海外で”国内のプチプラコスメ”は通用するのか? 韓国コスメが抱えてきたハードルを越える、メイドインジャパンの強み

2025年2月5日(水)9時10分 オリコン

スタイリングライフ・ホールディングス BCLカンパニー 海外事業本部 海外営業部部長 足立恵理さん 

 百貨店、スーパー、バラエティショップ…国内の小売店では、どの店でも韓国コスメや中華コスメが並び、入れ替わりの激しさがうかがえる。その勢いは、欧米や北米をはじめとした海外にも広がり、“アジアンコスメ”として加速度を増して伸長する現状がある。こうした中で、日本のコスメブランドにはどのような戦略が求められるのか? 『サボリーノ』や『乾燥さん』など中価格帯のプチプラコスメを展開するBCLカンパニーは「韓国コスメが受け入れられたからこそ、海外でも日本のコスメを広げられる可能性を感じる」と積極的に海外事業を展開。海外営業を担当する足立恵理さんに、日本の中価格帯コスメの価値を海外でどのように見出していったのか話を聞いた。

■”韓国パック”がけん引した海外コスメ市場、質の高い日本製シートマスクも立ち位置を確立

 同社では、インバウンドと越境ECのブームがあった2018年に、海外事業のピークを迎えている。来日した中国人観光客が大量に商品を購入する“爆買い”で知られるように、当初インバウンドの影響は凄まじいものがあり、それに呼応するかたちでシートマスクなど輸出向けの商品もヒット。対中国大陸向けのECの売り上げは、サービス開始当初と比較して8倍にもなっていたという。

「とにかくチャンスがあるかもしれないところには出てみようという空気感があり、2010年代から積極的に海外事業を展開してきました。メインの市場は、韓国や中国などのアジア地域。もっとも売れているのは、『サボリーノ』をはじめとしたシートマスクの商品群です」(足立さん、以下同)

 当時、1枚ずつの個包装された韓国製パックが商品のトレンドだったのに対し、日本のシートマスクは大容量もあれば、5〜10枚が一袋に入ったものもあり、“特徴的な包装”をしていた。

「もちろん、日本製品の信頼感、成分や品質に対する信頼からヒットにつながった側面もあったかもしれないですが、『サボリーノ』は“シートマスクを朝の新習慣にする”と打ち出した当社ならではの提案でした。そこがまず日本のお客さまに受け入れられて、日本で流行っている商品=いいものに違いないと、インバウンドのお客様やインバウンドで買って帰った方が継続して使いたいので越境ECで買うという循環が『サボリーノ』を起点に作られていきました」

 その後、2020年以降はコロナで輸出が難しくなり、海外での取り扱い店舗も閉鎖することに。「コロナ期間の3年間くらいは新規国に出ていくのも困難な状況でした。ようやくコロナが明けて各国のバイヤーさんもそろそろ新しいブランドを迎え入れたいと、回復傾向を感じているのがここ1〜2年ぐらいの出来事です。コロナ前はヨーロッパに関しては、ほぼ売上がなかったのですが、コロナ明けの回復期に伸ばすことができて、北米に関しても、ここ2年ほどで売り上げがとても好調に推移している状況です」。

■パックが占めていた海外売上のラインアップが一変「欧州ではアジアのトレンドは通用しない」

 海外との取引の際、同社は『サボリーノ』のメーカーとして認知されている前提があって商談を進めるのが常だったというが、欧州ではその比率が一変。シートマスクの売上をジェルクリームが上回っているという。『ももぷり』という乳酸菌と桃セラミドが含まれたスキンケアブランドのジェルクリームで、当初はその売れ行きに社内でも驚きの声があがった。

「ヨーロッパでは、日本やアジアのトレンドは影響されないため、アジアンコスメの情報自体がまだ入ってきていないのが現状です。日本で流行っているというよりも、商品自体の評価で伸びていると分析しています」

