なぜスマホはどんどん大きくなっているのか…日本人好みの「小さいスマホ」が作られない残念な理由

2025年5月21日(水)7時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CatLane

スマートフォンは年を追うごとに大型化してきた。なぜか。ITジャーナリストの西田宗千佳さんは「世界での需要や価格を考慮すると、小さいスマホは売れないからだ」という——。(第2回)

※本稿は、西田宗千佳『スマホはどこへ向かうのか?』(星海社新書)の一部を再編集したものです。


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■小さいスマホが販売されない3つの理由


スマートフォンの新製品が出るたびに「もっと小さいものが欲しい」という声が上がる。たしかに気持ちはよく分かる。


しかし実際には、小さいスマホが出てもなかなか売れない。メーカーも数年おきにラインナップに加えるのだが、結局一部でしか支持されず、長続きしないのが実情だ。売れるならどこも製品ラインナップに加えるのだが、声の大きさほど売れない……というのは事実なのである。


なぜ小さいスマホは意外と売れないのか? そこにはいくつもの理由がある。


1つ目は「小ささよりも画面の見やすさを優先する人も多い」こと。


スマホの上に表示される情報の量はどんどん増えているし、映像を見る機会も多い。そうなると、小さい画面よりは大きい画面の方がいい。手で持った時やポケットの中ではコンパクトな方がいいが、使う時は画面サイズが大きい方がいい……というジレンマの前に、「買う前に冷静になると、大きい方を選んでしまう」という人は少なくない。


■「フリック入力」は世界では少数派


2つ目は「世界的に見ると片手で使うニーズはそこまで高くない」という点だ。


みなさんはスマホでどうやって文字入力をしているだろうか? 俗にいう「フリック入力」が中心ではないだろうか。


フィーチャーフォンでの文字入力から発展したもので、3×4のブロックに並んだひらがなの母音を手がかりに入力していく。五十音から発想するとわかりやすく、携帯電話のテンキーとの相性も良かったため、あたりまえのように普及している。


だが、このフリック入力、使っている国は非常に少ない。世界的に見れば、PCと同じ「QWERTY方式」とその派生形が使われることが多い。英語を含むアルファベット圏は特にそうだ。PCと同じ感覚で使えるので習熟も早い。日本でもPCに慣れた人は、スマホでもQWERTY方式を使う人が一定数いる。実は筆者もそうだ。


■「小さい製品=安い」ではない


QWERTY方式の場合、スマホを両手で持って両方の親指でタイプすることが多い。それに対してフリック入力の場合、両手で持つ人もいるが片手で、という人も少なくない。フリック入力は片手で快適に入力することを前提に作られたものだから、「片手で持ちやすい、小さいスマホの方がありがたい」と考えるのはよくわかる。


写真=iStock.com/MStudioImages
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しかし、世界的に見ればフリック入力は少数派。それどころか「QWERTY以外の入力方法はない」と思っている人の方が多い。QWERTY方式ではスマホを両手で持つし、画面が大きい方がタイプしやすい。そうなると、「小さいスマホが欲しい」というフリック入力派のニーズはなかなか理解されづらい……ということになるわけだ。


そして3つ目が「小さい製品は安くないと売れない」というジレンマだ。


小さいスマホのニーズがあるなら、日本向けに作って売ればいいのに……と思わないだろうか。たしかにそれはできる。


だが、現在のスマホの価格は「大量に作られる低価格なパーツ」が存在する前提で成立している。スマホとして一般的なサイズのディスプレイやバッテリーほど安価に調達できる。


■日本向け製品ができない残念な理由


より小さな製品を作る場合には特別なパーツを用意することになり、コストは高くなってしまう。「小さいならコストは下がるのでは」と思う人も多いだろう。たしかに、同じ数を作るなら、小さい方が素材は少なくて済むため、安くなることは多い。しかし、生産量が桁違いだとそうはいかないのだ。


一般論として、「小さい製品は安い」と思う人は多い。だがそんなルールはなく、一般的には小さく作るほどコストは上がる。さらに売れる数が少ないとなるとなおさら高くなる。


スマホは〈Q1〉で解説したように、年間10億台以上売れる。世界中で同じような製品を売る前提で部材も調達するから、特別なサイズで市場が限られるものは高くなる。


高いパーツで高くなりやすい構造である「小さいスマホ」が、ちゃんと高価な値付けで売れるならいいのだが、それでは結局売れない。


小さいスマホが出てくるには「世界中で売られる小さいスマホ」になる必要があって、それはなかなか難しい……という話になるのである。


今後、人口が減って日本市場の影響力はさらに小さくなる。そうなると「小さいスマホ」だけでなく、日本に合わせた製品が出づらくなる可能性は高い。そんな状況で「日本向け」を意識しつづけてもらうためには、日本の経済的な優位性がこれ以上揺るがないような政策も必要になってくる。


