ファッションにみる「LOVE」のかたちとは...新宿で企画展

2025年5月9日(金)15時0分 大手小町(読売新聞)

京都服飾文化研究財団(KCI)が所蔵する衣装コレクションなどを展示した「LOVEファッション−私を着がえるとき」が、東京・新宿の東京オペラシティ アートギャラリーで開かれています。18世紀から現代までの衣服や装飾品、美術作品など計約130点で、装いに見られる様々な「LOVE」の形や、人間が衣服を着ることの意味について考察する内容です。

鳥の剝製が装飾として使われた帽子(キャノティエ)

展示は、第1章「自然にかえりたい」、第2章「きれいになりたい」、第3章「ありのままでいたい」、第4章「自由になりたい」、最終章「我を忘れたい」の5部構成。

「自然にかえりたい」では、文明が高度に発達した現代でも、自然へのあこがれや敬愛の念に由来したものを身にまといたいという人間の願望に焦点が当てられました。20世紀前半に流行した鳥の羽根や剝製が飾り付けられた帽子(キャノティエ)や、人間の毛髪を素材とした美術家・彫刻家の小谷元彦の作品などが紹介されています。

キャノティエには、マミジロアジサシの頭部と、ギンケイの両翼、背の羽根があしらわれ、豪華な印象を与えています。しかし、英米では流行当時から、鳥類保護団体の結成や、鳥類の取引を規制する法案が成立されるなど、乱獲や売買を抑制する動きも盛んだったといいます。

デイ・ドレス「シガール」

「きれいになりたい」で取り上げたのは、ときに偏執的とも言える変わった造形への欲望に由来する作品群。

顔より大きく膨らんだ袖、締め上げられたウエスト、歩きにくいほど広がるスカート——。美しさへの願望に基づき、時に合理性を度外視したような、ほとんど芸術作品に近い衣服が並んでいます。

クリスチャン・ディオールが1952年に発表したデイ・ドレス「シガール」は、ウエスト下から張り出す特異な造形のスカート。複雑なパターンと厚めの生地で作り出され、同年の秋冬コレクションで発表された当時、「柔らかな金属」と評され、見る人々に衝撃を与えたそうです。

ヘルムート・ラングのショルダー・ストラップ

「ありのままでいたい」では、自然体のリアルな体を主役に据えたミニマルなデザインの衣服が展示されています。

ヘルムート・ラングが2003年に発表した、極限まで無駄をそぎ落したかのようなショルダー・ストラップは、白いシャツや黒のパンツといったアイテムと組み合わせて発表されました。

「服は無難であるべきでなく、過剰に目立つべきでもない」と語るデザイナーの思想が結晶化した作品と言えるでしょう。

「オーランドー」に触発された、コム・デ・ギャルソンのトップ、パンツ(写真左手前)

本展で最も華やかな印象を与える展示が、「自由になりたい」です。

英国作家バージニア・ウルフ(1882〜1941年)による20世紀モダニズム文学の傑作「オーランドー」(1928年)をテーマにしたコム・デ・ギャルソンの作品がずらり勢ぞろいしているからです。

性別や身分を変転しながら、300年以上の時を生きる「オーランドー」の主人公の姿に触発された2020年春夏コレクション、さらに、ウィーン国立歌劇場でのオペラ「オーランドー」の舞台衣装などが展示されており、これらを手がけたデザイナー・川久保玲の革新性と自由な精神への共感がはっきりと示されています。

国籍や階級など、様々なアイデンティティーによって形作られる「私らしさ」のお仕着せから逃れたいという願望が、ときに衣服に託されていることが分かります。

最終章「我を忘れたい」では、欲しかった服に袖を通すときの高揚感や、あの服を着たらどんな気持ちになるだろうという期待、さらには「こんな服が着てみたい」という願望などに焦点が当てられました。

フリルとリボンを用いてモビルスーツ(人型ロボット)のような形状を表したトモ・コイズミの「ジャンプスーツ」(2020年春夏)は、透け感のあるオーガンジーとポリエステルをふんだんに用いており、その愛らしさが目を引きます。

自作のジャンプスーツについて振り返る小泉智貴さん(右)

胸から腹部にかけて大きな唇が鎮座し、体を乗っ取ってしまっているかのようにも見えるロエベの2022年秋冬のドレスなど、服を着ることの楽しさやときめきを伝える作品が展示されています。

色彩も鮮やかなジャンプスーツを手がけた千葉県出身のファッションデザイナーの小泉智貴さんは、「移り変わりが非常に激しく、作品が短期間で消費されてしまいがちな現代のファッション界において、『変わらずに居続ける勇気』を与えてくれた、自分自身にとっても原点ともいえる記念碑的な作品です」と笑顔で語っていました。

会場内には、衣服だけでなく、美術作品も展示されています。AKI INOMATAの「やどかりに『やど』をわたしてみる‐Border-」は、大都市を模した貝殻を着がえるヤドカリを表現したもの。環境に適応し、進むべき場所を自ら選ぶ生物たちのたくましさが感じられます。さらに、マルセル・プルースト、アンデルセン、村田沙耶香、朝吹真理子、岡崎京子ら国内外の作家がファッションに関してつづったテキストも紹介されています。衣服と美術、文学を並列して展示することで、衣服の芸術的な側面にアプローチしている点が目を引きました。6月22日まで。(読売新聞メディア局 市原尚士)

大手小町(読売新聞)

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