宮城・塩釜のランドマーク「壱番館」、全店舗が閉店へ…景気低迷や被災などで相次ぎ撤退

2025年5月19日(月)22時12分 読売新聞

特徴的な外観がひときわ目を引く複合ビル「壱番館」(宮城県塩釜市で)

 宮城県塩釜市中心部に立つ複合ビル「壱番館」の1階商業エリアに入居する3店舗が今月以降、相次いで閉店することが分かった。市街地活性化の起爆剤として1990年に官民で建設された再開発ビルで、長引く景気低迷と東日本大震災でテナントの撤退が続き、当初7店あった商業店舗は全てなくなる。市は空き区画を買い取る方向で検討しているが、現時点で活用策は未定という。(榊悟)

 壱番館は、JR旧本塩釜駅の跡地を活用した再開発事業として、地権者の市と地元商業者、銀行が市街地再開発組合を設立。総工費37億4100万円で、鉄筋コンクリート6階建てのビルを建設した。市は約10億円を負担し、地方債などの借入金も充てた。

 官民でビルを区分所有する形で、当初は1、2階(一部3階)に銀行や家電量販店、衣料品、食料品など7店が入居。3階以上は公共エリアで、3、4階に市民図書館、5階にはホール(375席)や会議室などが整備された。

 だが、景気低迷や震災で被災したこともあり、事業者が相次いで撤退。市は分庁舎や子育て支援施設などとして活用していたが、最後まで残っていた靴店2店と写真店も、高齢化で後継者がいないことなどを理由に今月以降、順次閉店するという。

 市は閉店している店舗も含めて、買い取りを希望する事業者の区画を取得する方向で交渉している。取得費用は3か所で1780万円を見込んでいる。売却をしない事業者もいるとみられるが、ビルの大半は市の所有となる見通し。

 取得した区画については、市民サービスの向上に資する施設や、老朽化している本庁舎機能の一部を移転する案も浮上しているが、現時点で未定という。建物の維持費は年間約8400万円で、占有面積が増えれば維持費も増え、利活用には改修費用がかかるといった課題もある。

 市産業建設部の星潤一次長は「バブル崩壊後の人口減少や震災の影響で商業施設としての体力がなくなった結果で残念だ」としながら、「図書館やホールが入居する市中心部のシンボルとしての重要性は変わらない。市が取得することで今後のまちづくりに有効活用したい」と語る。

35年経て岐路に

 塩釜市中心部でひときわ目を引くランドマークでもある「壱番館」。バブル絶頂期に計画され、市街地再生への期待を受けたが、事業は思うように進まなかった。35年を経て再開発ビルは大きな岐路に立たされている。

 塩釜港は、かつて東北最大の漁港として栄えたが、1970年代後半に200カイリの漁業水域が設けられて以降、水産業が衰退。地元百貨店が相次いで閉店し、成長する仙台市に買い物客が流れる中で、80年代に浮上したのが塩釜市初の再開発ビルの建設計画だった。

 国の補助制度を活用したこともあり、当初計画からどんどん規模が拡大。東京の有名設計事務所に依頼し、外観は「バロック風」に、屋上には展望台も整備した。当時を知る関係者は「こんなに立派な建物になるとは思わなかった」とも話す。

 ただ、核店舗の家電量販店は駐車場不足もあり売り上げが伸びず、2年で閉店。周辺に大規模ショッピングセンターの立地が相次ぎ、衣料品店から業態を変えた店もあったが長続きはしなかった。震災で1階部分が約1メートル浸水し店舗が被災したことなどで、主要エリアを占めていた地元銀行も2012年に退去した。

 市と入居事業者で構成する壱番館管理運営委員会の会長を務める文屋寿さん(85)は、精肉店や軽食店を経営していたが、5年ほど前に閉店。市に区画を売却するつもりだ。「量販店が次々に出店して客を持っていかれた。残念だが時代の流れだ。年を取って後継者がいないとなるとどうしようもない」と話す一方、「行政と一体となって街に人を呼び戻そうという当初の目的は一定程度達成できたと思う。市は今後も壱番館を活用して街を活性化してほしい」としている。

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