<夜間の無人書籍販売>が好調!広がりを見せる「MUJIN書店システム」は本屋さんにとっての光となるのか

2024年3月4日(月)12時30分 婦人公論.jp


夜間の無人営業を始めた「山下書店世田谷店」。「今のところいい数字が出ている」そうですがーー(写真提供:トーハン)

減り続ける街の本屋さん。日本出版インフラセンターによると、2003年には20,880店あった書店数も、22年には11,495店と約半分に。町から本屋の灯を失わないために、できることはもうないのか——。プログラマーで実業家の清水亮さんとその方法を探る当連載、今回は書店の無人営業「MUJIN書店システム」を展開中の株式会社トーハン・株式会社Nebraskaのご担当者に話を聞いていきます。

* * * * * * *

トーハンが手掛ける「書店」とは


*以下
株式会社トーハン経営企画部部長 大塚正志さん=大塚
株式会社Nebraska代表取締役 藤本豊さん=藤本
清水亮さん=清水 
「婦人公論.jp」編集部=編集

編集:このところ、店員さんが常駐していない「無人店舗」を見かける機会が増えました。冷凍食品や古着などはもちろん、最近では「無人書店」もちらほら。今回お話をうかがうトーハンさん・Nebraskaさんが携わっているものとしても、既に23年から「山下書店世田谷店」「メディアライン曙橋店」で、24年3月中旬から「メディアライン大山店」で夜間の無人営業をスタートさせるそうです。

清水:連載通じて「本屋さんがこの先、生き残るための方法」を模索してきたなか、今回、はじめて大きな会社を取材するということで、興味が尽きないわけですが……。僕の認識では、トーハンさんは取次の会社というか、本の流通を手掛ける側のイメージだったけれど、小売りも手掛けているんですね。

大塚:小売りを始めて20年ほどになるでしょうか。ただ、我々が主体的に出店、というのではなく、法人単位で引き受けて運営している形がほとんど。経営が厳しくなった、後継者がいないといった、という書店さんから声をかけてもらい、まるごと引き継ぐケースが多いですね。店舗数として、全国で200店ほどあるでしょうか。

編集:本屋さんが実質、全国で1万店前後と言われる現状で、200というのはとても大きい。

かなりいい数字が出ている


清水:みなさんが携わっている「MUJIN書店システム」について、あらためて説明いただけますか?

藤本:山下書店世田谷店は夜7時から翌朝10時まで、メディアライン曙橋店は夜8時から翌朝11時までが無人営業で、それ以外は有人での営業を行っています。各店、無人営業開始の時間になると、自動ドアの前に立っただけではドアが開かなくなります。

清水:なるほど。

藤本:その店舗では、入り口のサイネージからQRコードを読み込み、初回は店舗のLINEアカウントと「お友達登録」を頂くとドアが開く仕組みとなっています。中に入ったあとは従来の本屋さんと同じですが、会計はセルフレジ、キャッシュレス決済のみの対応なのがその特徴です。

清水:無人だと万引きとかも増えそうですが……。そのあたりは、いかがでしょう。

藤本:当初からもちろん気にかけていて、無人営業を始めてからも確認しているのですが、日中と特に変化はない、というのが実際のところです。LINEアカウントを使わないと入店できないことが、ある意味で「デジタルの名札」になっているようで、セキュリティ面に一定の効果を発揮していると考えています。


MUJIN書店システムについて。LINEを使って入店し、キャッシュレスおよびセルフレジで会計を済ませる(提供:トーハン)

清水:無人である以上、徹底的に監視されている、という環境はお客さんもよくわかっているだろうし。特に治安が悪くないエリアであれば、問題なく成立しそう。導入した2店の売上はいかがですか?

大塚:かなりいい数字が出ています。山下書店世田谷店の実証実験期間(約4か月間)では、全国書店の売上前年比が94.5%のところ、106.6%と大きく上回る結果を挙げました。ただ今回の無人販売の試みは、この2店単体のものというより、ほかの書店さんで広げられないか、との意味合いが強いもので。年々経営が厳しくなっている本屋さんの生き残りの道を模索する「実験」でもあります。

清水:実験。

大塚:そもそもですが、書店において収支を改善する方法は限定的で、売上アップかコストカットの二つしかない。その意味で、今は営業していない時間帯に売り上げを作り、伸ばせたら、ということは以前から考えていて。方法を模索していたところにNebraskaさんからご提案をいただいた、ということになります。

藤本:もともと私と横山(Nebraska共同代表)ともに、本屋さんが大好きで。本屋さんのために何かできることはないかを検討し、具体化していくうちに本気になって二人でNebraskaを起業。この事業を手掛けるに至りました。当初、書評をシェアするSNSなども考えたのですが、無人化システムがやはり本屋さんの経営改善に直結すると。関わる私たちのビジネスとしても成立すると考えて、注力してきました。

無人店舗だから売れる本もある?


清水:好調なのであれば、今後はさらに広げていく、ということ?

