
また韓国では最近は、とんかつや寿司、ラーメンといった海外で定番のメニューだけでなく、すき焼きやしゃぶしゃぶ、日本の定食、喫茶店メニューなど、多様な日本食が受容されてもおり、これまで何度かあった日本ブームとは違い、現在はすっかり定着したとも取れる。
----------
増淵 敏之(ますぶち・としゆき)
法政大学大学院 教授
1957年、札幌市生まれ、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。NTV映像センター、AIR-G’(FM北海道)、東芝EMI、ソニー・ミュージックエンタテインメントにおいて放送番組、音楽コンテンツの制作および新人発掘等に従事後、現職。著書に2019年『「湘南」の誕生』(リットーミュージック)、2020年『伝説の「サロン」はいかにして生まれたのか』(イーストプレス)、2021年『白球の「物語」を巡る旅』(大月書店)など多数。
----------
(法政大学大学院 教授 増淵 敏之)