動物の筋肉からアミノ酸の一種 "D-スレオニン(D-Thr)" を世界で初めて検出

2025年5月28日(水)20時5分 Digital PR Platform




高知大学総合科学系生命環境医学部門の松川和嗣准教授、鹿児島大学、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(HMT)による共同研究チームは、牛肉の品質やおいしさに関わる重要な低分子化合物を発見しました。
アミノ酸にはL体とD体の鏡像異性体があり、通常はL体が生体内で主に使われますが、HMTらが開発したキラル誘導体化LC-TOF/MS法により、D/L-アミノ酸を高感度かつ精確に識別可能となりました。この手法を用いて、牛の筋肉からD-セリン、D-アスパラギン酸、D-スレオニンを検出。特にD-スレオニンは、動物の筋肉組織から世界で初めて検出された例であり、牛肉の熟成や風味に関する新たな知見が期待されます。




【ポイント】 
・アミノ酸には、L体とD体という2種類の鏡像異性体が存在し、地球上の生物のタンパク質は主にL体のアミノ酸で構成されている。
・ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(株)等が開発したキラル誘導体化LC-TOF/MS法は、D/L-アミノ酸を精確に識別し、高感度で検出できる化学分析法である。
・この分析法によって、食肉処理直後と熟成後の牛の筋肉組織からD-セリン、D-アスパラギン酸、D-スレオニンを検出することに成功した。
・特にD-スレオニンは、動物の筋肉組織からは世界で初めて検出された。


【概要】
 高知大学(松川和嗣准教授)、鹿児島大学(室谷進教授)、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社(HMT)で構成する共同研究チームは、牛肉の品質やおいしさの理解を深める可能性のある重要な低分子化合物を検出しました。
 私たちの体を作るタンパク質の多くはL-アミノ酸からできていますが、自然界には鏡像異性体の関係にあるD-アミノ酸*1もごく微量ながら存在し、その多様な働きが注目されています。研究チームは、これまでほとんど知見がなかった牛肉中に含まれるD-アミノ酸について、本格的な調査を行いました。
 近年に開発された高感度な化学分析技術(キラル誘導体化LC-TOF/MS法*2)を用いることで、牛肉の筋肉(生体と同等な食肉処理直後のものと、7日間熟成させたもの)から、D-セリン (D-Ser) 、D-アスパラギン酸 (D-Asp)、そしてD-スレオニン (D-Thr) という3つの主要なD-アミノ酸を精確に識別して検出することに成功しました。特に、D-Thrが動物の筋肉組織で確認されたのは世界で初めてです。この発見は、牛の体の仕組みや牛肉の品質について、より深く理解するための重要な手がかりとなります。
 今後、これらのD-アミノ酸が牛の体内でどのように蓄積され、具体的にどのような働きをしているのか、さらなる研究が進められることで、将来的にはより高品質でおいしい牛肉の開発などへの貢献が期待されます。
 この研究成果は、令和7年5月10日付(日本時間22時35分)国際的な学術雑誌「Journal of Food Composition and Analysis」に掲載されました。
 
【研究の背景】
 私たちの体や他の哺乳動物の組織では、アミノ酸の一種であるD-アミノ酸が、免疫機能や脳の神経伝達といった重要な生理機能に関わっていることが知られています。しかし、私たちが日常的に食べる牛肉などの家畜の筋肉(骨格筋)に、D-アミノ酸がどの程度含まれ、どのような役割を果たしているのかについては、まだ多くが謎に包まれていました。過去の研究では、加熱処理されたハム(豚肉)からD-アミノ酸が検出された例があり、牛肉にもD-アミノ酸が存在し、その品質や風味に影響を与えている可能性が考えられていました。
 そこで本研究では、この未解明な点を明らかにするため、高感度な分析技術であるキラル誘導体化LC-TOF/MS法を用いました。そして、和牛の2品種(黒毛和種および褐毛和種高知系、図1)から得た僧帽筋(体内の筋肉の一部)と、そこから培養した細胞を試料としました。これらの試料について、食肉処理直後(新鮮で生体と同等な状態)と、食肉処理後7日間熟成させた時点での、D-アミノ酸およびL-アミノ酸の種類と量を詳しく比較調査しました。


【研究の目的・内容・成果】
 本研究では、新たに開発した高精度にD/Lアミノ酸を識別するキラル誘導体化法により、牛の筋肉(僧帽筋)を処理し、高感度なLC-TOF/MS法でD-アミノ酸を網羅的に検出しました (図2)。その結果、牛の筋肉中で少なくともD-Ser、D-Asp、D-Thrを検出することに成功しました (図3)。このうちD-Thrが動物の筋肉組織に存在することを、世界で初めて明らかにしました。


【成果の意義/今後の展望】
 本研究は、牛肉中のD-Thrの存在を明らかにした最初の研究です。
 D-SerおよびD-Aspは、熟成前後の牛肉および同じ部位から培養した細胞から検出されました。一方、D-Thrは牛肉からは検出されたにもかかわらず、培養細胞からは検出されていません。このことは、筋肉組織で検出されたD-Thrが、牛体の筋肉組織外または牛自身ではないルーメン細菌に由来する可能性を示唆しています。
 また、牛肉の美味しさに関与するアミノ酸の中には、L体とD体で味覚が異なることが知られており (例えば、L−グルタミン酸は旨味ですが、D−グルタミン酸は酸味)、高感度な化学分析によって食品の美味しさをより詳細に解析することができます。
 今後、本研究をさらに発展させることで、D/Lアミノ酸の生理学的特性と牛肉の品質の理解が深まることが期待されます。

【論文情報】
掲載雑誌:Journal of Food Composition and Analysis
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S088915752500537X?via%3Dihub
 (5月10日午後22時以降公開)
論文名:Chiral derivatization LC-TOF/MS analysis reveals presence of D-amino acids in bovine
skeletal muscle tissue and the cultured cells
DOI: https://doi.org/10.1016/j.jfca.2025.107722

著者:吉國美咲妃(高知大学)、井口和樹(HMT)、乙黒靖裕(HMT)、佐藤俊(HMT)、長井宏賢(高知大学)、竹村泰雄(高知大学)、坂野新太(高知大学)、樋口琢磨(高知大学)、坂本修士(高知大学)、室谷進(鹿児島大学)、松川和嗣(高知大学)

【用語解説】
注1)D-アミノ酸:アミノ酸にはL型とD型という鏡像関係にある立体異性体が存在し、自然界のタンパク質を構成するのは主にL-アミノ酸です。D-アミノ酸は微生物や一部の動物の体内に微量に存在し、特有の生理機能を持つことが近年明らかになってきています。
注2)キラル誘導体化LC-TOF/MS法:アミノ酸のL型とD型を区別するために特殊な試薬で処理(誘導体化)し、液体クロマトグラフィー飛行時間型質量分析計(LC-TOF/MS)で分離・検 出する分析手法です。

【問い合わせ先】
<研究に関すること>                
高知大学教育研究部総合科学系生命環境医学部門 准教授
松川 和嗣
TEL:088-864-5207 FAX:088-864-5210
E-mail:matukawa@kochi-u.ac.jp


▼本件に関する問い合わせ先
高知大学広報・校友課
TEL:088-844-8643
FAX:088-844-8033
メール:kh13@kochi-u.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

Digital PR Platform

「アミノ酸」をもっと詳しく

「アミノ酸」のニュース

「アミノ酸」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