■なぜスマホのOSは2種類しかないのか


スマートフォン用のOSには「iOS」と「アンドロイド」の2種類がある。


写真=iStock.com/Vadym Plysiuk
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ただ、過去にこの2つ以外のOSを使ったスマホがなかったわけではない。iPhoneとアンドロイドが登場するより前のものは別としても、両者が成功しはじめたのを受け、「第3のOS」を目指した企業は多数ある。サムスンやマイクロソフトなどもそこを狙っていた。


だが、「第3のOS」はうまくいかなかった。OSが2つでなければならない理由はなく、成功の可能性もあったかもしれない。


うまくいかなかった理由はいろいろ考えられるのだが、もっとも大きいのは「アプリ開発者の支持を得られなかった」ことにある。


スマホは単体で売れるものではない。スマホメーカー以外が提供するアプリやサービスがあって、はじめて価値が産まれる。しかし、アプリやサービスを開発する企業の側から見れば、「世の中でまだ普及していないスマホとそのOS」に向けてアプリを作っても、アプリやサービスを使う消費者が少なすぎてビジネスになりづらい。


こうしたことは、あらゆるプラットフォームにつきものの「ニワトリが先かタマゴが先か」という話に過ぎない。家庭用ゲーム機などでは過去から繰り返されてきた課題なのだが、その対策は非常に難しいものだ。


■第3のOSが使われたケース


スマホが普及する前であれば、「第3のOS」が割って入る可能性はあっただろう。だが、第3のOSが注目されたのは2012年頃だった。もうその頃にはスマホの趨勢は決まっており、シェアを拡大するのは難しかった。iPhoneやアンドロイドよりも圧倒的に優れたスマホが作れたのならともかく、そうはいかなかった。


2025年現在、第3のOSを目指す動きはほとんどない。


サムスンが開発した「Tizen」はスマホ向けではなく、スマートウォッチ向けに姿を変えた。2021年、グーグルはサムスンと提携し、スマートウォッチ向けOS「Wear OS」の再構築に利用されている。


それまでWear OSはアンドロイドをベースに作られていたが、消費電力をさらに減らすため、OSの核をTizenに変更したのである。アプリ市場がまだ小さく、良い製品を作るために必要であれば、そこで第3のOSが使われる可能性はある。その場合、対象はスマホとは限らない。


■なぜiPhoneは世界の若者に人気なのか


近年、iPhoneは10代・20代の人気が高い。


日本の調査会社・MMD研究所の調べによれば、10代女性におけるiPhoneのシェアは80.2パーセントと圧倒的だ。同様に20代女性でも80.9パーセントとあまり変化はない。10代男性でも64.8パーセント、20代男性でも69.9パーセントとなっている。全世代の総合だと49.6パーセントなので、その差は歴然としている(すべて2024年9月調査)。


同じことはアメリカでも言える。


調査会社のPiper Sandlerによる、アメリカの10代にフォーカスした調査によれば、2023年の段階で87パーセントがiPhoneを使っている、と答えている。


この原因になっているのが「AirDrop」だ。AirDropはiPhoneをはじめとしたアップル製品同士でファイルを簡単に受け渡すための機能。友人同士で撮影した写真をシェアするためによく使われている。LINEやSMSなどのメッセージサービスを使ってもいいが、それだとネットを経由する必要があって時間も通信費もかかる。その場でWi-Fiを応用した無線通信を使い、即座に渡せるAirDropはとても重要だ。


■AirDropという偉大な発明


AirDropだけがシェアの理由というわけではないが、友人同士で同じ機能が使えることは、製品選択の大きな理由になる。言葉は悪いが、AirDropが使えないことが「仲間はずれ」になる原因になりかねない。



西田宗千佳『スマホはどこへ向かうのか?』(星海社新書)

AirDropは基本的にアップル製品同士でしか使えない。「AirDropをアンドロイドでも使えるようにする」という触れ込みのアプリはあるが、動作が保証されているわけではない。


アンドロイドでは過去色々なファイル転送の仕組みが使われていて、AirDropほど手軽ではなかった。2020年に「ニア・バイ・シェア」という機能をリリースしたが、存在感を見せることはできなかった。


そこでグーグルは、2024年にサムスンと提携、サムスンが同社製スマホ「Galaxy」シリーズで採用している「クイック共有(Quick Share)」をすべてのアンドロイドに搭載することを決めた。またマイクロソフトとも連携、Windowsでのファイル転送にもクイック共有を導入することになった。


しかしそれでも、まだまだAirDropの影響力は圧倒的に高い。


皆が使い慣れてある種の基盤になるということは、消費者の選択に大きな影響を与える「プラットフォーム」の1つである、ということなのだ。


一方、年代が上がるとiPhoneの比率は下がっていく。友人関係での「縛り」の影響にしても通信費上昇を避ける意識も、ある意味で低年齢層への影響が強い。


また、高齢者向けのいわゆる「らくらくスマホ」はアンドロイドをベースに作られている。その影響か、60代以上ではアンドロイドの比率が60パーセント近くまで上昇する(MMD研究所調べ)。


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西田 宗千佳(にしだ・むねちか)
ジャーナリスト
1971年、福井県生まれ。パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」を専門とする。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。
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(ジャーナリスト 西田 宗千佳)

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