「コメ5kg4200円」の時代になんて太っ腹…びっくりドンキー系列店が「ライス大盛無料」を続けられる理由

2025年5月30日(金)9時15分 プレジデント社

「ディッシャーズ」で取材関係者が頼んだオリジナルバーグ - 撮影=プレジデントオンライン編集部

ハンバーグレストラン「びっくりドンキー」を運営するアレフの業績が好調だ。2024年3月期は過去最高となる売上高489億円を記録した。2020年には系列店「ディッシャーズ」をオープン、まだ首都圏で3店舗ながら順調に客足を伸ばしている。人気の秘密を経済ジャーナリストの高井尚之さんがリポートする——。
撮影=プレジデントオンライン編集部
「ディッシャーズ」で取材関係者が頼んだオリジナルバーグ - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■“びくドン”ではできないことをやる


ハンバーグレストラン「びっくりドンキー」(国内店舗数346店=2025年5月15日現在)を展開する株式会社アレフ(本社:北海道札幌市)の業績が好調だ。2024年3月期は「売上高489億円」で過去最高を記録。2025年3月期も最高値を更新する見通しとなった。


その会社の別業態に「ディッシャーズ」というブランドがある。コロナ初年の2020年にオープンし、店舗数は首都圏の3店にすぎないが地道に支持を広げてきた。


「2020年に比べて、『江ノ島店』(神奈川県藤沢市)は売上高134%・客数139%、『新宿住友ビル店』(東京都新宿区)は売上高217%・客数194%です。2023年12月にオープンした『錦糸町楽天地ビル店』(同墨田区)の2025年4月は前年4月と比べて売上高113%・客数115%と好調に推移しています」(広報担当・渡邊大介さん)


実はこの店、「びっくりドンキーではできないこと」をさまざまな視点で取り組んでいる。びくドンとは何が違うのか。運営の責任者に聞いた。


■1人客が大半で6〜7割が女性


「ディッシャーズは女性1人でも入りやすい店です。明るい店内で外から見渡せますし、カウンター席が多く、ちょっとカフェのような雰囲気もあります」


同社のDishersチーム チームリーダー・辻道拓央さんはこう話す(以下発言は記述ない限り同氏)。


撮影=プレジデントオンライン編集部
Dishersチーム チームリーダー・辻道拓央さん - 撮影=プレジデントオンライン編集部

今回取材したのは錦糸町店で、東京下町のターミナル・錦糸町駅からほど近い。土地勘がある人には映画館が多いビル「楽天地」としておなじみだ。


「『びっくりドンキー』はグループ客に人気ですが、1人で入るには少し勇気がいると思います。『ディッシャーズ』はそうした心理的ハードルを下げた結果、1人客が多く、肌感覚では6〜7割が女性です。タブレットオーダーや自動精算機も導入しました」


消費者の抵抗感にも配慮したようだ。以前の取材で「1人利用の時、大声で店員さんを呼ぶのはちょっと恥ずかしい」(20代の女性)、「がっつり食べたい時、タブレット操作は気兼ねなく注文できてうれしい」(別の20代女性)という話を聞いたことがある。


「どの時間帯でも楽しめるメニューも揃え、錦糸町店では朝7時から自社焙煎のこだわりコーヒーがあります。アルコールはオリジナル自社製ビール『北の星流』もご用意しています」


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カウンター席が多く、カフェのような雰囲気もある店内 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■基本は「1000円」で手頃さを維持


あえて、「ディッシャーズ」と「びっくりドンキー」をつなげることはしない。


「来店前に先入観を持ってほしくないためですが、一方で看板商品であるハンバーグの形や木の皿でのワンプレート提供は共通です。こうしたビジュアルで気づく方はいます。若い女性客の中には“いちごミルク”で気づいた方もおられました」


主力商品のハンバーグは、自分の好みにカスタマイズできて価格も手頃だ。


「ディッシュ、ライス、サラダを盛りつけた『レギュラー』が920円、目玉焼きを乗せた『エッグ』やチーズを乗せた『チーズ』は1050円で提供しています。お好みで厚切りベーコンやカレーをカスタマイズするなど、さまざまな味が楽しめます」


数品を追加する人も多く、平均客単価は約1300円だという。原材料費や諸経費高騰で競合店が値上がりし、ハンバーグ2000円超もある中、リーズナブルに設定している。


「特にランチで食べるハンバーグにはラーメンのように『1000円の壁』があると感じます。諸経費高騰で厳しいですが、手頃な価格は維持していきたいです」


■少人数のスタッフでも回せる工夫


低価格を維持するために、省人化などさまざまな工夫を行う。


「錦糸町店の座席数は63席ありますが、ピーク時でもスタッフは5人以内です。少人数で回せる工夫もしており、たとえば注文内容は紙の伝票ではなくデジタルサイネージで可視化。厨房担当はその画像を見て盛り付けを行います。また作業手順を工夫して、複数メニューのご注文もほぼ同じタイミングで、注文から10分以内に提供できるようにしています」


