父・中村勘三郎を亡くして12年。「父が死んだら変わってしまうんだ」と思ったこともあったけれど、できることを必死にやって【勘九郎×七之助】

2024年3月26日(火)12時30分 婦人公論.jp


兄の中村勘九郎さん(左)と、弟の七之助さん(右)(撮影:岡本隆史)

十八世中村勘三郎さんが亡くなってから今年で12年。息子の中村勘九郎さん、七之助さんは、十三回忌追善興行の真っ最中です。ともに舞台に立つ子どもたちの成長を眺めながら、2人の胸に去来する思いとは——(構成=篠藤ゆり 撮影=岡本隆史)

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父を愛してくれた先輩方に助けられて


勘九郎 2月から歌舞伎座を皮切りに、父の十三回忌追善の公演が始まりました。この1年はありがたいことに、10月までさまざまな公演が予定されています。父がいなくなってから12年、あっという間でしたね。

七之助 生きていたら、今68歳。いくらなんでも早過ぎた。

勘九郎 亡くなってすぐの頃は、悔しい思いもしたね。役がつかなくなるし、気がつくと周りから人がいなくなっていたり。

七之助 父はプロデューサーとしての感覚に長けていて、若い人にも歌舞伎を観てほしいという思いから、チケット代をなるべく抑えるよう興行主側と交渉していたんです。でも、父が亡くなったらチケット代が上がってしまって……。

今になって思えば興行主側の事情も理解できるのですが、当時は僕たちの心も弱っていたので、つい「父が死んだら変わってしまうんだ」という捉え方をしてしまうところもありました。

勘九郎 なんとか自分たちにできることをやっていこうと、必死だったね。

七之助 ありがたいことに、(片岡)仁左衛門のおじさまや(坂東)玉三郎のおじさまをはじめ、父を愛してくれた諸先輩方が僕らを助けてくださいました。仁左衛門のおじさまが2014年12月に京都・南座で行われた顔見世興行に呼んでくださったり。

勘九郎 そうだったね。昨年5月の平成中村座姫路城公演では、『天守物語』を上演させていただきました。

七之助 『天守物語』の富姫は46年間、玉三郎のおじさまが演じてらした役。物語の舞台である姫路城で公演を行ったからこそ、実現した演目です。そうでなかったら、畏れ多くて手を出せなかったと思います。

勘九郎 現地では、ほぼ11時間ぶっ通しで稽古。玉三郎のおじさまの熱血指導、本当にすごかった。

七之助 快く演出まで引き受けてくださり、富姫役の僕の指導だけではなく、姫川図書之助(ずしょのすけ)役の中村虎之介の指導から照明のことまですべてを細かく見てくださって。惜しげもなくいろいろなことを教えていただき、僕にとっての宝物となりました。

勘九郎 ちょうど今、歌舞伎座で上演している『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)』には、仁左衛門のおじさまが出てくださっています。

父と仁左衛門のおじさま、玉三郎のおじさまが共演した14年前の『籠釣瓶』は本当に素晴らしかったし、いつか自分も、と思っていました。十三回忌追善で七之助と一緒にできるのは本当に嬉しいし、父も喜んでくれているんじゃないかな。

七之助 僕らは、兄弟で立役と女方を演じているのも強み。それによって、演目の幅も広がっていったと思います。

勘九郎 父も生前、それはよく言っていた。中村屋にとって大きなことだから、兄弟仲よくしなさいと。

七之助 そこに兄の長男の勘太郎、次男の長三郎が加わって。

勘九郎 もちろん鶴松をはじめ、中村屋一門の力も大きいね。


「僕は《叔父バカ》で、もう可愛くって可愛くって仕方ないので、稽古の時も二人をほとんど叱れない(笑)」(七之助さん)

持ち味が違う二人の息子たち


七之助 勘太郎はもう13歳になったんだっけ。

勘九郎 2月22日で13歳。長三郎は10歳になった。父は勘太郎が1歳の時に亡くなったから、二人とも生前の父を知りません。でも、父の映像は、初舞台の時から残っています。二人は笑いながらずーっと見ている。

七之助 僕は《叔父バカ》で、もう可愛くって可愛くって仕方ないので、稽古の時も二人をほとんど叱れない(笑)。厳しいことは兄に任せて、ひたすら、じ〜っと見守っている感じです。

勘九郎 2月の歌舞伎座公演で、勘太郎は『猿若江戸(さるわかえど)の初櫓(はつやぐら)』で初主演をつとめますが、今までより台詞量も多い。

七之助 長三郎は初めて『連獅子』に挑戦するね。

勘九郎 そう。稽古の時には、二人とも本当に一日、一日、集中していた。前日に言われたことを自分なりに分解して、翌日の稽古で出してきているのを見ると、いい姿勢だなと思います。厳しい稽古の時もあるけれど、二人とも楽しむ心を失わないのは見ていてわかるし。

七之助 勘太郎は普段から9割は、歌舞伎のことを考えている。小さい頃の映像を見ると、物心つかないうちから見得を切るなど、僕たちを驚かせるような歌舞伎小僧。歴史も好きで、父の生まれ変わりじゃないか、という感じがする。

勘九郎 時々ふっと、父と同じ目をするよね。この間も、台詞を言いながらパッと睨んだ目が、父そっくりで。

七之助 そうそう。びっくりする。長三郎は本名が哲之(のりゆき)といいますが、突然「ノリワールド」が始まることがある(笑)。固まって身動き一つしなくなったり。変わったヤツというか、面白い感覚の持ち主。

勘九郎 普段はファニーな男だけど、稽古着を着て「お願いいたします」と言った瞬間から、別人格になる。スイッチの入り方がすごい。22年に宮藤官九郎さん作・演出の新作『唐茄子屋 不思議国之若旦那』を上演した時も、爆発力とイマジネーションがなかなかのものだった。

七之助 歌舞伎の新作は、一般的な演劇より稽古期間が短いけれど、その中で毎回、なにかしら思いついたことにチャレンジしようとするから。

勘九郎 長三郎はそういう真面目さ、歌舞伎に対する真摯さが父に似ている気がします。かわいそうな時代に生まれたなと思うのは、コロナでしばらく新年のご挨拶回りが禁止になっていたでしょう。おかげで二人ともこの4年ほど、お年玉をまったくもらっていない。(笑)

七之助 確かに。

勘九郎 そういえば昨日、長三郎が漫画『HUNTER×HUNTER』の「軍儀」のグッズを指さして、「2月の公演終わったら、これをもらおう」と、僕に聞こえるように言ってた。

七之助 アハハハ。

<後編につづく>

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