6月にリサイタルを開くピアニスト、アリス=紗良・オット…ロマン派を予感させるフィールドとベートーベン
2025年4月18日(金)17時0分 読売新聞
フィールド ノクターン全集(DVD付き限定版。グラモフォン)
国際的に活躍するドイツ在住のピアニスト、アリス=紗良・オットが6月に来日し、同時代を生きた2人の作曲家、ジョン・フィールドとベートーベンのピアノ曲を組み合わせたリサイタルを開く。プログラムの意図や、フィールドの作品への思いを聞いた。(松本良一)
「忘れられた作曲家と不滅の楽聖、対照的な2人の生涯を通して18世紀古典派から19世紀ロマン派への移り変わりを実感してほしい」と語る。
フィールド(1782〜1837年)は、アイルランド生まれでロシアで活躍した。ピアニストとしても知られ、後にショパンの作品で有名になる「ノクターン(夜想曲)」というジャンルを作ったとされる。ベートーベン(1770〜1827年)と直接の接点はなかったが、その関係性に注目した。
「フィールドが18曲残したノクターンは、メランコリックでノスタルジーにあふれた曲想や軽やかで即興的な装飾音などが特徴です。ところが、そこから思い起こすのはショパンではなくベートーベンなのです」
その理由は、シンプルで親しみやすいメロディーにあるという。「感情表現豊かですが、感傷的にならない。まるでモーツァルトみたい」。だから大げさな身ぶりを避け、楽譜に忠実で謙虚な演奏を心がけた。その成果は、ドイツ・グラモフォンから発売された「フィールド ノクターン全集」で聴くことができる。
今回はフィールドのノクターンから9曲と、ベートーベンのピアノ・ソナタ第14番「月光」、19番、30番を弾く。意表をつく組み合わせだが、ベートーベンのロマンチックな面に焦点を当てれば共通点も見えてくる。「たとえばノクターン第9番は、左手の三連符がベートーベンの『月光ソナタ』第1楽章を想起させる。弾いていると幸せな気持ちになります」
端正なたたずまいながら、古典の枠に収まらない感情表出が音楽の底流にある。時間をかけて練り上げたプログラムからは、来たるべきロマン派の響きを感じ取れるだろう。
6月29日午後2時、東京・赤坂のサントリーホール。(電)0570・00・1212。