「女の子たちの何かを搾り取っている…」“重たい地下アイドルオタク”だった女性(24)がチェキを何十枚も買いながら「罪悪感」を感じていた理由
2025年3月8日(土)12時0分 文春オンライン
地下アイドルになけなしの月10万円をつぎ込むオタクだった10代の時期を経て、自分も地下アイドルとして活動していた出窓なもさん(24)。
2023年3月21日に所属グループ「ポエトリープ」の解散にともなってアイドル活動終了後、丸2年かけて書いたnoteの「アイドルとオタクはしょせんお金で繋がれた関係なのか」という問いかけが話題になり、地下アイドルという業界の“狂気”の実態は多くの人を驚かせました。
友達がいなくて和式トイレで立って昼食を食べていた高校時代、オタクと地下アイドルが払う「対価」について、地下アイドルが辞めるのはどんな時か……。「推す側」と「推される側」の両方を知る出窓さんに話を聞きました。

「私、高校時代はいわゆる便所飯で、トイレでご飯を食べてました」
——出窓さんは何歳くらいから地下アイドルを推すようになったのでしょう。
出窓 もともと80年代のアイドル時代の松田聖子さんが好きでした。でも高校生になったくらいから、女性の地下アイドルグループを好きになりました。最初は松田聖子さんと同じように憧れ目線で見てたんですけど、だんだん自分を投影するようになってハマりました。
——自己投影ですか?
出窓 私、高校時代はいわゆる便所飯で、トイレでご飯を食べてました。人と話すのが苦手で、友だちができなかったんです。教室にいると目の前で悪口を言われることもあったので、昼休みになると他の生徒があまり寄り付かない旧校舎のトイレに籠っていました。そこは和式トイレだったので、立ったままお弁当を食べていたんです。
——それは辛い高校生活ですね。
出窓 私は「レッツポコポコ」という地下アイドルを“推し”ていたんですけど、私の推しメンバーも周りの人に上手く合わせられなかったり落ち込みがちだったりして、自分とあまり変わらないように見えたんです。そんな子が頑張ってステージ上で輝いているのを見ると、何か言われても言い返せないでいる自分の代わりに叫んでくれてるように感じました。“推し”は光みたいな感覚でした。
——ライブには行きましたか。
出窓 東京の高校だったので電車に乗れば行ける距離だったんですが、家が厳しくて行かせてもらえませんでした。でも高校3年生の時に「レッツポコポコ」が解散することになって、解散ライブの時は親に嘘をついて渋谷のライブハウスまで行きました。お小遣いを握りしめて。
——実際に見た“推し”はどうでしたか。
出窓 門限があったからアンコールまでは聴けなかったんですけど、それでも私にとっては神様みたいな存在だったので、彼女が目を合わせてくれてすごく感動しました。
——推しグループの解散後は?
出窓 高校生の頃に「みんなのこどもちゃん」という2人組を推すようになり、大学生になってから本格的に通いはじめました。「人との関わりをうまく作れない『壁』を持つ生きにくい子どもの心の叫びを歌にする」というコンセプトで、ライブでもいつも大きな看板を背負っている姿がやっぱり神様みたいで。
——十字架を背負うキリスト、みたいな。
出窓 まさにそうですね。育った家がクリスチャンの家だったので、ついそういう連想はしてしまいました。でも実際、渋谷駅から道玄坂の上にあるライブハウスまで衣装や小道具が入ったキャリーケースを持って登るのが大変で、あの坂を「ゴルゴダの丘」って呼ぶ運営の人もいるんですよ。
「月に10回通えば、あっという間に10万円ぐらいなくなりますね」
——大学生になるとライブにも通えると思うんですが、お金も使うように?
出窓 アルバイトのお給料を全部使うくらい、月に数万円は使っていたと思います。
——リアルな額ですね……。その内訳は?
出窓 「みんなのこどもちゃん」はライブのチケット代がだいたい3000円で、ドリンク代600円。ライブ後の「特典会」でのチェキは1枚1500円でした。いつも3、4枚は撮るので1回のライブで1万円くらいは使ってました。月に10回通えば、あっという間に10万円ぐらいなくなりますね。
——あっという間に。
出窓 それと別に、月に1回は「通販チェキ」もあります。ライブ衣装と違う特別な格好で、メンバーが凝ったメッセージを書いてくれるんです。最後の1枚を買えた人におまけがつくこともあって、それを目当てに“積む”(複数買い)こともありますし、地方公演があれば遠征費もかかります。
——費用はどう工面していたんですか。
出窓 大学は実家から通っていて生活費はかからなかったので、メイドカフェやコンカフェでアルバイトしてそのアルバイト代を全部使っていました。
感じた価値をお金で示さなきゃいけない気持ち
——なぜそんなにたくさんチェキを買うんでしょう。
出窓 正直に言えば、何十枚も買う必要は全然ないんですよね。私はその子の歌に救われていたから、ライブに行って曲を聴ければ、それだけで帰ってもよかったんです。私は会話も苦手なので10分とか一緒にいても逆に困ってしまったり。
——それでも買ってしまう?
出窓 「その子の歌を聞き続けるためにはお金を落とさなきゃいけない」と感じてたんだと思います。純粋に「好きだから行く」で楽しめるのが理想なんでしょうけど、私は「あなたにこれだけの価値を感じてます」っていうのを、お金で示さなきゃいけない気持ちがどこかにあった気がします。それに、心苦しい気持ちもありましたし。
「若い女の子たちの何かを搾り取っている」という感覚
——どういうことでしょう。
出窓 地下アイドルの女の子たちはみんな若くて、ファンはかなり年上の人が多いです。その環境の中で「与えてもらっている」というよりも、「彼女たちの何かを搾り取っている」感覚がずっとあったんです。
——ファンの出窓さんが、アイドルから何かを搾り取っている。
出窓 そうです。どうしても地下アイドルは、コスプレをしたチェキを売ったり、配信を夜中までやったり、ライブ以外の活動もあります。それを求めたり対価を支払ったりするのが、「あなたの需要はこれだよ」と言っている気がして、アイドルを消費している罪悪感が消えませんでした。私が年下の幼いアイドルを推せなくて、年上ばかり好きになったのも自分なりの「幼い女の子を消費しちゃいけない」という線引きだったんだと思います。
——出窓さんにとって“推し”とは、どのような存在だったんですか。
出窓 私はかなり思いつめた重たいタイプの地下アイドルファンだったと思います。自分の人生があって、そこにプラスアルファを与えてくれる娯楽としてじゃなくて、自分の人生のマイナスを埋めてくれる存在として地下アイドルを推していたような気がします。あの頃はライブに行ってる時だけが「生きてる」と感じられる時間でした。
〈 「推す側」から「推される側」に転身した元地下アイドル女性(24)が痛感した、両者が払う“大きすぎる対価”「オタクは4600円、アイドルは自分の人生を…」 〉へ続く
(加山 竜司)
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