生成AIブーム、なぜAppleは参加しないのか?

2023年5月25日(木)16時0分 JBpress

 2023年に入り、突如としてブームを巻き起こした生成人工知能(AI)。テクノロジー大手がこの分野で遅れを取るまいと、開発競争を急いでいる。だがここに1社だけ、参加していない大手がある。米アップルである。


グーグル、MS、アマゾン、メタの動き

 米グーグルは23年5月10日に開いた年次開発者会議「Google I/O」で、生成AI機能を搭載した検索エンジン「Search Generative Experience(SGE)」を披露し、加えて、生成AIサービス「Bard(バード)」を一般公開した。

 米マイクロソフトは出資する米オープンAIが開発した大規模言語モデル(LLM)を検索エンジン「Bing(ビング)」や業務用ソフト群「Microsoft 365」に取り入れた。米アマゾン・ドット・コムは、生成AIシステムの基盤モデルとなる「Amazon Bedrock(ベッドロック)」を発表したほか、AIアシスタント「Alexa(アレクサ)」のLLM「Alexa Teacher Model」を構築したと報じられている。

 米シーネットによれば、米メタは23年2月、オープンAIの「ChatGPT」やグーグルのBardと同様に高度な言語能力を持つLLMをオープンソースソフトウエアとして公開した。


アップルの「様子見アプローチ」

 一方で、アップルは長年、AI研究に力を入れているが、今のところ生成AIについては何も発表していない。それは、同社が新しい技術に対し「様子見アプローチ」を取る企業だからだという。

 例えば同社の「iPad」は史上初のタブレット端末ではなかったが、今では多くの人にとって信頼度の高いタブレット端末として普及している。ハードウエアの例としては、折り畳み式スマートフォンがある。グーグルは前述した開発者会議で同社初の折り畳み式スマホ「Pixel Fold(ピクセルフォールド)」を発表した。アップルについても折り畳み式を開発しているとのうわさがあるものの、まだ製品化は実現していない。ただ、「iPhone Flip」と呼ばれる折り畳みiPhoneが25年にも市場投入されるとの観測は流れている。

 米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、アップルのティム・クックCEOは23年5月4日の決算説明会で、生成AIについて聞かれ、「取り組む際は、慎重かつ思慮深いアプローチを取ることが非常に重要だ」と述べていた。一方で、「さまざまに議論されているように解決すべき問題はいくつかあるが、確かにその可能性は非常に興味深い」とも述べ、製品化の可能性を示唆していた。


アップル、生成AIも様子見か

 こうしたクックCEOの発言に基づくと、アップルは生成AIについても様子見アプローチを取っている可能性があると、シーネットは報じている。

 ただ、生成AIについては、多くのテクノロジーリーダーや研究者が慎重な姿勢を示している。米国では23年3月に「高度なAI基盤には安全上の懸念がある」として開発を一時停止するよう求める署名活動が広がった。これには米起業家のイーロン・マスク氏やアップル共同創業者のスティーブ・ウォズニアック氏などが署名した。

 AI研究の第一人者と呼ばれ、先ごろグーグルを退社したジェフリー・ヒントン氏は、米ニューヨーク・タイムズとのインタビューで、急速に普及するAIとその開発競争に警鐘を鳴らした。

 同氏は「AIはしばしば、膨大なデータの中から予期しない振る舞いを学んでしまう。このことは、人間がコンピューターコードを生成させるだけならば問題ない。しかしそのコードを実際に実行することを許可した場合は問題だ」と指摘。完全自律型兵器(キラーロボット)が現実のものになることに恐怖を感じているという。


アップルにとって生成AIとは

 アップルにはAIアシスタント「Siri(シリ)」があり、生成AIをこの対話サービスに取り入れる可能性もある。しかし、シーネットは、ChatGPTやBardのような対話AIはアップルの計画にはないだろうと報じている。これらのサービスを支えるLLMの開発には、高性能プロセッサーやデータセンターなどのコンピューティング資源や、人的資源、電力資源など大規模の投資が必要になる。アップルのような巨大テック企業にとってそれらへの投資は容易だろうが、それは理にかなった投資でなければならないという。

 専門家によれば、アップルという企業は自社を、テクノロジーと教養の中間点に置くことを好む企業だという。この視点に基づけば、アップルにおける生成AIは、芸術や個人的な表現手段のツールやソフトウエアに適することになる。音楽制作や写真編集、iPhoneやiPad、Macにおける電子メール文章など、さまざまな分野での適用が期待されるという。

 (参考・関連記事)「生成AIに警鐘、AIのゴッドファーザーがGoogle退社」

筆者:小久保 重信

JBpress

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