 足立さんいわく、ジャパニーズコスメが海外市場に参入する“壁”となるのが、情報量の多いパッケージにあるという。「様々な有効成分や機能性を表示し、シートマスクの香りをイメージしたイラストで構成されている『サボリーノ』のパッケージも、海外の人から見ると情報過多で“言語の壁”がどうしても出てきてしまいます。実際にアメリカの消費者が『サボリーノ』を店頭で見た時、食べ物だと勘違いする人もいれば、赤ちゃんのお尻拭きやウェットティッシュだと思われてしまう事例もありました。リニューアル時に『オールインワンマスク』という英字やマスクのイラストを入れてもらいって改善したという経緯もあるほどです。

 それに比べると『ももぷり』は、シンプルなデザインでスキンケア商品に見えるし、英字で『ローション』とも書いてあります。パッケージも日本っぽい可愛いさがあり、何に使うかもよくわかるので、パッケージのコミュニケーションでも優れていたのかもしれません」。

 また、アジア圏では化粧水の使用率や購買率が高い傾向であるのに対し、ヨーロッパやアメリカでは保湿用の化粧水が使われないというデータも。「ミセラーウォーターなどのふき取り用化粧水は使われるのですが、保湿ローション自体が欧米では存在しない。化粧水を見て、『これはどのタイミングで、何に使うの?』という感じです。ジェルクリームであることが、欧米の文化や習慣にもフィットし、受け入れられたのだと思います」。

■韓国や中国コスメの市場席巻を”好機”ととらえる「プチプラの価格帯でこそチャレンジする価値はある」

 コロナ前後で比較すると、欧米での売上は3倍に伸びている。欧州での海外事業にチャレンジしようとした時は、「プチプラ」というジャンル自体が通用するのか未知数でのスタートだった。社内的にも本当にいけるのかという空気感がありました」と足立さん。

「私が視察に行ったタイミングでは、ヨーロッパの店頭で日系の商品を扱っているのはほぼ0に等しく、ハイエンドのものしか見かけない。ただ私が見ていて感じたのが、日系は並んでいないけれど、韓国系の近しい商品はすごく入り始めていました。ということは、“アジアンコスメ”は大丈夫なのだと。ユーザーに抵抗感がないということが見て取れたので、プチプラの価格帯でこそチャレンジする価値はあると思いましたし、タイミングとしてもいいのではないかと感じました」

 ジャパニーズコスメの価値をアップデートし、『ももぷり』をはじめとしたスキンケアラインで市場を大きく開拓したことは同社の功績となったが、「この先のポテンシャルがどこまであるのか、韓国や中国コスメが引き続き席巻しているなかで、どこまで伸ばしていけるのかという部分は、今まさに取り組んでいるところ」だという。

 韓国コスメや中華コスメと日本のコスメを比較して、圧倒的に足りないのは「投資力」。対して、日本ブランドらしさを打ち出していける部分は、「自分たちの実力とは言い切れず、文化的背景として日本文化にリスペクトを持っている方が世界中にすごくたくさんいらっしゃること」と足立さんは冷静に分析する。

「韓国ブランドはマーケティング投資のスケールも違いますし、政府のバックアップもあって、構造が日本とはまったく異なる。同じ手法を日本のブランドが個々にやれますかと言ったら、かなり難しいです。我々ならではの“日本コスメらしさ”はどこなのだというところを、今まさに各社さんが探っている状況です」

 日本の文化が好きで、日本の製品も好き。日本のものならトライするのに抵抗感がない。そう思ってくれているユーザーも多い一方で、「韓国ブランドは製品力が上がる前段階で最初にそのハードルがあったはず」と足立さん。今、中国ブランドが直面している課題もその部分だと言えるのではないか。

「日本の優位性として、モノへの信頼感がある。だからこそ、商品に何を付加価値としてつけられるのか。今の状況に甘んじることなく、ユニークな商品やブランドストーリーを打ち出していく必要があります。当社はすでに40もの国や地域と取引があるので、ここは市場性が高いはずなのにまだ出ていないというエリアも少なくなってきています。今後は新規エリアを開拓するのはもちろんなのですが、既存の中でもここはしっかり伸ばしていくというところを明確に定めて、そこに対する投資をどう行っていくのかという動き方もしていこうと考えています」

PROFILE/足立恵理
スタイリングライフ・ホールディングス BCLカンパニー 海外事業本部 海外営業部部長 2005年に同社の前身であるソニーシーピーラボラトリーズに入社。海外事業に携わり、40の国と地域に輸出先を拡大。

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