実は英語学習の「丸暗記」には効果があった…資格受験の塾長が考える「勉強した内容が脳に定着する」正しい方法
2025年5月30日(金)8時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu
※本稿は、伊藤真『大事なことだけ覚える技術』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
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■「丸暗記」は、じつは役に立つ
「丸暗記はよくない」といわれます。
でも、その場合の「丸暗記」とは何でしょう?
私が思う丸暗記の定義は、「理解をせずにただ覚えること」。
内容を理解していないにもかかわらず、やみくもに覚えてしまうことです。
なぜそれがいけないのかというと、中身を理解していないので、結局それをどこで使っていいかわからない。覚えても使えない情報だからです。
しかもどこで使うかわからない情報は、間違った使い方をして、試験や仕事で大きなダメージを招くおそれがあります。
では丸暗記がまったく役に立たないのかというと、そうではありません。
理解がきわめて難しい部分については丸暗記をしてしまったほうが、あとから理解がついてくるということもあります。
■暗記は「考える土台」
たとえば英語を学ぶとき。
まずは「基本」となる英単語を暗記したり、英文法の基礎や重要構文を覚えたりしなければ始まりませんよね。
そして、シャドーイング(音声を聞いた後、復唱する)したり、多読をしたり、英会話を重ねたりして、習得していきます。
丸暗記に頼るのはよくないのですが、それは理解せずに鵜呑みにしても、司法試験はもちろん、さまざまな試験は突破できないからです。
実生活で、役に立たないのです。
しかし、だからといって暗記そのものを否定してはいけません。
考える基礎となるのは、あくまで覚えたものです。
理解して、覚える。その作業を暗記というなら、暗記は考えるために必要な基礎、つまり「考える土台」です。
目指すべきは、やみくもに丸暗記することではなく、いかに効率よく記憶し、それを使いこなすかという記憶術の習得なのです。
昔、日本の寺子屋では小さい子どもに、『論語』や漢詩を暗記させました。
子どもたちは意味もわからず、丸暗記しましたが、大きくなるにつれてその意味を理解し、立派な人間に成長していきました。
■暗記が先、理解はあと
最初は難しくて理解ができなくても、その部分については丸暗記をしてしまって、記憶に留めておく。すると勉強が進んだあとに、暗記した中身の意味がわかるようになることがあります。
あるいは暗記した情報の使い方を覚えておけば、内容を理解していなくても、うまく使ってアピールできることもあります。
すべて完璧に理解してからでないといけないと堅苦しく考えると、先に進みません。
どうしても理解できない難しい事柄は、無理に理解しなくても、いいのではないでしょうか。
どういうときに使う内容なのかさえ意識しておけば、あとから理解がついてくることも充分あり得ます。
なぜなら、使い方がわかるというのは、関連性を理解していることになるので、内容の理解にすぐそこまで迫っているからです。
理解が難しいときは、「ここが出たらとりあえず丸暗記したものを書き出しておこう」と割り切ってしまうことも、ときには必要でしょう。
丸暗記したからこそ、開ける世界があるのです。
■ひらめきは記憶がつくる
塾生には、何度もくり返し復習して、記憶を定着させるということを指導しています。
何度も、何度も、くり返す。
やはりこれは、記憶力アップの一番のコツだと思います。
そのときの「脳のしくみ」というのはどういうことなのかと考えていたところ、『記憶力を強くする』という本に言及がありました。
脳の中のひとつの神経細胞は、他の神経細胞ともつながっています。
その数、なんと、一万個。
神経細胞一つが、ほかの一万個の神経細胞とつながって、電気的な信号のやりとりをしているのです。
そして何か刺激が与えられて、神経細胞に信号があったとき、それを次の神経細胞に伝えるかどうかは、伝えられたその神経細胞が判断します。
たとえば一万個の神経細胞とつながっていて、二つや三つから同じ信号が送られても、受け取った神経細胞は反応しません。
■「神経回路の組み合わせ」こそが、記憶
けれど一万個のうち一〇〇個くらいから同じ信号が送られてくると、「これは重要な信号だ」と認識して、次の神経細胞に信号を送るのだそうです。つまり受けた刺激の強さによって、信号が送られるかどうかが決められているということです。
印象に深く刻みつけたり、何度もくり返したりして、刺激を強くすると覚えやすいのは、こんな科学的根拠があるのです。
写真=iStock.com/deliormanli
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そして、いままで信号が送られなかった神経細胞に信号が送られることによって、その部分に新しい回路が生まれます。
池谷裕二先生によると、その「神経回路の組み合わせ」こそが、記憶だといいます。
記憶を定着させるには、何度もくり返し、刺激を与えることが大事です。
すると新しく生まれた回路は強く、太いものになります。
「こうするとうまくいった」
「こうやると失敗する」
その刺激がくり返されて、記憶になり、「こうすればうまくいく」という成功の記憶を蓄積していきます。
それが「正解」を導く力になります。
だから、努力と根気は必要です。
あまりに当たり前の結論ですが、それを科学的に証明してもらうと、やる気がわいてきます。
■ひらめきは「記憶の混線」から生まれる
さらに興味深いのは、一個の神経細胞は一万の神経細胞とつながり、さまざまな記憶の回路をつくっています。
するとときどき回路が混線したり、間違ったりすることもあるそうです。
人間の記憶があいまいだったり、勘違いをしたりするのはそのせいだといいます。
伊藤真『大事なことだけ覚える技術』(サンマーク出版)
「この情報が来たときは、この回路に伝えなければいけない」というときに、別の回路に流してしまう。コンピュータではあり得ないことです。
しかし人間の脳は、そのあいまいさゆえに、思いがけない回路とつながって、新しいアイデアやひらめき、連想が生まれます。
コンピュータには絶対真似できない人間の創造力は、記憶の混線から生まれるという指摘はおもしろいですね。
そのひらめきをつくるのも、実は記憶の混線なのだから、何事も記憶がなければ始まらないのは、たしかなのです。
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伊藤 真(いとう・まこと)
弁護士、伊藤塾塾長
1958年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業。81年司法試験に合格。95年「伊藤真の司法試験塾(現・伊藤塾)」を開設。日弁連憲法問題対策本部副本部長。「一人一票実現国民会議」発起人。著書に『10代の憲法な毎日』『考え抜く力』『本質をつかむ思考法』『憲法の力』など多数。
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(弁護士、伊藤塾塾長 伊藤 真)