大塚:あくまで23年度は実験として捉えていましたが、それで一定の成果が出たので、24年度から対応店舗をさらに増やしつつ、取引先の本屋さんにも提案していこうと考えています。


大塚さん「24年度から対応店舗をさらに増やしつつ、取引先の本屋さんにも提案していこうと考えています」(写真:本社写真部)

清水:売り上げが増える、といったポジティブな話がなかなか出てこない連載なので、なんだかうれしいな。衰退する文明を見届けるような企画になりつつあったので…。(苦笑)ちなみに無人だからこそ売れる本もあるんでしょうか?

大塚:無人だから、有人だから、というより、そもそも日中と夜間で書店のお客さんはガラッと変わります。たとえば午前中だと、年配の方と女性が多い。夜になると仕事帰りのビジネスマンの来客が増えます。なので、夜間の無人営業ではビジネス書が目立って売れていますね。

清水:それはいいな! これまでビジネス系の本を刊行してきた僕に、まわりまわって恩恵が。風が吹けば桶屋が儲かる……。エッチな本を深夜に買いにくる人なども、実は寄与していたり?

大塚:むしろ2店舗に、成人しか買えない本は置いていません。昼と夜で変えているのでもなく、もとから取り扱いしていないのです。ちなみに有人で24時間経営をしていて、大塚駅前の繁華街にある山下書店大塚店は、夜にそういった本の売り上げが高い傾向にあります。なので、夜間にそういった本の売り上げが伸びる可能性があるのは分かっているのですが、無人である以上、人の目が届きにくいことで生まれるリスクも考えなければいけない。

「家賃」と「人件費」


清水:そもそも今、街場の本屋さんでは、紙の本でちゃんと儲けが出ているのでしょうか? 僕自身、たくさん本を読まなければならない事情もあって、紙より電子で買う機会が増えている。でも出す側の立場で考えると、電子書籍はそこまでまだ売れてはいない。電子版が売れるには、まず紙の本で手に取ってもらえることが必要…という、パラドキシカルな状況に陥っていると感じています。

大塚:よく言われることですが、書店経営のハードルとは「家賃」と「人件費」。でも家賃は削りようがない。だから、人件費を削りに削って、書店員さんが食べられないような状況まで追い込まれた、というのが現在です。そんな厳しい状況の中であらためて考えれば、家賃を払っている以上、店舗そのものは、1日中使えるわけです。それで今まで閉まっていた時間帯で売り上げが発生するなら、それはやはり一つのチャンスですよね。

編集:初回に取材させていただいた双子のライオン堂さんも、二つのハードルについて触れていました。それを乗り越えるために、店舗となるマンションの一室をローンで購入し、書店営業以外に収入源を作った話をされていましたし、よく理解できます。さらに無人販売の時間を増やすことで人件費をさらに削る、という方向性もありうるのでしょうか?

大塚:もちろんそうした対策が有効なお店もあるかもしれませんが、我々がまず目指しているのは「今ある街の書店の経営を、この先もいかに成り立たせるか」ということ。そのためにも今のお客さんが離れるようなことはできるだけ避けつつ、夜間に新しい売り上げを獲得できる方法を提案したい。もし無人販売主体の店舗を作るなら、はじめから「そういう(=無人)お店です」という共通認識やコンセプトを打ち出して、ということになるでしょうね。

編集:私が住んでいる豊島区に、住民や企業から募ったアイデアをもとに事業化を進める「区民による事業提案制度」が昨年設けられまして。実は「無人本屋さんを街角につくったらどうか」と書いて応募したんですよ。

清水:え、この連載と関係なく?

編集:完全にプライベートです。(笑)これまでの取材を通じて知ったことでもありますが、街に本屋さんがあることで、周辺の雰囲気や治安が良くなったりする。一方で、うちの周囲の商店街はシャッター通りになっていますし、試す可能性はあると思って。

大塚:ショッピングモールが開店するときも、いいお客さんが付きやすいから「書店に入ってほしい」と、家賃含めて優遇されることが多いと聞きます。

本屋さんが沢山あったときから本を読んでいたのか、という疑問


清水:みんな本屋さんを好きなはずなんですけどね。コロナがあって、街に出かけなくなったのかな。

藤本:この間、本屋さんのライバルがますます増えた、ということは現実としてあると思います。とはいっても電子書籍がライバル、という意味ではまったくなく。動画配信やゲームなど、特にスマホの中に可処分時間を奪い合うライバルが増えた。手軽によりアクセスしやすい娯楽に押されている、というのが実態でしょう。


藤本さん「手軽によりアクセスしやすい娯楽に押されている、というのが実態でしょう」(写真:本社写真部)

清水:時間潰しの娯楽、という意味では「目も頭も使わずに楽しめる」ものに流れるのは仕方ない気もしますね。本だって、そういう役割を担ってきたのは事実だし。今考えれば、本屋さんに元気があった時でも、実際にみんなちゃんと本を読んでいたのか、と問われたらそれはどうなのかな、と。

編集:と申しますと?

清水:若い秘書が以前「新しく本棚を買った」というから、どんな大きな棚を買い直したのかと思ったら、そもそも家に本棚がなかったらしく。僕が定期的に本を出すから、それを持ち帰っているうちに棚が必要となり、やむなく一つ買った、ということだったそう。そんな話を聞くに従い、本屋さんがあっても無くても、はたして本を買って読むような読書習慣が、もともと自分たちの身についていたのだろうか…と疑問を覚えたりするんです。

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