【東京農業大学】北海道オホーツクの海跡湖における“海洋熱波” ~局地スケールでの熱波発生状況と水産有用種への影響を報告~

2023年10月23日(月)14時0分 Digital PR Platform


東京農業大学 生物産業学部
海洋水産学科水産増殖学研究室

北海道オホーツクの海跡湖における「海洋熱波」
−局地スケールでの熱波の発生状況と水産有用種への影響を報告−


■本研究のポイント

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■研究の概要
 海洋熱波とは、異常な高水温が一定時間継続する現象です。東京農業大学の研究グループは、亜寒帯の海跡湖(発達した砂州によって海と隔てられた湖)において海洋熱波の発生状況を調べました。また、熱波によって沿岸動物が死亡するプロセスの一端を明らかにしました。

 近年、海洋熱波が沿岸生態系に深刻な影響を与え、大きな社会経済的損失を引き起こすことが問題となっています。これまでの海洋熱波研究の多くは熱帯や温帯域でかつ広範囲を対象に行われてきましたが、熱波の影響は地域や空間スケールに関わらず及んでいるはずです。また、熱波によって生物が死亡する場合、高温による生理異常が原因だと推測されますが、具体的なプロセスについても情報が不足しています。
 この研究は、亜寒帯に属する北海道オホーツク海沿岸の海跡湖のひとつ、能取湖(のとろこ)で行われました。まず1985年から湖中央部の表層(水深1.0m一定)で35年間記録されてきた水温のデータから、水温の変化を解析し、過去の熱波の発生状況を調べました(図1)。その結果、異常高温といえる閾値温度は22.4 ℃と推定することができ、それが5日以上連続する熱波現象は2010年以降毎年起きて、頻度も増加していることが分かりました(図2)。さらに、熱波1回あたりの継続日数と強度も年々増加していました。

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 次に、能取湖沿岸に広がる海草藻場の水温動態を詳細に調べたところ、夏季の藻場水温は水深の浅さに加えて潮汐の影響で気温や日射の効果が複雑に反映されて、湖中央部の表層以上よりも大きく、かつ複雑に変動することが分かりました(図3)。干潮時には表層水温記録から推定された高温閾値の22.4 ℃を超えることが頻繁にありました。


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 藻場の水温動態観察から25 ℃以上を異常高温として仮定し、藻場が25.0 ℃になったときの動物への影響を実験的に調べました。この実験には、北海道東部の藻場の代表的な甲殻類でかつ水産的に重要種でもあるホッカイエビ(商品名:ホッカイシマエビ、シマエビ)を選定しました。実験の結果、水温25.0 ℃の状態が約3日(60.5時間)継続するとエビの大量死が起こると推定されました。また、この実験で重要な発見は、通常水温といえる18.0 ℃ まで水温が下がった後でも高温に曝露されたエビが死亡しつづけたことです。これは、エビが熱ストレスからすぐには回復しないことを意味しています。加えて、25.0 ℃に12時間以上曝露されるとホッカイエビの腸細胞が損傷を受けることも分かりました(図4)。つまり、たとえ高温の影響で即座に死亡しなかったとしても、損傷した腸が正常に機能しなくなることで、栄養が吸収されにくくなり、エネルギーや免疫力の低下等を介して、時間遅れで死に至るというプロセスが示唆されます。
 本研究の結果は、亜寒帯の海跡湖という局所海域における近年の熱波の発生状況を初めて報告し、熱波が水生動物の死亡を引き起こすプロセスについて新たな洞察を提供するものです。


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 この成果は、Marine Environmental Research (192巻・106226)で2023年10月21日(日本時間)に公表されました。

■論文情報
Matsumoto, H., Azuma, N., Chiba, S. (2023)
Effects of heatwave events on the seagrass-dwelling crustacean Pandalus latirostris in a subarctic lagoon.
Marine Environmental Research 192: 106226
DOI: https://doi.org/10.1016/j.marenvres.2023.106226

(日本語訳:亜寒帯の海跡湖の海草藻場に生息する甲殻類 Pandalus latirostris における熱波現象の影響)

■研究体制
松本裕幸¹、東典子²、千葉晋¹,²
1.東京農業大学大学院生物産業学研究科
2.東京農業大学生物産業学部海洋水産学科

■研究助成
令和5年度東京農業大学大学院博士後期課程研究支援制度


本件に関するお問合わせ先
東京農業大学 企画広報室
TEL: 03-5477-2650 / Email: info@nodai.ac.jp

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