「皮で肉汁を閉じ込めた餃子は未熟」テクノロジスト集団チームラボで「私はこうしたい」と言うと無視される訳

2024年5月22日(水)8時15分 プレジデント社

堺 大輔東京大学工学部卒業。最新のテクノロジーを活用したソリューション、大規模なシステム開発や、プロダクト、デジタルコンテンツの制作、都市計画や建築空間設計などを行うチームラボの創業メンバー。現在、「エプソン チームラボボーダレス」や「チームラボプラネッツ」を東京で開催中。

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■「こうしたい」ではなく「こうしたほうがいい」


チームラボは、名称の通り「チームで仕事をする」ことを大切にしています。プロジェクトごとにさまざまな専門性を持った人が集まりアイデアを出し合うことで、初めて新しいものができると考えているからです。テレワークは実施せず、物理的に顔を合わせてコミュニケーションを円滑化させることで最高のパフォーマンスを発揮しています。


堺 大輔
東京大学工学部卒業。最新のテクノロジーを活用したソリューション、大規模なシステム開発や、プロダクト、デジタルコンテンツの制作、都市計画や建築空間設計などを行うチームラボの創業メンバー。現在、「エプソン チームラボボーダレス」や「チームラボプラネッツ」を東京で開催中。

メンバーはみんな黙々と作品づくりに打ち込む芸術家タイプかというと、全然そんなことはない。どちらかというとエンジニア気質ではっきりと自分の主張をするメンバーばかり。空気は読めなくても仕事にプライドを持っている人同士がアイデアを出し合い、パズルのように組み合わせていく。これが、チームラボ流の強いチームのつくり方であり、クオリティの高いモノづくりです。


チームラボは、コミュニケーションが、とてもフラットな組織です。創業メンバーを中心とした役員5人を除いて、課長や部長など中間管理職のポストは存在しません。プロジェクトチームにもリーダーを置かず、年齢や経験一切関係なしに誰でも意見を言える環境です。


自由な発言が許されるがゆえに主張が飛び交い、わがままな意見ばかりになって、収拾がつかなくなるのではないか?


そう思われるかもしれませんが、実際はそんなことはありません。チームラボには、自分にはない得意分野を持った他のメンバーをリスペクトする文化があります。プロジェクトのゴールに対して、「どの発言が一番いいものをつくることに最適か」を判断し採用します。つまり、その場面で一番いいものをつくれる人の“わがまま”が通るということです。


チームラボのプロジェクトにおいては、設定したゴールから工程を一つ一つ因数分解し、各工程のクオリティを最大化できるノウハウやナレッジを持った人のヒエラルキーが高くなり、決定権を持つ仕組みです。たとえば、「空間づくりではAさんが素晴らしい」という場合、Aさんの意見が尊重されるべきは、空間づくりの工程に関してのみで、別の工程ではその工程のクオリティを上げられる人の意見が尊重されます。


もちろん、どんなわがままもアリではないです。ゴールに到達するために役立つわがままであれば尊重されますが、反対に目的と関係のないわがままは意味がありません。チームラボでは「私はこうしたい」と言うと無視されます。わがままは常に、「こうしたほうがいいと思う」「ああしたほうが最終ゴールに近づくはず」という文脈で語られるべきです。


そして、わがままの内容は、具体的なほうがいいです。チームラボでは、プロジェクトチームの中で意見やアイデアを出す場合には、常に具体性が求められます。わかりやすいように、「餃子づくり」を例にお話ししましょう。仮に、「おいしい餃子をつくる」ことをゴールに設定したプロジェクトチームがあったとします。「野菜と肉を混ぜて皮に包んで焼いたら肉汁が閉じ込められておいしそうだからやってみたい」というわがままは、多くの人が思いつくもので抽象性が高く、アイデアとしては未熟です。大事なのはクオリティを高めるための発想で、皮をどうするか、餡をどうするか……細部の追究が重要となります。たとえば、「皮をつくる粉に少しだけもち粉を入れてみたらフワッとした」という発見があれば、「おいしい餃子づくり」への具体的な提案につながります。「もち粉の分量をさらに増やしたら、よりフワフワになって食感が楽しめそうだから採用したほうがいいと思う」という、価値あるわがままが生まれます。こうした具体的なアイデアの積み重ねが、最終的にクオリティの高いアウトプットをつくり出すのです。


■わがままを活かすにはルールは少なく


わがままを言いやすい環境だと、統制を取るためについ制約をつけたくなることもあるでしょう。チームの生産性を上げたいなら、ルールは少ないほうがいいです。ルールを増やすと、ルールを運用するために別のルールが必要になり、ルールを破った人への罰則も決めなければなりません。ルールが目的化してしまい、何のためのルールなのかわからなくなってしまいます。


チームラボには、たったひとつのルールしかありません。それは、「クオリティが高いものをつくることが正義」であること。形がハードであれソフトであれ、モノづくりはアウトプットの善し悪しでしか評価されないからです。ですから、プロジェクトチームの会議で意見を出すと、「それはクオリティを高くできるの?」と問われます。この基準が曖昧だと、会社の方向性とやっていることがズレてしまいますし、目的がブレて結果的にアウトプットのレベルが下がります。


たとえば出社時間も厳密に1分単位で遅刻がどうとか問うつもりはなく、なんとなく10時くらいにみんなが集まっていたらいい、という程度です。


ルールがシンプルであれば、それ以外は自由であることが全員に浸透します。その結果、「クオリティの高いものをつくることが正義」に集中できるのです。


メンバー間で活発にコミュニケーションが取れるよう、天板を分厚いメモ帳にした机がオフィス内に置かれている。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年5月31日号)の一部を再編集したものです。


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堺 大輔(さかい・だいすけ)
チームラボ 取締役
東京大学工学部卒業。最新のテクノロジーを活用したソリューション、大規模なシステム開発や、プロダクト、デジタルコンテンツの制作、都市計画や建築空間設計などを行うチームラボの創業メンバー。現在、「エプソン チームラボボーダレス」や「チームラボプラネッツ」を東京で開催中。
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(チームラボ 取締役 堺 大輔 構成=向山 勇 撮影=関 竜太)

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