樋口恵子×和田秀樹「高齢患者が増えて薬を多く出す時代、専門診療科より必要なのは…」。<高齢化社会でのいい医者>の定義を考える

2024年3月18日(月)6時30分 婦人公論.jp


和田先生「総合的な視野を持つ医者が<いい医者>」(写真提供:Photo AC)

厚生労働省が公開している『令和2年版 厚生労働白書』によると、2040年の平均寿命は男性83.27歳、女性89.63歳と推計されるそう。そこで今回は、老化を受け入れて「うまく老いる」コツを、評論家の樋口恵子さんと精神科医の和田秀樹先生の対談形式でお送りします。和田先生は超高齢社会のいま、「ひとりでいろんな診療科を診ることができる総合的な視野を持つ医者がいい医者だと思います」と言っていて——。

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高齢者に必要なのは専門医より総合診療医


樋口 年をとると医者にかかる機会が増えていきますが、いい医者に出会えるかどうかで、その後の生活の質と言いますか、充実度も違ってくるように思います。でも、その「いい医者」っていうのがクセモノでね。高齢者にとっての「いい医者」の定義ってなんなんでしょう?

和田 まず、大前提として言えることは、今は超高齢社会ですから、ひとりでいろんな診療科を診ることができる総合的な視野を持つ医者がいい医者だと思います。

1970年当時、日本は人口に占める高齢者の割合が7%だったんです。7%を超えたことで、日本は初めて高齢化社会になりました。そして、94年に14%になって高齢社会になり、2010年には超高齢社会の定義とされる21%を超えて23%となり、そこからさらに伸びて、現在の高齢化率は29.1%です。

人口構成が若かったころは、40代、50代の患者さんが多数を占めました。この年代の人たちはひとりで病気をいくつも抱えているということはほとんどないので、臓器別の専門診療科でうまくいっていました。医学も、臓器ごとに専門性を高めていく方向に向かって正解でした。

ところが、高齢者が多い時代になると患者さんも70代、80代が増えてきました。高齢の患者さんの特徴は、高血圧で内科を受診し、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や腰痛などで整形外科を受診し、過活動膀胱(ぼうこう)で泌尿器科を受診し……というようにひとりで複数の病気を抱えることになります。

薬の副作用


和田 そうしたなかで、それぞれの診療科の医者が診療し、薬を出すと、しぜんと薬の量が増えます。なかには複数の薬の相互作用によって不具合が生じたり、低血糖や意識障害を起こすこともあるのです。たとえ内科の医者であっても、自分の専門だけに閉じこもっていては、現実の患者さんに対応しきれなくなります。

こんな例があります。ある高齢者が、心不全を診てもらっている医者に、「最近、胸のあたりが痛い」と訴えました。いろいろ調べても原因がわからず、医者は「あまり気にしないように」と言って診療を終えました。

その患者さんは変形性膝関節症があり、別の病院の整形外科に通い、痛み止めの薬を処方されていました。実は、胸のあたりの痛みは、痛み止めの薬の副作用によって胃に潰瘍ができたことが原因だったのです。

ある日、血液を含む吐瀉(としゃ)物を嘔吐して救急搬送され、ようやく原因がわかったというのです。こうした例でも、総合的な視野を持つ医者がいれば、胃潰瘍を悪化させることは防げたかもしれません。

専門診療が染みついている


樋口 現代は高齢社会ですから、当然、そういう総合的な視点を持つお医者さんはたくさんいるということですね?

和田 それが、残念ながらそうではないのです。イギリスではジェネラル・プラクティショナーという総合診療医と、ひとつの臓器を診る専門家がいて、まず総合診療医にかからないと、専門の診療科にかかれないしくみになっています。総合診療医と専門診療科の医者は、ちょうど半々くらいの割合です。日本でも、かかりつけ医というのがいますが、その役割を果たせていません。


和田「日本は世界トップレベルの超高齢社会になっているのに、いまだに専門診療科の医者ばかりを育てているんです」(写真提供:Photo AC)

総合診療医は増えてきたとはいえまだ数は少なく、相変わらず専門の診療が広く行われています。板橋区にある東京都健康長寿医療センターですら、高齢者の専門病院と言いながら臓器別診療なんです。

専門診療科はますます専門化し、診療科ごとの縄張り意識や縦割りは、どんどん強くなっています。私はこんな調子で、言いたいことを本に書いたり発言したりしていますが、医者向けのサイトでぼろくそに私を批判する人の多くが「専門外のくせに、おれたちの仕事に口を出すな」という言い分です。もう、骨の髄まで専門診療が染みついているのです。

日本は世界トップレベルの超高齢社会になっているのに、いまだに専門診療科の医者ばかりを育てているんです。医療は超高齢社会対応にはなっていない。そのしわ寄せを受けているのが、当時者である高齢者です。

樋口 医者は勉強しなくても免許は一生涯有効なわけですが、専門診療科の医者が3年間くらい、有給でもいいから、総合診療を学べるトレーニングの期間を設けたらいいと思いますね。

和田 私も同感です。

いい医者を探すのに最初にすること


樋口 いいお医者さんに出会うのは、なかなかの難関だぞと思えてきました。

どうしたら、いいお医者さんを見つけられますか? 私はもうとっくに過ぎてしまったけれど、75歳くらいの後期高齢者で、子どもたちも近くにいるひとり暮らしのバアさんだと仮定すると、どういう手順から始めましょうか。

和田 ひとつは、お子さんの力を借りてでも、インターネットで、まあまあ評判のよい病院を調べる。手術成績の善し悪しとかはネットでも本でも調べられます。

樋口 新聞なんかにもよく出ますけれど、「成功率」が目安になりますか。

和田 ある程度なります。でも本当に腕のいい医者のところには、難しい手術が来ることがあるので、意外に成功率が上がらないこともあるのです。「手術数」のほうが、参考になるかもしれません。病院の規模が大きくなると手術数は増えますが、インターネットで医者を検索して受診する時代ですから、手術数の多さは人気の高さを示す目安になると思います。

2つ目は、まだ元気なうちだったら、やっぱり「ドクターショッピング」をするのがいいと思います。病院の数が限られる地方では難しいかもしれませんが、病院の多い都市なら自分にとっていい医者を選ぶことができます。

樋口 ドクターショッピングって、嫌われませんか?

和田 自信のある医者なら気にしないと思います。私は気にしません。

※本稿は、『うまく老いる 楽しげに90歳の壁を乗り越えるコツ』(講談社)の一部を再編集したものです。

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