撮影=プレジデントオンライン編集部
スタッフは「注文」を画像で見ながら盛り付けを行う - 撮影=プレジデントオンライン編集部

メインメニューのハンバーグに比べて、サイドメニューの焼きポテトやディッシャーズチキンといった品は少し手間がかかる。でもお客は一緒に食べたいだろうし、注文が揃った画像をスマホで撮影したい人もいるだろう。


またタブレット注文は便利だが、カスタマイズが多いと盛り付けミスにつながりがちだ。画像可視化はそれを防ぐ手法で、多国籍のスタッフが働く米国の外食店では多いと聞く。


こうした効率化での成果は時にサービス内容にも反映する。錦糸町店ではランチタイムに「ハンバーグディッシュ みそ汁付き! ライス大盛り無料‼ 920円(レギュラー)」を掲げていた。


筆者撮影
「レギュラー」は920円 ランチタイムはライス大盛りが無料 - 筆者撮影

■コメ価格が5割増も「ランチ大盛り無料」を継続


高止まりしたコメ価格に悩む消費者は多い。家庭用の場合「5kg4000円台」のままで「全国のスーパーで1週間に販売されたコメの平均価格は5kg当たり消費税込みで4268円(前の週から54円値上がり)」(※)と報道された。


(※)2025年5月11日までの1週間。農林水産省調べ


人気ブランドは5000円超で、筆者が週末に調査した都内のスーパーでは「ご奉仕品 秋田県産あきたこまち(5kg)本体価格4980円(税込5378.40円)」となっていた。


筆者撮影
都内のスーパーで売られていた米 - 筆者撮影

業務用の場合はケタが違うが、アレフではどんな状況なのか。


「当社では年間5000トン以上のお米を使用しており、契約栽培面積は1000ヘクタールを超えています。東北地方を中心に全国400軒を超える契約生産者の皆さんが美味しさと安全・安心にこだわったオリジナル米を生産されています」(広報・渡邊さん)


同社は長年、農薬や化学肥料を厳しい使用基準で制限し栽培してもらう「お米」にこだわることで業界では知られている。コメ高騰で購入価格はどう変わったか。


「仕入れ価格は50%以上も上がりました。長年にわたる取引実績で市場価格の上昇よりは抑えられていますが、それでも高騰しています。価格決定では契約生産者の皆さんが将来にわたり安定した農業を続けられるよう、再生産可能な価格で持続性のある取引を重視してきました」(同)


価格5割増に直面しても、今のところ「ランチのライス大盛り無料」は続ける。炊き上がりから90分以内のライスの提供は同社の売りだ。次回のコメ価格交渉は新米シーズンである今年の秋。店のサービス内容がどうなるか。


撮影=プレジデントオンライン編集部
ハンバーグの肉、コメ、野菜、コーヒーに至るまで自社で調達や製造を行う。ライスは炊飯器4台を使って「炊きあがり90分以内のライス」を徹底。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■“知名度の低さ”が悩みだが反転の兆しも…


業績堅調な「ディッシャーズ」だが課題も多い。


「知名度が低いのが悩みです。また、ハンバーグという欧米でもなじみがあるメニューですがインバウンドにも訴求できていません。今後は外国人向けのサイトに登録するなど、店の存在に気づいてもらう工夫をしていきます」


2020年のオープン時に「将来的に15〜20店を展開したい」という目標を掲げたが店舗数は大幅な未達成だ。


「言い訳になりますがコロナ前に想定した前提条件が大きく狂ったのは事実です。特に西新宿の高層ビル群にある新宿住友ビル店は、コロナ禍のリモートワークで周辺の就業人口が大幅減という時期がしばらく続きました」


ターミナル駅前の繁華街にある錦糸町店で、成功のヒントも見えてきたという。


「錦糸町の店は営業時間が7時から23時までと長く、朝から深夜までさまざまな客層が来られ、多様なメニューをご注文されています。また、売り上げに対してテイクアウト・宅配比率が約30%を占めるのは、びっくりドンキーに比べても非常に大きい数字です」


撮影=プレジデントオンライン編集部
豊富なカスタマイズが売りである一方、“タブレット操作が複雑だ”という声も寄せられている。今後も改良を続けていくという。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

目立たない存在だった「ディッシャーズ」は、“びくドンの弟”として認知されていくか。弟の成長が同社の事業拡大のカギになるだろう。


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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「人気ブランド」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『なぜ、人はスガキヤに行くとホッとするのか?』(プレジデント社)がある。
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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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