コシノヒロコ「ファッションの道を歩んで64年、困難にもぶつかったけれど、諦めようと思ったことはない」

2025年2月23日(日)12時30分 婦人公論.jp


「私はいつも、〈誰もやったことのないことをやりたい〉という信念をもって突き進んできました」(撮影:鍋島徳恭)

〈発売中の『婦人公論』3月号から記事を先出し!〉
再放送中の朝ドラ『カーネーション』が話題です。ヒロインのモデル・小篠綾子さんの長女・コシノヒロコさんは、88歳になる今も現役のデザイナー。そのパワーの源は?(構成:篠藤ゆり 撮影:鍋島徳恭)

* * * * * * *

<前編よりつづく>

誰もやったことのない
ことをやりたい


私が初めて海外でショーを行ったのは、78年のこと。ローマの「アルタ・モーダ」に日本人として初めて参加し、大きな反響を得ることができたうえ、ファッション雑誌『ハーパーズ バザー』のイタリア版で特集まで組まれました。

それを機にパリコレにも参加するようになりましたが、いわゆるファッション先進国以外でもショーをやりたいと思うようになっていったのです。私はいつも、「誰もやったことのないことをやりたい」という信念をもって突き進んできましたから。

それに、これまでおしゃれに興味がなかった女性たちに、ファッションの力でさらに人生を楽しんでほしいと願っていたからです。

そうして84年に中国の上海、87年に韓国のソウル、94年にはチェコ共和国のプラハでショーを行いました。

チェコ共和国は、チェコスロバキアが解体されて、93年に生まれた国です。初代大統領は、劇作家であり、チェコスロバキア時代に反体制運動の代表者でもあったヴァーツラフ・ハヴェルさん。

そのハヴェルさんとご縁があり、「ファッションショーをしませんか?」とご提案したところ、船出したばかりのチェコでショーを行うことになったのです。

ショーを開催した場所は、プラハにあるお城の遺構。建築家ボレック・シペックさんと、演出家バンビ・ウデンさんというチェコが誇る巨匠たちとのコラボレーションということで、特別にそこでショーを行えることになりました。

お城の地下に残っていた7つの部屋を使ってショーを行い、お客様が部屋を巡りながら観るスタイルに。最後の部屋では、浄瑠璃の一派である新内節(しんないぶし)のお師匠さんが三味線を弾く演出をすることにしました。

けれど、古い建物というのは不思議なことが起きるようで、会場の準備中にゾッとするできごとがあって……。スタッフが会場に設置したスピーカーやアンプ、舞台装置などが、翌朝になると全部違う場所に移動しているのです。

当然、帰宅する際には鍵をかけていますし、ましてや人が一人で動かせるような重さではありません。いわゆるポルターガイスト現象が起きていたのですね。それが1週間も続き、スタッフたちが「怖いから、もうやめたい」と言い出す騒ぎになりました。

みんなで話し合った結果、「牧師さんにご祈禱をしてもらうしかない」ということになり、パリから招くことにしたのです。そうして各部屋をまわってもらい、7つ目の部屋でお祈りを終えた途端、ドッカーン! とものすごい雷鳴が響き渡って……。もう、驚きと恐怖でみんなで震えあがってしまったの。(笑)

でも牧師さんは「建物から霊が抜けたようだ」とおっしゃり、その後、不思議な現象はやみました。無事にショーを終えることができたのだから、お祈りの効果はあったはず。そんな不思議な体験もしているんですよ。


『コシノ三姉妹 向こう岸、見ているだけでは渡れない』(著:コシノヒロコ・コシノジュンコ・コシノミチコ/中央公論新社)

90歳からは
新しい人生をスタート


そういったアクシデントも乗り越えながら、ファッションの道を長きにわたって歩んできました。私が最初にショーを行ったときはなにもなかった場所が、数年後に訪れたらものすごい勢いで発展を遂げていたり——。世の中が変わっていく様子を間近で見てこられたのは、本当にエキサイティングな経験だったと思います。

この64年間、本当にいろいろなことがありました。ときには困難にもぶつかったけれど、ファッションの仕事を諦めようと思ったことはないですし、同時にアートにも取り組んできました。私は少女時代、画家を目指していたのです。

ファッションの仕事もアート、そして私生活も含め、すべての経験が宝。そうした今までの蓄積を土台にして、88歳からの10年は新しいことにチャレンジするつもりです。

ひとつは、今までやってきたことのバトンを次世代に渡す活動。とくに若い世代に対してプラスになることを、事業としてやっていく予定です。

昨年は子どもたちに、洋服のデザインやスタイリング、撮影など、クリエイティブな体験をしてもらう東京都の事業「こどもファッションプロジェクト」の監修を行いました。そういった取り組みを、継続してやっていきたいのです。

また、今までの仕事の集大成として、2026年度に東京都現代美術館で大規模な展覧会を開く予定です。そこでも、過去の作品を展示するだけではなく、子どもたちと一緒に取り組む試みを考えているんですよ。

そして90歳からは、ファッションデザイナーではなく、「アーティスト」として新しい人生をスタートさせたいという夢を描いています。

そういえば、偶然目にした占いの本に、私は「信じた道をブルドーザーのような勢いで進む。欲求に忠実で、好きなことにはとことん情熱的。仕事では自信過剰な面もあるけれど、みんなのために力を惜しまず働くので、頼もしい……」などと書いてありました。まさにその通り! そういう性格だからこそここまで来られたんだな、という気がしています。

私は、これからの人生が楽しみでたまりません。まだまだ思う存分、全力投球で生きていきたいと思います。

婦人公論.jp

「ファッション」をもっと詳しく

「ファッション」のニュース

「ファッション」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