趣里、大衆演劇の“大家族”に感じた美しさ「忘れかけていたものが見えた」
2025年3月15日(土)18時0分 マイナビニュース
●収録後第一声「いろんなことを思いました」
女優の趣里が、フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00〜 ※関東ローカル)のナレーション収録に臨んだ。担当したのは、9日・16日の2週にわたりに放送される『われら旅芸人の大家族〜僕とわたしの生きる道〜』。令和の時代に「大衆演劇」の世界に人生を懸ける旅一座「劇団暁」の姿を追った作品だ。
16日放送の後編では、客入り減少に頭を抱える一座や、巡業に出る役者12人のうち10人が血縁の「劇団暁」にあって、一般家庭から劇団入りした役者たちの姿、そして劇団の“総合力”がフォーカスされる。ナレーションで見守った趣里は「何だか、忘れかけていたものが見えた気がしました」と笑顔を見せた——。
○仕事へ向き合う姿に「こうあるべきだな」
この日、前編と併せて2本続けて長丁場のナレーション収録になった趣里。ブースから出てくると「何か、いろんなことを思いました」とゆっくり椅子に腰かけた。
「自分も表現をしている人間なので、前編、後編とも、出てくる言葉がとても響いたこともありますし、そもそも“何を仕事にしている”とかではなく、“どう生きていくのか”、人生を歩んでいくときに持っている志といったものが、とても胸に来ました」
また、「日本の文化というか。歌舞伎から演劇が始まって…といった伝統についても考えました。その伝統となっているこの仕事を守っていくということ。同時にそれが“好き”であること。さらにそれが家族を守っていくことでもある」と、本当に様々なことを考えさせられた様子。
「劇団暁」は、座長を務める兄・夏樹さん(44)と弟・春樹さん(41)に、その子どもたちの血縁が12人の役者のうち10人を占める。逆に言えば2人は血縁ではない。
「家族を守っていくということに関しては、若くして座長を任されている暁人さん(夏樹さんの長男)はもちろん、一般の世界から入ってきた大樹さんたちもこの仕事を素晴らしいと誇りを持って続けている。大樹さんの仕事へ向き合う姿に、自分も含めて、こうあるべきだなというものをすごく感じました」と趣里。
「あとは、まだ10代の若い楓馬くんの“お金なんて関係ない、ただ楽しければいい”という感じも分かるし、印象的でした。いろいろあるんですけど、楓馬くんなりにすごくやりたいという気持ちがあってなんですよね。辞めたいとかではない。そして、それを職業にして責任を持ってだんだん成長していく姿が見える。すごく楽しみだなと」と、血縁ではない大樹さんと楓馬くん、2人のエピソードもそれぞれ印象に残ったようだ。
●エンターテインメントは世の中に絶対必要
一方で、劇団はコロナ禍や時代の波に押され、苦境に立つ。栃木県塩谷町にある芝居小屋「船生かぶき村」も老朽化。先代から代表を継いだ春樹さんは、改革に乗り出していく。そこには完全アナログだった事務作業などのデジタル化も含まれる。
「劇団暁」の役者だが、現在は「船生かぶき村」に常駐し、主に裏方を取り仕切るきよ美さんは、苦手なパソコン作業に向き合わねばならない。それもこれも、一座を守っていくため。苦労は尽きないが、「劇団暁」からは強さが伝わってくる。
「すごく心に残ったのが、春樹さんの“劇団暁の魅力は総合力”という言葉です」と趣里。「誰かしらがすごく突出しているわけではなく、、総合力が優れていると。その、世代を超えて、一体化している感じがとても伝わってきました。外側を向いている人がいない。お客さんが少ない日があったり、苦しいことが中ではあったとしても、みんなが同じ方向を向いている。それを感じて、すごくいいなと」
それもやはり上の世代の、大衆演劇そして劇団への思いが伝わるからだろう。
趣里は「外部の子が公演を観て“こうなりたい”と思って入ってくるってすごいですよね」と漏らす。“思い”の継承に血縁は関係ないのだ。前編では、当初は「やらされている感がして舞台が好きではなかった」と言っていた暁人さん(26)が、ゲストに来た早乙女太一が観客を熱狂させる姿を見て、「俺もこうなりたい!」と、そこからはっきりと意識が変化したことを語っていた。
そしてその暁人さんも若い者の人生を変えた。楓馬さんは、あるとき公演で、暁人さんを観て「こうなりたい!」と門を叩いたのだ。それも「暁人さんの姿が楽しそうに見えたから」だという。
「夢を与えているわけですから。すごい職業だなと」と趣里。「自分もこれって何か意味があるのかなとよぎることもあるんです」と胸の内を明かしつつ、本編で映し出される、舞台中の客席や公演後に感想を語る観客の姿に「こうやってお客さんの顔を見ていると、やっぱりエンターテインメントは世の中に絶対必要なんだと再確認しました」とうなずきながら加えた。
「舞台のライブ感はやっぱりいいなと。自分が音楽などのライブに行く側の立場でも、気持ちが高揚する感じは、やっぱりそこでしか味わえないものというのがあります。それって何ものにも代えられないものだから、観に行く人がハマっちゃうのも分かります」
○22歳の輝きに感じた懐かしさ
演者として、前後編を通じてフィーチャーされる劇団暁では女性初の「花形」(看板役者)となった愛羅さん(22)のまっすぐさが、心に触れたとも。
「愛羅さんが、“人前で何かをしているときは、生きているって感じられる。そんな私のすることで誰かが喜んでくれたらもっとうれしい”と言ってましたが、自分がやっていることに対して、私も確かにそう思っていたなと。もちろん今もそう思っていますけど、今は自分の役割とか、ほかにも考えることが多くなりました。だから20代の、22歳の彼女のこの輝きは何だか懐かしいなと思いました」
そして、「好きなことを仕事にして、だんだんいろんなことへの意識が芽生えてきて背負っていく。みんなができるわけではないし、大変ではあるけれど、でも美しかったなぁと」と収録を噛みしめ、「ナレーションの最後に、ある文章を読ませていただいたのですが、たしかにそうだなと。何だか、忘れかけていたものが見えた気がしました」と笑顔を見せていた。
●趣里1990年生まれ、東京都出身。11年に女優デビュー。NHK連続テレビ小説『ブギウギ』でヒロイン・福来スズ子を演じて高い評価を得た。近年の主な作品に映画『生きてるだけで、愛。』(日本アカデミー賞新人俳優賞ほか受賞)、『空白』『ほかげ』、ドラマ『ブラックペアン』シリーズ、『東京貧困女子。-貧困なんて他人事だと思ってた-』『モンスター』など。舞台に映像にと幅広く活躍する人気実力派。25年エランドール賞「新人賞」受賞。
望月ふみ 70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビュー取材が中心で月に20本ほど担当。もちろんコラム系も書きます。愛猫との時間が癒しで、家全体の猫部屋化が加速中。 この著者の記事一覧はこちら