愛子さまが卒論のテーマにした皇族女性「式子内親王」とは?平家全盛から源平合戦までの<平安末期>を生きた波乱の人生について日本史学者が解説

2024年4月4日(木)18時57分 婦人公論.jp


(写真提供:Photo AC)

大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。ドラマの放映をきっかけとして、平安時代にあらためて注目が集まっています。そこで今回、先日注目を集めた皇族女性「式子内親王」について、日本史学者の榎村寛之さんに解説をしてもらいました。

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式子内親王とは


最近、式子内親王(1149-1201)という源平合戦の頃を生きた皇族女性がちょっとした話題になった。敬宮愛子内親王殿下の卒業論文のテーマになったのである。

と言っても彼女はもともと、そこそこの知名度のある歌人であった。

『百人一首』では持統天皇と並んで二人だけの皇族女性の歌人であり

〜玉の緒よ絶えなば絶えね永らへば忍ぶることの弱りもぞする〜

(私の魂よ 絶えるのなら絶えてしまいなさい、いたずらに長生きしてしまうと、あの人のことをお慕いする気持ちを忍ぶのが弱って、表に出てしまうだろうから。)

は、比較的覚えやすい歌なので、得意札にしている方も少なくないだろう。

しかし式子内親王が具体的にどんな人なのか、あまり知られていないのではないだろうか。今回はそれをまとめておこう。

11歳で賀茂斎王に


式子の父は後白河院。彼女はその第三皇女である。


『謎の平安前期—桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年』(著:榎村寛之/中公新書)

平治元年(1159)。平安時代の幕引きの始まりといわれる平治の乱が起こった年に、11歳で賀茂斎王となった。

「賀茂斎王」とは、伊勢神宮に仕える「伊勢斎王」と同様、未婚の皇族女性がいわば天皇の代理として神に仕えるもので、9世紀前半に始まった制度である。

斎王は天皇即位の直後に、海亀の甲羅を焼いて占う「亀卜」で選ばれるのが建前だが、賀茂斎王の場合、数代の天皇にわたって一人の斎王が仕えることもあった。

伊勢と違い、京にごく近いという親近感もあったのだろう。その御所も斎王の宮殿「斎宮」ではなく、斎王の邸宅「斎院」と呼ばれ、伊勢と賀茂の斎王を呼び分ける時には、斎宮の誰々内親王、斎院の誰々内親王、などと言うようになった。

その全盛期は、円融天皇から後一条天皇まで五代、道長全盛時代を共に生き、文学サロンの女あるじで、自らも歌人だった大斎院と呼ばれた村上天皇の皇女、選子内親王の時である。

文学サロンを開設していた形跡がない


さて、式子は二条・六条・高倉三代の天皇の斎院として奉仕し、嘉応元年(1169)に、病のため退任した。時に21歳なので、その頃までには皇族としての一応の教養は積んでいたと思われる。

そして彼女は特に和歌の才能に恵まれていた。彼女にとっても幸運は、おそらくその頃までに生涯の歌の師となる藤原俊成と出会っていることだろう。

ところが彼女には一つの特徴がある。選子内親王のように文学サロンを開設していた形跡がないのである。

そのため、どういう状況で和歌を詠み貯めていったのかがよくわかっていない。私歌集の『式子内親王集』などに400首ほどの和歌が伝わるくらいである。

しかしその中で『新古今和歌集』には49首、勅撰和歌集全体では120首以上の歌が採られている。勅撰集に載るだけで歌人として著しい名誉なのに、この数と採択率は驚くべき高確率である。

同時代の歌僧西行(1118-90)でも2300首ほど伝わる作品で勅撰集に載ったのは265首で11.5%にとどまっている。

夕映えの中の弓張月のような存在だったのかも


彼女の生きた時代はまさに平家全盛期から源平合戦の頃で、同母兄弟に以仁王や亮子内親王がいる。

以仁王は治承四年(1180)に全国の反平家勢力に蜂起を促して挙兵したことで知られている。

亮子内親王は伊勢の斎王になった姉で、退任後に大きなサロンを持ち、殷富門院という女院(女性で太上天皇に準ずる地位)になり、源平合戦の時代にもニュートラルな立場を保ち続けた。

式子にはそんな目立つ動きはなく、戦乱の時期には、叔母で当時の権力者の一人、八条院暲子内親王の庇護下にあったとみられている。しかしその晩年は、八条院を呪詛した疑いをかけられるなど、決して平穏とは言えないものだった。

そして賀茂斎院は式子の後、次第に途切れ途切れになり、彼女が亡くなった二十年ほど後、承久の乱の混乱期に廃絶してしまう。

伊勢斎宮が国土を照らす太陽なら賀茂斎院は京を照らす月。

大斎院選子が道長政権の栄華を照らす満月だとすれば、式子内親王は平安時代の夕映えの中の弓張月(三日月)のような存在だったのかもしれない。

婦人公論.jp

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